シャルル、【極刑の書】を見る
サンソン神父から写本してほしい【極刑の書】を読んだ。
今まで読んできた魔導書の中で一番、薄く、内容は複雑で一見すると理解が出来ない。だがちょっとしたパズルのようになっており、それらを解くと魔法の内容が分かるのだが……。
謎が一気に解けると背筋が凍るくらい、おぞましい内容だった。
正直に言ってしまえば、教会がこの書に書いてある魔法を使っていること自体、信じられない。人によっては禁止すべきと言われてしまうような物だ。
だがギロチンで処刑と同等かと言えば、何とも言えない。人によってはギロチンの方がマシだと言う者もいるだろうし、ギロチンより最悪だと言う者もいる。
「あなたはこう思っているでしょう。ギロチンよりマシかマシではないか、と」
「……はい。よく分かりましたね」
「私もこの極刑が決まって執行しているのですが、常にそう考えています」
私は「でもこんな重大な写本を任せてもいいのでしょうか?」と言った。内容が恐ろしいのだが、自分の写本の技術に自信が無くなっていた。
教会にある写本工房は私の自尊心を打ち砕かせた。今まで写本を必死にやってきて自信があったが、工房の人達を見ると自分は未熟だったと感じられた。私は母の死や無実になりたいがために、怒りで写本をしていた。
それを工房の人は見抜いて、こう言った。
「あなたの今までの人生は辛かったと思います。だけど聖書の写本は誰かに読んでほしいと思って書かないといけません。もちろん、一つの文字を書けば罪は許されると言う言葉はあります。だけど次は怒りを捨てて、誰も知らない読み手のために書いてください」
この言葉が頭の中で蘇る。
工房に来る前だったら、【極刑の書】の写本を二つ返事で了承していたが、未熟と感じられ、工房の人もいるのにそんな重大な仕事をしていいのかと不安になった。
目を閉じてサンソン神父は言う。
「神の教えで殺しはしないと言うものがあります。でもかつて、どうしても殺さないと手に入れないといけない必要な物がありました。写本に必要な代物ですよ」
「羊皮紙、ですか」
「そう、羊や山羊の皮で作ります。遠くの国では植物で作る事が出来るのですが、その植物はこの地では取れず、輸入すると金銭的にも大変でした。だから伝統的な羊皮紙を教会は使う事にしました。だけど作るには罪なき生き物を殺すのです」
サンソン神父は「ここで教会は羊皮紙を作る仕事を作ったのです」と言った。
「元々、極刑調査官というのは羊皮紙を作ったり祭事用の肉を出すための生き物を育てているのが最初だったのですよ。忌み嫌われていた仕事だから神官だからお布施は貰えず、こうして牧場を経営しているんです。そして死すら軽いと言われる犯罪者を処刑してきました。未だに我々は教会の人間では無いと言われておりますし、教えに反していると言われ、たびたび非難されます」
「と言う事は、工房の人達も」
「そうですね。【極刑の書】はギロチンで処刑が残酷だから、という理由で生み出された書です。仕事道具ですが、何十年も使っているのでボロボロになってしまいました。だけど工房の人に依頼するのですが、やんわりと断られてしまいます」
「……」
「なので、あなたに書いていただきたい。無実の罪で何年も監獄にいた、あなたに。それで聖女になれない事もないです。もちろん、聖女にさせてあげる事もありませんけど」
サンソン神父は軽く笑って「とりあえず、考えてください」と言って、私が写本を受けるかの返事を保留と言う形にした。
ログハウスを出るとアンリがぼんやりと丘の羊を見ていた。黒い羊たちが犬に追い回されて、小屋へと入って行く。
「何度も言うけど、穏やかだね」
「な」
そしてこの地で過ごしてきた一週間の話しをした。
「ちょっと自信を無くしたな、写本技術」
「本場だからな、ここは。気合の入れ方も違うだろ」
「そうなの……。アンリはどうだった?」
「知らない事ばっかりで勉強になったよ。そう言えば、ヨフギの葉って知っている? 万病に効く薬の原料」
「もちろん知っている。治癒の森の中の領地で育ったんだもん」
「昔、神官はヨフギの葉で作った薬を飲めなかったらしい。聖書に出てくる神が与えたイチロの実で作った水を飲んで身を清めるんだ。だけどヨフギの葉とイチロの実を一緒に接種すると死に至る毒になってしまうらしい」
「……へえ。知らなかった。万病に効くから、そんな毒になるなんて……」
「イチロの実は珍しいから、僕も知らなかった。ほかにもさ……」
アンリは楽し気に話す。それを私は興味深そうに聞いているふりをした。ある可能性が頭によぎったのだ。




