サンソン、ダニエルとノアの夫と話し合う
警察から資料をもらった後、サンソン神父はダニエルの自宅がある集合住宅にやってきた。一階のコーヒーショップで待ち合わせをしたが、すぐに自宅に来てほしいと言われた。
「前回と一緒でコーヒーショップでのお話しでもよろしいんですが」
「そうはいかなくなってしまったんだよ。新聞記者がうろついているから」
ダニエルはイライラしたようにそう言って、自宅に案内する。
すると部屋には知らない男性が座っていた。ダニエルと同じくらいの年頃だろうが、こちらはのんびりとした穏やかな雰囲気があった。というよりダニエルが常に厳しくイラついた顔をしている。
「いや、お客様がいらっしゃったのですか」
「初めまして、サンソン神父。僕はシアル・ドーラ・スミルノフと申します。ノアの夫です」
少しだけ緊張した面持ちになってシアルは立ち上がって、サンソン神父にお辞儀をする。サンソン神父も「極刑調査員 サンソン神父です」と自己紹介した。
「妻のノアが関わった殺人事件について、あなたが来ると言う事なのでお話を聞こうと同席しました」
「ああ、そうなんですか。ところでノアさんは?」
「今は第一子を産んで、病院で療養しています」
「それはおめでとうございます」
にこやかに笑うサンソン神父にシアルは微妙な笑みを浮かべて「ありがとうございます」と言ったうえで「聖女のシャルル、様の言葉は本当なのでしょうか?」と聞いた。
「その自分と貶めた人間をギロチンにかけるって」
「そんなわけが無いでしょう。そもそもシャルル嬢はまだ聖女じゃないですし、世間的に考えてギロチンにかけると言うのは時代遅れですよ」
「どうなんでしょうか? サンソン神父」
シアルはダニエルの言葉を無視してサンソン神父に尋ねる。少しだけ考えて「シャルル嬢は国外に出て、ある教会に身を寄せています」と答えた。
「そして犯罪への怒り、罪や罰など自分の置かれた状況を見つめ直しています。事件の真相が分かるまで彼女が冷静さを取り戻せればいいと思っています」
「そんな悠長な事を言っていていいのか?」
ダニエルは怒鳴って、サンソン神父に食って掛かる。
「僕は聞いたぞ! あいつは自分を貶めた人間をギロチンにかけたいと言った! そんな狂った人間を聖女にするなんて教会はおかしいぞ!」
「あ、そうそう。シャルル嬢はまだ聖女にはなっていませんよ。あくまで聖女候補です」
「それにあいつは付き人を恋人にしているそうじゃないか! 聖女候補とは言え、おかしくないか!」
「恋人では無いようです。二人とも否定していましたし、付き人の彼もまた杜撰な捜査で冤罪をかけられてしまった被害者みたいです。先ほど彼の資料を手に入れました。だけどシャルル嬢のように冤罪と認めさせる方法が彼にはないため、彼女の手助けをしたいそうです。ついでに聖人・聖女でも配偶者は認められます」
「だけど!」
「ダニエルさん、落ち着いて」
シアルが制して、まだ何か言いたそうだったがダニエルは黙った。
ピリピリする空気感の中、三人は席につくとダニエルは「今回はどういったお話しでしょうか?」と聞いてきた。
「知っていると思いますが、事件を再捜査する事になりました。警察の不正な捜査ですからね。なので皆様の協力をお願いしたいのです」
「その事なんですが、なんで警察に任せないんですか?」
「法王や枢機卿からも捜査せよと言う命令を正式に受けました。それにシャルル嬢も私を希望しているので……」
「それで結託してノアを貶めようとしているんじゃないのか?」
ダニエルが割り込んで言い、サンソン神父は穏やかに「貶めませんよ」と答えた。だがダニエルは小さく「どうだか」と呟いた。
「ところで事件現場になったお屋敷はまだありますか? 出来れば現場検証をしたいのですが」
「ありますし、当時のままですよ」
「当時の、ままなんですか?」
「ええ。事件の後はノアと母は親戚に身を寄せて、僕は学園の寮にいました。メイド達も全員、暇を出して屋敷はそのままです」
「そうなんですか。分かりました。それからノアさんのお話しも聞きたいのですが? 出来れば現場検証の時に来てほしいです」
「……善処します」
シアルがこわばった顔で返事をし、ダニエルは苦々しい顔になった。
コーヒーショップから買ってきたコーヒーと紅茶を飲みながら、テーブルの上にある様々な新聞を眺めるサンソン神父。
結構、情報漏洩をしているようだ。嘘や誇張している所もあり、本当の事よりも多い。スキャンダラスな事は誰だって面白いから、お菓子に群がる蟻のように求めるのだ。ただ監獄近くの教会関係者しか知らない事実も多い。
貴族向けの新聞は警察の不正や杜撰な捜査に対して批判が多い。恐らくこの捜査で冤罪に追い込まれた他の貴族もいるようで、ここぞとばかりに非難している。
一方、一般向けの新聞は貴族向けの新聞とほぼ同じことを書かれているがシャルル嬢の生い立ちや素行問題を面白おかしく書いている。だがそれはほとんどデマが多いし、誇張している。
かつて【法の書】を書き上げた囚人の時は、教会で出している羊皮紙で書かれた知らせのみで特に混乱はなかった。だが今回、印刷技術は上がり早く大量印刷できるようになったため、彼女やその家族に対して、知られたくない事実やデマや誇張などが新聞に書かれてしまっているのだろう。
領地を治めている当主のダニエルの苦悩も増しているからイライラしているのかもしれない。
色々と考えているサンソン神父にシエルが「サンソン神父」と話しかけた。
「あのノアの父親殺しについて、あなたの見解を聞かせてください」
「……まだ調べていないのでお話しできないですね」
「今の段階でいいので、どういった考えなのか教えてほしいのですが」
ちょっと食い気味で話すシエルにダニエルは少し驚いた顔になった。サンソン神父は少しだけ考えて口を開いた。
「今、警察から資料を貸してもらっただけなのと、シャルル嬢の話しを聞いただけなので、何とも言えませんね。とりあえず事故と事件の両方で考えています」
シエルは「そうですか」と言った。




