◇300 真実はアッサリでコッテリ
どうしようもない真実。
「それじゃあ、行くよ」
「「「うん」」」
「仕方が無いか」
私達はミツキミに戻って来た。
本当は伝えてもダメな気がする。
でもさ……うーん、頑張ってみるしかない。
コンコンコン!
私は扉を叩いてみた。だけど反応が無い。
もしかして、それだけ大変ってことかな?
如何しよう……手紙とか置いて行った方がいいのかな?
「おい、村長、いるんだろ!」
「Nightさん!?」
ヤバいこと言ってるよ。相手は一応目上だよ?
Nightは全く気にしていないけど、仕方が無いのかな?
うーん……うーん、うーん。私は困り顔を浮かべると、扉がユックリガラガラと音を立てて開いた。
「(ゴホンゴホン!!)ううっ、なんじゃ一体……」
扉を開いてくれたのは村長さんだ。
凄く辛そうで、まだウサギが解けていない。
ウサギ病、真実を伝えるべきなのかな?
「あの村長さん?」
「おお、どうしたんじゃ!?」
私達の顔を見るなり驚かれちゃった。
そうだよね、依頼は達成しているからね。
でも、達成報告が出来ていないから、そのためにサインを貰おうと思い、改めて足を運んだと思われているみたい。
そうじゃないんだけど……まあいっか。
「あの村長さん、実は話しておきたいことがあるんです」
「話しておきたい(コホン)じゃと?」
「はい。ウサギ病の、真実についてです」
私はそう切り出した。でもここでは話せない。
少しだけ外に出て貰うことにする。
これから伝えるのは簡潔にまとめたものだから。
「こんな所に連れ出すとは(コホン)、他の者達には聞かれてはマズいのですかな?」
「は、はい。あの、えっと……」
私達は村長の家から離れた。
それから村で使われる共有の井戸。
その近くを使わせて貰うと、視線を泳がせる私に変わって、Nightが伝えた。
「ウサギ病の真実が分かった」
「なんと!?」
ウサギ病の真実を伝える時が来た。
果たして伝えるべきなのかな?
迷ってしまうけど、村長さんの眼差しが痛い。
「そうですか。ウサギ病のことを調べてくださっていたのですか(ゴホン)」
「ああ。この土地で祀られている神に訊いて来た」
「ん? それはまさか、満月の神様、Ma=ンゲツノミコト様ですかな(コホン)。実在するとは……(コホン)、一目お会いしたかったな」
村長さんの言葉がか細くなる。
まるで今にも死んでしまいそうで嫌になる。
雷斬は腰を落とし、同じ目線になって励ます。
「大丈夫ですよ、村長さん。気を確かに」
「うぅむ。俄かには信じ難いが……Ma=ンゲツノミコト様は、なにをおっしゃっていたのですかな?」
半信半疑だったみたい。
Ma=ンゲツノミコトさんが訊いたら悲しんじゃうよ。
でも仕方が無い。神様って、そんな不安定だから神様なんだ。
「それは、その……」
「どのような事でも構いませぬ。この病の正体は、この村の者達を苦しめる呪いなのですかな?」
言葉にし辛かった。でも催促されちゃう。
伝えていいのか迷っていると、真剣な視線が痛くて仕方が無い。
だからこそ、Nightが口走った。
「残念だが、呪いではない」
「では、病?」
「病でさえない」
「……意味がよく分かりかねますな」
残念だけど、ウサギ病は呪いではない。病気でもない。
Nightの言葉に理解が追い付かない村長さんは、キョトンとした顔をする。
でも無理は無いよ。だって、真実は残酷だ。
「つまり、その……ウサギ病なんて、最初から無かったんです」
最後は私の口から真実を伝えた。
そう、これこそが、Ma=ンゲツノミコトさんが教えてくれた真実。
この世界に、ウサギ病なんて病気は最初から無い。だからこの村の人達の姿がウサギになったのは、病気でもましてや呪いでも何でもないんだ。
「ん? そう言われましてもな、信じる訳には……」
「これが真実だ。お前達は、最初から呪いにも病気にも掛かっていない。これが普通だ」
「ん? どういうことですかな」
最初から信じて貰うなんて無理な話だ。
それに私達だって、ちょっと耳を疑っちゃった。
私達を試しているのかなって思っていたけど、そんな顔はMa=ンゲツノミコトさんがしていない。つまりアレが真実で、明確にウサギ病はこの村に無い。
「ウサギ病、その真実はこの村に住む人達……いや、獣寄りの獣人達の体質によるものだ」
「獣人の体質? そんなバカな話があっていい訳が無い!」
急に村長さんは立ち上がった。
さっきから咳をしていなかったけど、それも相まって怖い。
私達は視線を上げると、村長さんに見下ろされた。その体は白いウサギの毛に覆われる。
「信じられないとでも言うのか?」
「当たり前じゃ。そのような俄かにも信じ難い話を、信じるなど……」
「神様は信じているのに? おかしな話ね」
「Ma=ンゲツノミコト様は、この地を守護せし月の神様。古くから言い伝えがあり、それを信仰して来たんじゃ。それのなにが悪い!?」
村長さんは急に怒り出した。
私達の話をまるで聞こうとしてくれない。
長くピンと張った耳が、私達に怒りを露わにして向けられている。
そこにベルが仕掛けた。神様のことは信じているのか、怪しんでしまう。
ここにも反論が飛んで来ると、もはや妄信だ。
神様だって、そんなに万能でも便利でも無いのに。
「おお、怖っ」
「人が変わられてしまいましたね」
「刻まれたDNA……この場合は、データ上に記された要素だろうな」
まるで人が変わったみたいに怖い。
その姿もドンドンウサギに近くなっている。
本人は気が付いていないみたいで、これがデータ上のDNAに刻まれた本能だってこと? なんだろう。獣を相手にしているのかな? 私達とはまた違う。って言うより、他の獣人のNPCとも違っていた。私には如何してもそう見える。
「その信仰するMa=ンゲツノミコトに訊いて来たのにか?」
「ッ!?」
村長さんの様子がおかしくなった。
そうなんだよ。この事実は、この村が信仰する神様が直接教えてくれたこと。
だからこそ説得力があり、村長さんは黙る。
「言ったはずだ。訊いて来たとな」
「それは……」
「神の言葉を疑うのか? お前達の信仰して来た神の言葉だぞ? どんな真実でも受け入れると言ったのに、信じないのか?」
Nightの口調が荒かった。
真実から目を逸らし、拒み続ける村長さんに付く付ける。
痛々しいまでの言葉には嘘偽りは全く無くて、村長さんはグッと飲み込む。
「何度でも言うぞ。ウサギ病など存在していない。それはお前達のDNAに刻まれた獣の血が騒ぎ立てているだけだ」
残酷な言葉を喰らった村長さん。
完全に折れてしまうと、威勢が無くなってしまった。
これが真実であり真相だ。何てことは無い、そもそも病気でもなんでもない。
それがウサギ病であり、全部無かったんだから。
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