サンソン、みんなでお茶を飲む
「お待たせしました」
のんびりとサンソン神父は言い、シャルルがお茶の入ったカップ、アンリはさっき商店で買ってきたお菓子を持ってきた。
すでにテーブルと椅子を用意して座っている警察の方やシエルとダニエルの前にお茶を出した。すると「ノアの分は?」と聞いてきたので、サンソン牧師は「あ、忘れていた」と答えた。悪意によるものではなく、倒れて休んでいるので数に入れてなかったのだ。
だがダニエルは「全く」と言い、キッチンに入った。そしてノアの分を作ったら、自分の分のカップを持って「俺が持って行く」と言って、ノアの所に向かった。
それをシエルは普通の顔をして見ていた。それをシャルルは不思議そうに見ていた。
警察の方が一口飲むと「おや、なんか不思議な味だ」と言って、目をぱちくりさせた。
「紅茶じゃない」
「そうなんですよ。これ、ヨフギの葉です」
得意げに答えるアンリに警察の方は「え? ヨフギの葉?」と言った。
「贅沢ですね。ヨフギの葉って薬に使うものでは……」
「色が濃い葉は薬に使うんですが、黄緑色のヨフギの葉は薬としての効力が弱い。だから都市部の医者は茶葉にして使うんですよ。苦みがあるけど、砂糖を入れれば飲めなくない」
「ふうん、なるほど」
「毎日飲んでいる医者は病気知らずですね。意外と風邪予防になるんじゃないかとかも話していました」
アンリの話しにシャルルは不満げに「そういう事、薬屋さんは教えてくれなかったけど」と言った。
「薬屋も商売だからな。それに医者が黄緑色のヨフギの葉を茶葉にして飲みだしたのは最近だから」
シャルルとアンリの話しをシエルは興味深そうに聞き、お茶を一口飲んで「うん、美味しい」と呟いた。
穏やかな会話をしているとサンソン神父は「そう言えば」と警察の方に話しかけた。
「墓に埋めた棺桶を出すには、どういった手続きが必要ですか?」
サンソン神父の言葉に全員が顔を引きつらせた。だが戸惑いながらも警察の方は「そうですね……」と言って答えていった。
シャルルはちょっと呆れたような顔をしているとシエルが「あの、シャルルさん」と話しかけた。それをサンソン牧師は埋めた棺桶を出す手続きについて会話をしながら、聞く。
「ノアについてお話しをしてもよろしいでしょうか」
シエルの申し出にシャルルは不思議そうな顔をしたが、「あまり話したくないです」と断った。だがシエルは恐るべき言葉を言った。
「あの、ノアって嘘をよく言いますよね」
「……否定しないです」
シャルルは不信な目で見ながら「嘘でもつかれたんですか?」と聞いた。
「そうだね。あの子は自分より下と思った人間に対して見下す子だね。それを注意しても、自分を被害者に見せるように嘘をつく。だけど、それは自分の立場が弱くなった時に起こるね」
「自分の立場が弱くなった時ですか」
「そう。妊婦だったからストレスになるような情報を遮断していた時は穏やかだったんだ。だけど君が冤罪で釈放されているって知ってから嘘をつき始めた」
遠い目をしながらシエルは「困ったもんだよ」と呟いて、シャルルに質問をする。
「シャルルさん。この事件、事故かもしれないけど真相が分かった後、どうします?」
「……まだ、何も考えていないです」
シャルルの答えにシエルは「そうですよね」とほほ笑みながら共感する。だがヨフギの葉のお茶が入ったカップを見ながら呟く。
「どちらにしても、ノアがあなたを見ないようにするにはどうしたらいいのだろう」
アンリは「ところでノアさんとの出会いは?」と聞いた。不世話な質問ではあるが、アンリの表情はいやらしい笑みではなく、不思議そうな顔だった。
「シャルル嬢には申し訳ないんですけど、ここの家は貴族としてそこまで位は高くないし、没落寸前です。シエルさんの家と位も財産も釣り合わないと思うんです。どういった経緯で出会ったんですか?」
「ノアの母親の知り合いが僕の叔父と仕事の付き合いをしていまして。出会う前は期待していなかったのですが、彼女の素朴さとか静かにほほ笑む所とかが印象的でした。僕の家族や会ってきた女性ってお喋りだったんです。だからあまり出会ったことがない子だったので惹かれました」
思い出しているのかシエルは幽かにほほ笑む。それをぶち壊すように「知り合いって誰ですか?」とアンリは聞いた。
「ああ、シャルルさんが知っている方ですよ。ここの教会を管理しているイグニシア神父。彼は元々伯爵の家の方で三男なんですよ。あそこの伯爵の方と叔父は長い付き合いなんですよ」
シエルの言葉にシャルルとアンリは何か確信めいた顔をした。
一方、墓を掘り起こす手続きの話しを聞いていたサンソン神父は「ありがとうございました」とお礼を言った。
「大分、分かりました。墓を掘り起こす時にはよろしくお願いします」
「出来れば、そうならないように願っていますよ」
うんざりした顔で警察の方はそう言った。
サンソン神父はシャルルとアンリに「そろそろ、行きましょうか」と言って立ち上がり、シャルルとアンリも「大丈夫ですか?」と聞いた。
「ええ、証拠も元々そろっていますし、彼に会いに行きましょうか」
「あの、誰かに会いに行くんですか?」
「ええ、警察の方と一緒に。申し訳ございません、シエルさん。ダニエルさんとノアさんと一緒に留守番をお願いしてもよろしいでしょうか」
戸惑いつつもシエルは「それは構わないんですが……」と言い、更に口を開く。
「シャルルさん、お願いがあるんですが」




