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サンソン、シャルルに自己紹介をする


 サンソン神父は厳かな枢機卿とシャルルの謁見の会場を見ていた。枢機卿やその付き人、シスター、そして貴族向けの新聞記者はサンソン神父に気が付いているが、当のシャルルは気が付いていなかった。


 枢機卿は【法の書】を写本したお礼と言った後、シャルルは定型的なお礼の言葉を述べた。そしてシャルルを聖女候補にすると正式に発表する。

 聖人や聖女と言うのは珍しい魔法を使う者や奇跡を起こした者以外にも、弱い者への献身した者やシャルルのように清廉潔白であるのに監獄の中で無いはずの罪を償い【法の書】を書き上げた者もお詫びの形で列聖される事がある。

 とは言え、まだ候補だ。年終わりの日に法皇や枢機卿たちが集まって決めるのだ。


「まあ、私には関係ないけど」


 サンソン神父は涼やかな表情で呟くが、もちろん誰も聞こえなかった。


 その後、枢機卿は退出して新聞記者たちがシャルルに質問を始める。

「【法の書】を完成させて無罪になった気持ちは」

「監獄で【法の書】を書き上げたのですが、どういった苦労がありましたか?」

「この功績で聖女候補に選ばれた感想は?」

 記者がよくある質問を言い、シャルルは少し緊張しているが穏やかにスムーズに無難な感じで答えていった。

 だがある質問で一気に雲行きが怪しくなった。


「あなたは自分が貶めた人間をギロチンで殺したいと言ったそうですね」


 鋭い質問にシャルルは言葉を失った。だが記者は更に追求する。


「この事件、まだ犯人どころか事故ではないかという可能性があります。それなのにギロチンで殺したいと言うのは、警察のミスを許さないと言う事でしょうか? もしくはこの事件の真犯人を知っているって事ですか? どちらにしてもギロチンで殺したいと言う発言は聖女としてどうかと思いますが?」


 シャルルは俯き、黙ってしまった。教会関係者はざわめいていた。

 サンソン神父は微笑をして、そっと壁に預けていた背中を話して、シャルル達がいる上座へ向かい、口を開いた。


「シャルル嬢、そして皆様」


 サンソン神父はシャルルに近づき、話し始めた。


「彼女が聖女になる資格があるか? という議論はやめて、私の話をご傾聴ください」

「え? へ?」


 突然、話し出したサンソン神父にシャルルを含めて室内にいる人間達は驚いて、すぐに止めさせようとする。

 だが先にサンソン神父が二枚の書類を喋り出す。


「結論から言いましょう。彼女の事件を私が調べたところ、警察の不正が発覚しました」


 サンソン神父は「遅くなりました」と言ってシャルルの方を向き直った。

「そして初めまして、極刑調査官 サンソンと申します」

「あ、はあ」

 ちょっと戸惑った感じでシャルルは「シャルルとお申します」と返した。


「時にシャルル嬢、あなたは貴族の家を勘当されて、何処の家にも属していない苗字がない状態だ。そうなると著名はどうなりますか?」

「え、普通に【シャルル】とだけ著名します」

「そうですよね。監獄に入れてから以降の【法の書】以外の写本も署名は【シャルル】のみですし」


 なんでそんな質問をしたんだろうと不思議な顔をした全員に二枚の書類を見せた。それは兄 ダニエルが書かせた勘当の書類、片方は警察が書かせた罪を認める書類。


「日にちをよく見てください。あなたを勘当したのが九月四日、そして警察の書類は九月六日。もし日付通りに著名されていれば、警察の書類は【シャルル】のみしか書かれていません」

「でも警察の書類は苗字がある」


 誰かが呟き、周囲は騒然する。

 シャルルが「これは私が説明します」と話した。


「取り調べの前に大量の書類の著名をしました。その際に書類を読まないで著名をしろと言われ、急かされる形で著名をしました。その数日後、兄がやってきて勘当の書類に著名して、そのすぐ後に警察が、私がやったと認めた書類を持って来ました」

「シャルル嬢の話しが正しければ、大量に書かされた書類の一枚って事になりますね。写本を書くあなたは文字を紡ぐことの責任を十分わかっています。そしてこの著名は魔力が入っている。もし苗字をつけて著名すれば、文字は擦れるはずです」


サンソン神父の話しに誰かが「なるほど」と言う。


「もし不正でこのような形で監獄に入れられたのなら、怒りも相当なものでしょう。しかも彼女は十代で事件の犯人とされ、未成年者と言う事を考慮されるも刑期は十数年と言い渡されました。そしてここに出られるようになるまで相当な執念と努力で【法の書】を書き上げたと言えます。あなた方はこれでも怒りを持たず、すべてを許せますか?」


 そう記者に問いかけるサンソン神父。だが記者たちは質問の答えよりも「警察の不正か」「これはまずいぞ」ざわめいていた。


「いずれにしてもシャルル嬢の事件について、ちゃんと調べないといけませんね」


 サンソン神父はちょっと呆れたように言い、「ところでシャルル嬢」と振り向いた。話しかけられてシャルル嬢は少し驚いた顔で返事をする。


「貶めた人間に対してお怒りでしょうが、ひとまず私と一緒にこの事件を追いましょう。実はあなたに内緒で警察やあなたのお兄さんなどに話しを聞きました」

「ああ、やっぱり」


 シャルルがそう言うと、サンソン神父は「おや? 知っていましたか?」と面白げに尋ねてきた。だがシャルルの返答を待たずに話し出す。


「この事件には結構、闇が深そうです。あなたは怒りで貶めた人間を殺してしまいたいと思うくらい怒りで、周りが見えていません。怒りで行動すれば、いずれは失敗します。ひとまず冷静になる事をお勧めします」


 シャルルは何か言いたそうな顔になったが、結局サンソン神父に「分かりました」と言った。


「それでは、極刑調査官であるサンソン神父が責任をもってこの事件の真相を明らかにしましょう」


 サンソン神父が笑みを浮かべる。だがその笑みはあまりにもうさん臭くて詐欺師のようだった。





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