シャルル、自分の家に帰る。
「では、これから現場検証と言う事でシャルル嬢の実家に行きましょう」
「あの馬車で三日かかりますよ」
「いえ、私と一緒に転移魔法で行きましょう」
首都の広場に入ると、すぐさまサンソン神父は魔法陣を描く。ものすごく手慣れていて、全くブレずに直線や円をチョークで描いていった。
「さあ、これで出来たので魔法陣の中に入ってください」
言われた通り私とアンリは魔法陣の中に入ると、サンソン神父はすぐさま呪文を唱える。するとパアッと周りが光り出した。
光が収まると私が生まれた実家の庭先に着いた。
忌まわしい記憶があると言うのに悲しい気持ちが全然ない。何というか一瞬についてしまったので情緒も無いなと思った。
アンリを見ると微妙な顔をして「というか、こんな簡単に来れたんだ」と呟く。それを聞いたサンソン神父が「でもリスクが高いんですよ」と弁明するように話し出した。
「転移魔法というのは失敗すると変な所に飛ばされたりするんです。最悪、一部の部位だけ別の所に飛ばされたりします。なのであんまりやりたくないんですよね」
申し訳なさそうに言うが、私的には三日かけてお尻が痛くなるより、どんなにリスクがあっても一瞬してここにつけるならそっちが良いなと思った。
「そろそろ、ダニエルさん達と警察の方が来るはずなんですが……」
サンソン神父は懐中時計を出して呟くと、アンリが「あ、来ましたね」と声をかける。パッと振り向くと庭を歩いてくる兄のダニエルと妹のノアとその旦那さんがやってきた。
ノア。怯えた表情をしているけど、ものすごく綺麗になっている。それに傍らの旦那さんも優しそうに寄り添っている。何というか普遍的な幸せだなと思った。そうだよね、あの子はみんなから愛されるように振る舞っているのだから、旦那さんを得られて当然だよね。
「この度は捜査協力をしていただき、誠にありがとうございます」
私の言葉に兄はそっぽを向き、妹は青い顔をして俯いた。一方、妹の旦那さんは「シャルルさん」と話しかけた。
「僕はシエルと申します。ノアの夫です。大変な目にあわれましたね。冤罪って。そして真相が知りたいと言う気持ちも分かります。ぜひ協力させてください」
「あ、ありがとうございます」
意外にも好意的な事を言われて、ノアの夫だから「本当は君がやったんじゃないの?」とか「お前のせいで迷惑したんだ」と怒られるかと思った。
一応、自己紹介をしようと思い、「私はシャルルで、こちらはアンリです」と言うとシエルは「よろしくお願いします」と言った。
少し遅れて、現場検証を見守る警察の方がやってきたので、みんなで我が家に入った。玄関ホールの目の前に大きな階段が見える。そうだ、父はこの階段下で亡くなっていたんだ。そこを見ると血のような跡が薄っすらと見えて、悲しい気持ちになる。
その時、ダニエルとシエルが「ノア!」と呼んでいた。振り向くとノアが倒れそうになっていたのを二人が支えていた。
「大丈夫。ちょっと貧血を起こしただけだから」
「やっぱり無理だよ、ノア」
「ううん。行かないといけないから」
ノアはシエルを見ながら「そうだよね、シエル」と責めるような目をして見ている。それをシエルは「一緒にいるから」と言って、支えながら屋敷に入る。
その間、ダニエルは私を殺意のこもった目を向けてきた。そんな目をしても私はどうも思わない。
二階が子供たちや両親の寝室だ。私の部屋に入ると、昔の記憶のまま物が残されていた。ベッドと棚の本、そしてずっと写本をしていた机。全部、捨てて無かったんだなと思った。
棚の本を見ると昔、絵本や写本した本が少ないがある。
懐かしい気持ちになっているとアンリが「失礼しまーす」と言って入ってきた。そして机を眺めていると「ここでも写本をしていたんですね」と言った。
「まあね。生まれた瞬間から罪を背負っていたから」
「生まれた瞬間から……。何と言うか聖書にありそうな【原罪】って感じですね」
「うん、私が生まれる時にお母さんが亡くなったからね」
私の告白でアンリは「ああ、なるほどね」と言った。
「それにしても物が少なくないですか? 思春期の子供ってもっと可愛らしい物とか多いでしょう」
「あんまり買ってもらえなかったから」
アンリと過去の話しをするのも、気構え無くてよくなったなって思った。




