アンリ、シャルルと一緒に首都へ行く
シャルル嬢の兄が来た日から誰も訪れる者はおらず、数日後に控えた彼女と枢機卿の謁見のための用意を進めていた。
それと枢機卿の謁見の後、貴族向けの新聞社の記者会見もあるらしくシャルル嬢は聞いてくるかもしれない質問に対する答えも考えるようにと関係者から言われた。シャルル嬢は眉をひそめながら関係者と一緒にちゃんとした答えを考えていた。
そして前日の早朝、僕とシャルル嬢は枢機卿のいる首都の教会へ馬車に乗り込んだ。
「いよいよですね」
「……」
「緊張してます?」
「……まあね」
少し不貞腐れた感じで言う彼女に心の中でちょっと笑う。確かに、彼女にとって久しぶりの遠出だ。緊張しても仕方がないだろう。
「ところで枢機卿と謁見する教会には行ったことがありますか?」
「無いなあ。というか都市部にすら行ったことが無いから」
マジか……。貴族と言えど、完全に田舎から来た人間だ。都市部に行ったら色々と驚くだろう。人の多さとか建物の密集とか……。
「アンリは都市部に行ったことがあるの?」
「というか僕は首都で子供時代を過ごしていましたから」
名ばかり貴族だった父親もその妾だった母も都市部の人間だ。生まれてから監獄に入れられるまで僕は首都で過ごしてきたのだ。何はともあれ人が密集しているから、綺麗な部分も汚い部分も色濃く出ている気がする。
だから刑期を終えた後も首都には戻らないで監獄の仕事をしていたのだが、田舎だったので変化があまり無くて暇だなと思った。アグレッシブな若者だったら田舎を飛び出す気持ちが分かるくらいだ。
延々に続く小麦畑を通って山を越え、夕方頃、ようやく首都に着いた。
長時間、馬車に乗っていたシャルル嬢は緊張よりも疲労の方を訴えた。
「あー……、お尻が痛い」
「首都に着いた第一声がそれですか」
「それと腰が痛い」
シャルル嬢は顔をしかめて腰と尻をさすっている姿を僕はちょっと呆れて笑ってしまう。いや、本人は辛いんだろうな。僕は「後でマッサージしましょう」と言ってあげた。
この国を動かす中心街に目を向けた。
「何というか、地面が少ないね」
「まあ、そうですね」
馬車が走りやすいように石畳の道なので地面のある所はほとんど舗装されているのだ。貧民街はまだ地面があるだろうけど、彼女は出向かないだろう。
それにしても地面が少ないって感想はちょっと面白い。
「それとちょっと騒々しいね」
「人が大量にいますからね。実を言うと住人の半分以上が貴族の血筋の人間ばっかりなんですよ。名ばかり貴族や貴族の次男三男は土地が無いから、こうして首都で仕事を探すんですよ」
「なるほど」
そんな話をしながら、僕らは教会の裏口に入って行く。シャルル嬢は国賓かっていうくらいのおもてなしを受けて、すっかり恐縮していた。
案内された広くシンプルな綺麗な部屋にシャルルは「ちょっと落ち着かない」と言い、机の上で写本をし始めた。償いと言っていたけど、シャルルは心の安定に写本をしているのだろう。
外に出て首都を案内しようかなっと思っていたけど、写本する彼女を見てやめておこうと考えた。
ようやく落ち着いたところで夕飯を食べて就寝した。
シャルル嬢は日の出とともに目覚めていた。
「よく寝れましたか?」
「ううん」
「でしょうね」
「ねえ、アンリ。……いや、何でもない」
なんか急に改まった顔でシャルル嬢は何かを言いかけて、辞めてしまった。俺はそれを緊張ととらえて、「まあ、緊張しないでください」と言った。するとシャルル嬢は「うん」と頷いた。
僕は関係者じゃないので、部屋の近くの廊下で待っている事にした。
僕は枢機卿の謁見する会場にシャルル嬢が入ってすぐにもう一人の中年男性がやってきた。穏やかな笑みをしていて、神父が着る詰襟の服じゃなくて流行りの服を着せて首都を歩かせたらモテそうだなと思う。うさん臭い雰囲気が漂っているけど。
枢機卿、じゃないよな。お付きの人? 神父の服を着ているけど、雰囲気がちょっと違う。何かの役職を持った者なのか?
不思議な雰囲気を持った男性は僕と目が合うと、ちょっと会釈をして会場に入った。




