ダニエル、生まれ故郷に帰る
サンソン神父と約束し前日、俺は墓参りに行く。父親とノアの母親、そして自分を生んだ母親に花を添えるためだ。
自分の母親について考えたことは無かったけど、随分と墓が小さいなって事に気が付いた。お金がなかったからだろうが、仲が悪くてケンカばかりして母がよく泣いていた気がした。母の家も貴族だったが、領地をすべて売ってしまった。母親の家の支援をあてにした父親は激怒して、暴力を振るって、領地管理の失敗はすべて母親のせいにして……。
昔、不定期にお金を持ってくる人がいた。父親は口を濁していたが母親の親族と言う事を知ったのは、父親の葬式に来た時だ。その人にお金は全部、父の借金や僕とノアの家庭教師を雇う時に使っていた事を知ったようで、俺達に「どうして! シャルルやダニエルのためのお金なのに! どうしてシャルルには何もしなかったの?」とノアの母親を責め、「こんな事になるんだったらシャルルを引き取ればよかった」と言っていた。
そしてボソッと言う。
「シャルルが殺したのかもしれないけど、あの子がすべて悪いわけじゃないと思うわ」
そう呟いた。
こんな事があったから母親の親族は全く連絡をしていない。だからシャルルが【法の書】を書いて冤罪になったから、何かしらアクションを起こすだろうと思ったが無かった。
それで自分から手紙を書いて送ると、すでに亡くなっていた事がその人の子供の返信で分かった。そしてシャルルについて、もう関わらないと手紙にはあった。
シャルルは好きじゃ無い。俺が必死で仕事したり、勉強したり、父親に怒鳴られても、あいつは何も考えないで生きてきた。子供の頃から憎しみしかないからかもしれない。
だけどシエルから母親について聞かれて答えられず調べていくと、母親の不遇な状況やシャルルに言った言葉や彼女が置かれていた環境も同情すべきで、僕も酷い事を言ったと思った。他の人が言うように母の死にシャルルは関係ないだろう。
そう考えても、もう遅いかもしれないけど。
「あ、お兄様」
ハッと振り向くとノアがお花を持ってやって来ていた。俺は「久しぶり」と言って、手を振った。
俺は手を振ってノアに近づく。
「シエルさんは?」
「今、馬車の従者とお話ししています。とにかく、久しぶりですね。お兄様」
「ああ、久しぶり。体調はもう大丈夫か?」
「はい。もう元気です」
はにかむ笑顔でノアは答えた。彼女の笑みを見ているとホッと、心が安らぐ。自分が聞きたい言葉を言ってくれるからだ。
だがノアは少し表情を曇らせた。
「どうしたんだ?」
「実は……、ここにきてちょっと不安がありまして」
俺が「シャルルの事?」と聞くとノアは静かに頷く。
「やっぱり私の事を恨んでいるんでしょうね」
「例え、あいつが恨んで犯人に貶めようとしても俺がノアを守る」
「嬉しい。ありがとう」
少しだけノアの表情が晴れる。素直で優しい彼女が悲しい顔をしたり、辛い目に合うのを見るのは俺ですら嫌だ。恐らくシャルル達は恨みを晴らすためにノアを犯人にするだろう。だから俺はちゃんと彼女の味方でいよう。
そんな決意をしていると後ろからシエルが来て「お待たせ!」と言って歩いてきた。
すぐにノアをそっと抱き寄せで「お墓参りは済んだ?」と話した。
「あ、思い出話で、まだ……」
「だったら僕も一緒に」
そう言ってノアの母と父の墓に花束を置いた。
夜が明けて、サンソン神父との約束の日となった。待ち合わせ場所は、俺達の住んでいた屋敷だ。二度と足を踏み入れないと思っていたのに……。
後ろでノアとシエルが話している。会話から聞くからに怖がっているノアをシエルがなだめているようだ。だが、口調は優しいがシエルの言葉にちょっと引っかかるものがあった。
「何かやましい事であるの? あるから怖がっているの? 僕は怒らないから言ってごらん」
何だろう。ノアが嘘をついていると言わんばかりだ。




