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ダニエル、ノアの夫と一緒にサンソンを待つ


 ダニエルは自室でいくつかの新聞をテーブルに置いた。すべて忌まわしいシャルルの記事だ。目にしたくないが、集めなくてはいけない。


【ギロチン聖女、自分を貶めた人間を処刑すると宣言】

【聖女として品格はあるのか? 付き人として若い男を連れまわす】

【彼女の事件は本当に冤罪だったのか? 事件前から問題児で有名だった】


 今は印刷が盛んだからこう言った新聞が多く出回っている。貴族向けから一般の者向け様々だが、すべての見出しは全部シャルルの物ばかりだ。


 この新聞が出た当日、すぐにシャルルがいた監獄近くの教会に向かった。だが本人はおらず、場所も教えてくれなかった。

 その次の日にサンソン神父から手紙が来ていて、一か月後、事件について詳しく知りたいためノアとダニエルにお話しが聞きたいと言う内容だった。正直に言って忌々しい。なんで今さら、父親の事件を調べるんだ。もう全部終わって、傷ついていたノアも元気になって幸せになったと言うのに。

 イライラして物に当たりたい気持ちに駆られるが我慢していた。


 サンソン神父が来る予定時間の一時間前にノアの夫であるシエルが来た。すぐさまダニエルは出迎えると、ちょっと恐縮した表情でシエルがいた。


「この度は申し訳ございません。うちの事で色々と……」

「いや、大丈夫ですよ」


 シエルはダニエルよりも年が下だ。だがシエルは伯爵であり、何よりダニエルの領地の支援もしているため敬語であり、頭は上がらないのだ。

 シエルは傲慢な態度を取る事は無く、謙虚で敬語で話していた。


「申し訳ございません、ダニエルさん。実はノアが……」

「あ、来ていないんですね」


 ダニエルはシエルを自宅に招き入れた。元々は上品で落ち着いた感じの部屋だったんだろうけど、床に色々と書類や新聞が散らばっていた。


「すいません、散らかっていて……」


 穏やかな笑みを浮かべるシエルだが、正直ダニエルは怖かった。このままではノアが離縁されてしまうのでは、せっかく掴んだ幸せなのに。領地の支援なんて、どうでもよかった。ただノアの幸せの事しか考えていなかった。


「色々と新聞を取り寄せていますね」

「ああ、読みましたか。うち、というか勘当しているんですが僕のもう一人の妹で……」

「ええ、読みました」


 何社かの新聞をシエルは出し、更に言う。


「教会が発行している新聞だけ、ノアに見せました。だけど何にも喋らなくて」

「当然です。あいつはノアに酷い事を言ったんだ」


 顔を歪ませてダニエルは言った。


「今だってギロチンでノアを殺したいって言って脅しています。しかも付き人は恋人らしいですし、昔からあいつはおかしいんです」


 あいつの顔を思い出すとイライラしてきた。なんで、あいつは平然と生きているんだ! 僕は大変な時、家で何にもしていないのだから!

 頭に血がのぼっているとシエルが「落ち着いてください」と穏やかな声で言った。

 そうだった。ノアの旦那さんがいるんだった。気を悪くさせないようにしないといけない。


「あのダニエルさん」

「はい、何でしょうか?」

「シャルルさんとあなたの母親の話しをしてもよろしいでしょうか?」

「あまり覚えていないですね。小さい頃にシャルルを出産した時に亡くなっていますので」

「そうなんですか」


 ちょっと不思議そうな感じで相打ちをするシエルにダニエルは「どうしたんですか?」と聞いた。

 その時、シエルの表情はあまり変わらなかった。いつも通り穏やかな笑みをしている。


「シャルルさんに『母親を殺したくせに』と言っていたそうですよね」

「……。ええ、小さい頃の話しですよ」

「あなたも小さい頃から苦労していたそうですね。だけど新聞を読んでいるとシャルルさんの生い立ちは可哀そうです」

「新聞なんて誇張や嘘ばっかりですよ」

「だけど『母親を殺した』と言ったんですよね、あなたも亡くなったお父様も」

「……」

「もしそういう事を言われながら、あの家に居たら辛かったと思いますよ」

「あいつにそんな感情を向けないでください、犯罪者ですし」

「冤罪と認められたから、もう犯罪者じゃないですよ」


 窘めようにシエルは言い、ダニエルは気まずそうに黙りこくった。

 シエルにシャルルの事を一切話していなかった。恐らくノアも喋っていないだろう。こんな事が起こらない限り、シャルルのことなんて名前さえ出さなかった。忌まわしい記憶だから喋りたくなかった。

 シャルルが居なくなってから、ノアを支えてダニエルは生きてきた。父親が亡くなってすぐノアの母親もシエルと出会った後に突然、亡くなってしまったのだ。ノアの心の傷を癒すのに必死だった。

 そしてシエルに見初められて結婚して、元気な赤ちゃんが出来た。


 こんなにも順調だったのに、あいつがぶち壊したんだ。

なんで、ようやく、事件も忘れかけていたのに! どうして今、あいつは思い出させようとするんだ!


 新聞を眺めるシエルが知らない間に、沸々とダニエルの怒りが増していく。


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