◇301 本能が唸ってしまう
偶にも何も、もっと重いゲームシナリオはあるもんね。許されるね。
「そんな筈が無いんじゃ。そんな筈は……」
ずっと自問自答を繰り返し続けていた。
けれどこれは真実みたいで、Nightは一応パターンを解析した。
その結果、この村の、ミツキミに住むNPC達を構成上、不可解なコードが記録されていたみたい。
「悪いが何度も言うが、これは真実だ」
Nightは村長さんに改めて伝える。
すると村長さんは怒り狂った様子で、私達に牙を剥く。
完全に獣と化した村長さんは、荒い鼻息を鳴らした。
「そのような真偽不明な戯言など、耳を貸す気も無いんじゃ」
「戯言だと思うなら、この村の人達を苦しめるウサギ病は、なにが原因か見当が付いているのか?」
「それは……」
改めてウサギ病ってなんだろう?
それは一言で言えば、この村だけで起こる風土病。この村で生まれ、この村で育った人達だけが引き起こす謎の病気。
風のような症状から始まり、高熱や咳、嘔吐に至るまで、その病状は酷い。
何よりも苦しいのは、その見た目が完全にウサギに変わってしまうこと。
ウサギの獣人やウサギの能力を持ったプレイヤーはいる。でもこの村の人達が発症しているウサギ病は、それはそれはリアルで直視するのが難しいくらい、現実のウサギをより一層際立たせたものだった。
「これは単なる病でしかない。だから薬を飲めば……」
「その薬の成分、改めて分析したが、妙なことが分かったぞ」
「妙なことですかな?」
あれ、何言おうとしているのかな?
私達は全く知らない、完全にNightの独断専行。
それを見届けると、瞬きをして心配になる。一体何を調べたのか、何だか想像したくない。
「近隣の他の町で作られた薬だ。色々とネットの海を放浪したが、やはりそうだった」
「やはりとは?」
「あの薬は人間用じゃない。ましてや獣人用でもない。獣用の鎮静剤だった」
「「「えええええっ!?」」」
なにそれ、今初めて聞かされたんだけど!?
私達は初耳すぎる真実に驚かされてしまう。
って言うか待ってよ。アレって、“獣用の鎮静剤”ってことは、ミツキミの人達は元々獣だったってことになる。
「な、なにをバカなことを言っておるのか、サッパリ分かりかねますな」
「そう思うならこれを見ろ」
「そ、それは?」
「解析した成分表だ。コレの何所に、人間に効くような成分が記載されている?」
一体いつの間にそんなものまで用意したのかな?
しかも専門用語が一杯書いてあって全然分からない。
でも村長さんはそれを見ると、「ううっ」と口を噛んで、真っ赤な瞳から涙が流れる。
「そんな……バカな。はぁぁっ!?」
泣き崩れてしまった。
膝を突いて、その場で項垂れると、自分の手を見る。
今までにない酷さで獣になっており、ウサギ病が最悪な程進行していた。
「な、なんじゃ、この手は……これではまるで」
「本物のウサギだな」
Nightは一切言葉をオブラートに包まなかった。
完全にストレートで重苦しいパンチが放たれる。
それを受けて完全に絶望すると、もはや反論する希薄すら消えていた。
「せっかくだ。真実をその目で見極めろ」
Nightはインベントリから、アイテムを取り出す。
ただの鏡のようで、村長さんに見せる。
自分の姿を映し出すと、村長さんは固まってしまった。
「これが……これが」
「そう、これがお前だ」
もうアレだよ。完全にウサギだよ。
ただ大きいだけのウサギ。こんなこと言えない。
でも、ミツキミの人達の本当の姿こそ、ウサギなんだ。
「お前達の正体はウサギだ。ウサギが人間に化けているに過ぎない」
「えっ、あっ、そっち!?」
「そうだ。この村の人達はデータ上ではあるがおよそ九割が獣。残る一割が人間。つまり、獣の要素が強いことになるな」
Nightはそこまで調べていたんだ。凄いって言うかキモい?
別に変な意味じゃないんだけど、なんだか凄く熱意が伝わる。
ゾクリと肌を刺すと、ミツキミの人達が苦しんでいた理由が分かった。
「もしかして、Ma=ンゲツノミコトさんが言っていた、ウサギ病なんて無いのは?」
「ウサギ病なんて存在しない。何故なら、元々ウサギなのだから」
これがことの真相であり、真実だった。
ウサギ病なんて最初から存在していない。
何故なら正体がウサギだから。人間の要素が限りなく薄く、ウサギ本来の姿に戻ろうとする副作用が原因だった。飲み込み辛いかもしれない、でも如何して?
「でもよ? どうしてウサギの姿に戻ろうとするのよ」
「恐らく原因は月だ」
「「「月?」」」
この時期、この辺り一帯は、満月山の影響を受けやすい。
そのせいか、興も綺麗な月が出ている。
そう言えばウサギ病もこの時期だけで、それが原因ってことになるのかな?
「痛ましいな。ミツキミの村人達は元々獣だ。獣が人間になろうとした。それを信仰する月は許さなかったらしい」
「だからどういうことよ?」
「考えてみろ。白ウサギ、月との因果関係もあるだろ」
因果関係? もしかして、月にはウサギが棲んでいるって奴かな?
でもそれだけだと、単純に公式が要素を拾っただけに過ぎない。
って思いたかったけど、私達は知っている。ツキトエ、あの姿は完全にウサギだった。
「もしかしてー、ツキトエ?」
「そうだ。ツキトエのモデルは白ウサギ。そしてこの村の人達は?」
「「「白ウサギ」」です」
「ああ。月の光を浴びることで、人間の要素を失い、人間の構造から獣の構造に変ろうとする。その際に発生する変化が、ウサギ病として全身の細胞を蝕んでいたんだろうな」
完全に繋がっていた。信じたくなかったけど、本当だったんだ。
この村の人達は自分達が信じてやまなかった月の神様に裏切られた。
ずっとずっとずーっと、長い時間苦しみ続けた。ただ人間であろうとした結果、獣の血が騒いで、いつしか獣の唸り声が止まなくなったんだ。
なんだろう、掛ける言葉も見つからなくて、私も黙っちゃった。
「村長さん、大丈夫ですか?」
「ぁぁ……これも仕方のないことじゃな」
「村長さん」
村長さんはもう受け入れる姿勢だった。
赤い瞳からは涙が溢れ出ていて、雷斬も辛くなる。
でも村長さんは一番最初に立ち上がると、私達に頭を下げた。
「本当助かりました」
村長さんは完全にウサギの姿になっていた。もう受け入れちゃったんだ。
真っ白なウサギ、真っ赤な瞳、悲しくもあり全てを飲み込んでいる。
私はつい引いてしまうと、軽く慄かされていた。
「助かったって……」
「真実を知ることができた。これが大きいのですな」
何も助かっていないし、解決もしていない。残酷な真実だけが前進しただけ。
あまりにも重く苦しい、根本解決が結局この先一生起こりえない。
そんな未来が私にだって見えてしまうと、Nightは「はっ」と興味無さそうに嘲笑う。
「真実か……残酷だな」
「Nightさん!?」
「事実だろ」
確かに事実だよ。でも今はそんなこと言ってもいいのかな?
うーん……悩まなくても分かるよ。絶対によくない。
フェルノだって黙って聞いて……いや、分かっていないだけな顔をしていた。
そんなことはいいんだよ。とにかく空気を破壊しちゃってるよ。
私も上手く順応……じゃない。飲み込まれそうになっていた。
Nightは私の服の袖を掴んでくれていて、目配せで引き寄せる。
「そうですね。この事実を受け入れることが、前へ進むことになるなら、きっと月の神様の思し召しなのでしょうな」
「……」
「だからこそ、勇気を出して真実を伝えてくださりありがとうございましたなのですな。本当に、本当に……」
そこから何も言えなくなっちゃった。完全に受け入れてしまっているんだ。
もう、そうだよね? 今さら何を言っても届かないし、慰めにもならない。
そんなことにも気が付かないのはダメだ。普通じゃないし、普通が嫌でもない。もっと悪い方に進むと思って、真実を受け入れても前に進む決意と勇気を手にした村長さんを応援し、背中を押す……胸を押すしか出来なかった。
「は、はいぃ……」
私は感情的になっちゃった。何だか本物の人間みたいだよ。
グサリと突き刺さったのは私だけではないみたいで、鋭い鉄線が繋いでしまう。
一つ一つに棘があって、なかなか抜けない感覚に襲われると、本当に正しかったのか、言った後で悩んでしまったけれど、きっともう遅いんだ。月を見上げ、問い掛けるように見つめた。
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