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シャルル、人生で一番のんびりした時間を過ごす

 教会から【法の書】の鑑定が終了したと言う。結果は完璧に写本出来ていると言っていた。後日、鑑定結果を正式に枢機卿からお褒めの言葉と無罪である証明がなされると言う。

「ところでサンソンと言う極刑調査官に会いましたか?」

 鑑定結果を教えてくれた方がそう尋ねてきたので、私は「会っていないです」と首を振った。

「そうですか」

 ちょっと意外そうな顔をして結果を教えてくれた牧師は去って行った。


 それと入れ替わりになるようにアンリが昼食を持ってきてくれた。本日はチキンとサラダのサンドイッチとお茶。

「ちょっと聞いていい? アンリ」

「何なりと」

「教会の極刑調査員って何?」

 アンリと会ってから、今まで自分が世間知らずだったと分かった。それ以前に監獄にいた貴族と交流する時間はあったのだが、いつも話が合わなかった。彼、彼女達の会話について行けず、話しても怪訝そうな顔になって離れていった。それが不思議だった。

 誰もアンリのように指摘する人間がいなかったため、居心地が悪くなって、交流する時間はいつしか写本する時間になった。

 貴族に対して無礼かもしれないが、はっきり言ってくれるアンリは分かりやすい。

 なので、いつものように知らない単語を聞いたのだがアンリはちょっと難しそうな顔で口を開いた。


「僕もあまり詳しくないのですが、教会を信仰している国の死刑に相当する罪人を処罰する人達です、ね」

「教会はどういう理由であれ、死刑はダメだって禁止しているよね」

「そうです。だけど救いようのない者達はこの世にいます。何人もの人間を殺した凶悪犯やテロリストとか……」


 私は「なるほど」と答えるが、すぐに疑問が浮かぶ。


「私の事件って凶悪犯が関わっているの?」

「どうなんでしょう? そもそもこの国は極刑を十数年以上、執行されていません」

「あれ? テロ事件が起こっていたでしょう? 都市部で何十人もの人間が犠牲になったテロ事件の犯人って極刑になったの?」

「いえ。他の仲間がいるかなどを吐かせるため、警察は司法取引をするんですよね。それで極刑を避けているんです」

「……それって被害者にとってどうなの?」

「直接聞いたことは無いですけど、あまりいい気はしないんじゃないですか?」


 ちょっと肩をすくめてアンリは答えた。私も同感だな。

 それよりも大きな疑問がある。


「ところで極刑ってどんな事をするの?」

「それが分からないんですよね。教会は殺しではない、魔法による罰、そして人によっては死刑よりも辛い罰かもしれない、としか教えていないんですよ」

「言わないって事で、恐れを抱かせて抑止力にしているのでしょうか?」


 アンリは「恐らく、そうでしょうね」と話した。


 お昼ご飯を終えて散歩をする。ようやく息切れしないで歩けるようになった。アンリに指摘されなかったら、老人みたいに足腰が弱っていただろうなとちょっと背筋が凍ってしまう。

 監獄にいた時は、とにかく【法の書】を書かねば! という焦りの気持ちになっていたから、自分の体調なんて二の次だった。


 だけど【法の書】を書き上げた今は焦りや不安の気持ちは消えていった。あんなに急き立てて書いていた写本も、あまり書いていない。事件が起こる前からたくさん写本をしなければって思っていたのに。

 それは多分、私を責める人間が無いからだろうな。あの家では私は罪人のように見られていたから、自分が許せなかった。

 今はそんな存在は居ないので、未だかつてないくらい心が穏やかだ。でも私は【法の書】を書き上げたから、すべて終わりじゃないのだ。


 私は、陥れた人間を許さない。


 かつて教会は極刑ではなく死刑を行う時代があった。それはギロチンと言う機械で行っていた。可能なら私は彼らをギロチンにかけたい。


 恐らく聖女に推薦されるだろうが、それを断ってでも。

 

 

 散歩が終わったら、魔導書の写本をする。

 アンリや教会の人に言われたが、印刷技術が発展しているから写本を作る人間はほとんどいないが、魔導書は写本をしないと魔法が発動しないので、魔導書の写本はまだいるようだ。

 だけど魔導書も使う人間は少なくなっている。魔法が無くても、機械技術の発展で魔法を使わなくてもよくなったのだ。そもそも昔に比べて魔法が使えない人間が多くなったのが一番の理由だ。

 だけど書き手が居なくなったのは、それでご飯を食べていた人間達だ。私の写本は償いみたいなものだから辞める理由はない。


 そう考えながら教会の図書室で写本を書いているとアンリがやってきた。

「すいません。今、大丈夫ですか?」

「何かあったの?」

「ダニエルさん? って、人があなたに会いたいと」

 アンリが躊躇いがちにそう言った。

 久しぶりに兄の名を聞いて血の気が引いた。いや、勘当しているのに何で会いに来たのだろうか。


 母親を殺したくせに。


 穏やかな気持ちが徐々に雲行きが怪しくなり不安になった。私の態度で察したのか「僕が代わりに会いに行きましょうか?」と申し出てくれた。自分で出ようと思ったけど、色々と言われたら辛くなりそうだったのでお願いした。アンリは快く「分かりました」と言って図書室を出て行った。

 

 兄の名前を聞いてズンと重たい気持ちになった。




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