シャルル、兄と対面する
兄がバタバタと足音を立てて、私を探している。アンリやシスターも「ちょっと、待って」「え? 誰ですか」と困惑の声が聞こえてくる。
行きたくないけど、この場を収めるには私が出ないといけない。
私は部屋を出て「ごきげんよう、お兄様」と言って、彼の前に出た。
彼は憎々しい顔で「シャルル」と呼ぶ。
「ここは教会ですよ。お静かにお願いします」
「貴様が余計な事をしたからだ!」
十年近く見ていなかった兄、ダニエルは当たり前だけど大人になっていた。ただ表情は気難しい顔で眉間にしわがいつも寄っていたが、今も健在のようだ。
どうしてこうも余裕がないのだろう。普段は割と冷静な人間なのに、何かのきっかけでこうして激情になる事があるのだ。
色々と考えて私は一つの答えを出した。
「私はノアに接触していませんよ」
私の言葉に兄は更に表情を険しくした。ふむ、やっぱりな。
「私はあなた方家族と勘当されているから無関係なはず」
「だったらなんで神父が事件を聞きにやってくるんだ!」
前に鑑定した神父が言っていた極刑調査官のサンソン神父だ。なんで私に会う前に兄と会うのだろうか……。
名前しか知らない人物と会ったと騒ぐ兄にどう対応しようかと考えていると、兄は「それから、ノアの夫と接触したんだ」と言った。
ん? ノアの夫?
「あのサンソン神父はノアの夫であるシアルに会ったんだ。ノアが妊娠しているという理由で旦那に事件の事を聞こうと思いましてと言いやがって……。こんなんだったら書類なんて渡すんじゃなった!」
私はノアが結婚して、子供も生まれるという事実に衝撃だった。でも冷静に考えれば、そうだよね。だって私が監獄に入ってから十年近く経っている。私もノアも二十代で、普通だったら結婚してもおかしくない年齢だ。
だけど、やっぱり衝撃だった。
兄の「サンソン神父とはどういう関係なんだ?」と聞いてきたので、すかさずアンリが「僕らも知らないです」と言って私と兄の間に割り込んだ。
「だから僕らも名前しか知らないです。恐らく身辺調査をしている人だと思いますが……」
「だったら、なんでお前は教会にいるんだ。母親も父親を殺しておいて、ここにきて冤罪だから無罪っておかしいだろ!」
「私はやっていないからです!」
兄の言葉にカチンときて、私は言い返した。
「ノアの言葉を全員信じて、やっていない私に罪を擦り付けた。だから【法の書】で無罪と証明したんです。私は未だに憎いです! 私を貶めた人間をギロチンで処刑したいくらいに!」
そう言った瞬間、シスターたちがざわつき始めた。一体どうして? と思ったが、それ以上に兄がすぐさま「貴様、ノアを殺すのか!」と大声で怒鳴り始めた。
ここでようやく教会の責任者である神父がやってきて、兄を取り囲み始めた。兄が神父と話していると、アンリが「離れましょう」と言って私の背を押して逃げるよう促した。
私とアンリは図書室に入る。アンリは「大丈夫ですか?」と聞いてきたので、「大丈夫」とだけ伝えた。
だけど、ものすごく疲れてしまった。
「申し訳ないね、アンリ。兄がとんだ迷惑を」
「いや、別に。だけど、うん、凄いですね」
あまりの衝撃的な兄との出会いにアンリも語彙力が失っている。普段は普通の冷たい印象を持った人なんだけど、ノアの事になると感情を爆発させる。
それだけ大切な妹なのだろう。兄とノアは誰がどう見ても仲の良い兄妹だった。だけど、それは、私と言う害悪を排除して生まれた絆だ。
私以上に仲の良い兄とノアの姿を思い出して、ものすごく切ない気持ちになった。
するとアンリが「シャルル嬢」と言った。
「あなたは母親を殺してはいませんよ」
「え? なんで突然……」
「お兄さんが母親を殺したって言っていたのですが、出産時の母親の死亡の罪は胎児には関係ありません」
どうやらアンリは母親を殺したという兄の発言を気にしていると思ったのだろう。本当は違うのだが、私は訂正しないで「うん、ありがとう」と言った。
そう言えば、母親の死は私のせいじゃないと言った人はアンリが初めてだ。




