◇295 月のウサギ4
囮になったアキラちゃんの行方は……
「ヤバいヤバいヤバいヤバイ……【キメラハント】+【半液状化】!」
ツキトエが降って来る。
地面をパンと凄い勢いで蹴ると、私を狙い撃ちする。
真っ直ぐ直角に降って来る。
まるで流星のようで、私は逃げ切れない。
だからやることはハッキリしていた。
一瞬でスライムの能力を、【半液状化】を発動した。
(あ、危なかった)
ドンッ!
地面にツキトエが着地する。
でも私は死んでない。スライムになった体は衝撃を受け流すと、ポヨンポヨンと地面を跳ね這う。
何とかツキトエに気が付かれないように距離を取ると、私はホッと一息つく。
(絶対に怒ってるよね)
死にかけた。本当に死にかけちゃった。
こんなの予想してないとダメだった。
ツキトエは暴れ出すと、私に飛び蹴りを繰り出したんだ。
直撃を喰らわなくて、ギリギリセーフ。
でも心臓がバクバクで、HPは削れていないけど、MPが減っている。
恐怖心が駆り立てられると、ツキトエから距離を取る。
「大丈夫か、アキラ」
Nightは私のことを抱きかかえた。
スライムの姿なので、ヒョイっと持ち上げられる。
コクリコクリと首を縦に振ると、私はプルプル震えていた。
「急に暴れ出したな。どうやら、お前の攻撃が効いたらしい」
絶対にそうだよね。やっぱり耳を壊したから、怒っているんだ。
私のことを目の敵しているみたいで、みんなの姿は眼中にない。
でも目はあまりよくないのか、チラチラ視線を動かすと、地面を踏み荒らしていた。
「大丈夫―、アキラー?」
(コクリ)
「さっきからツキトエの動きが変よ。アキラを捜しているのかしら?」
(!?)
「どうやらアキラさんに怒りを露わにしていますね。大変危険な状態です」
(嫌々嫌々)
私はスライムの状態でみんなに囲まれた。
多分だけど、元の姿に戻ったら死んじゃうに決まってる。
それだけツキトエの動きは苛烈さを増していて、首をグイングインと回していた。
「見失っているわね」
「はい。少し可哀そうですが」
(可哀そうって言わないで!)
まるで私が悪いみたいになっちゃうよ。
そんなの私の心が耐えられないから、胸が痛くて仕方が無い。
この姿の何所にあるのか分からないけど、とにかくヤバいよ。
「キュアッ! キュアッキュアッ!!」
ツキトエは暴れていた。周りの木々をへし折る。
太い木の幹も完全に叩き追って、バキッ! と音を立てていた。
危ないし怖い。これは……逃げた方がいいんだけど、ダメだよね?
「距離を取った方がいいな」
「でもさー、逃げてもいいのかなー?」
「恐らく、あの神はMa=ンゲツノミコトは許しはしないだろうな」
Ma=ンゲツノミコトさんが許してくれる気がしない。
ってことを考えると、ここは逃げる訳にはいかない。
「とりあえず……ねっ!」
弓を構えると、矢を番えた。
弦を引き、狙いを定めて射抜いてみせる。
真っ直ぐ飛んだ弓矢は音を立てず、ツキトエに向かって飛ぶが、片手で掴んでへし折られた。
「なっ!? う、嘘でしょ」
聴覚は完全に死んでいる筈だった。
でも感覚が研ぎ澄まされているみたいで、ツキトエは矢をへし折ってしまう。
しかも脚じゃなくて、腕を使っていた。これはさっきよりも格段にヤバそうだよ。
「どうするのよNight。こんなの……」
「黙れ」
「黙れって、黙っている暇ないでしょ」
「いいから黙れ。目も逸らすな。ツキトエは、こっちを見ているぞ」
「はぁっ!?」
ツキトエはこっちを見ていた。
私達を標的に据えていて、ユックリ前を向く。
ジッと睨みつけて来ると、地面を思いっきり蹴り、地面を平行に移動した。
「キュァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
ツキトエは発狂した。私達を睨みつけている。
このままだとマズい。逃げ切れないと思った。
だからフェルノと雷斬が前に出た。それぞれ武装すると、ツキトエの進撃を食い止めようとした。
「くっ、これは……」
「お、重いよー」
雷斬とフェルノはツキトエを受け止めようとした。
でも全然ダメで、体が悲鳴を上げてしまう。
押し返そうとするけれど、普通に負けて押し飛ばされた。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」」
フェルノと雷斬は吹き飛ばされた。
地面に転がるも、武器だけは手放さない。
上手く受け身を取ったけど流石に破壊力の前に身動きが取れなくなる。
(ああ、みんな!)
何とか体を起こそうとするけどダメ。
だけどツキトエは全然興味が無さそう。
変な威嚇的な鳴き吠えを出すと、今度はベルとNightを標的にした。
「マズいな。完全に怒りに飲まれているぞ」
「どうするのよ、Night!」
「どうすると言われてもな……来るぞ!」
判断を下す前に、ツキトエは動き出す。
地面を蹴り上げ、高く跳び上がると、飛び蹴りを披露。
私達に襲い掛かると、もはや避けることで精一杯だ。
「「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」
直撃は喰らわなかったけど、ツキトエが地面に落ちてきた衝撃で、小さな石の破片が飛び散った。
私達はまんまと喰らっちゃって、全身が傷だらけになる。
特にNightはマントを外しているから肌の露出が多いみたいで、HPが一気に減った。
(このままだとダメだ。なんとかしないと……そうだ!)
私はちょっとだけ考えた。何が一番得策とかは分からない。
でも【半液状化】は解除しないとダメで、私はNightから離れる。
結局狙われているのは私。それなら私が囮役を買えばいいんだ。
(解除!)
私は【半液状化】を解いた。
元の人間の姿に戻ると、ツキトエの目が追う。
私のことを追い掛けると、「キャッキャッ!」と泣き喚いた。
「こっちだよ、こっち!!」
「キャッキャッ!?」
私は挑発すると、ツキトエに睨まれた。
これ、絶対に来るよね? 姿勢が低いよ。
ヤバいかも。でも、こうなった以上、出来るだけ惹き付け……られない!?
「プギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
「うわぁ、来た、飛んで来た!?」
ツキトエが飛んで来た。
地面を蹴って跳ぶと、まるで空を飛んでいるみたい。
分厚い脚で蹴りを混むと、私は無意識のうちに受け身を取って、サッと右に逃げた。
ドンッ! と地面にツキトエの足跡が残る。
凹んでいるだけじゃなくて、完全に押し潰されている。
こんなの喰らったら死んじゃう。私はそう思うと、ゾクリとした。
「あ、危なかった……はぁ」
ホッと一息。って言うより、危なかった。
危うく死ぬところだったみたいで、私は助かっている。
本当ギリギリで、流石にヤバ過ぎた。
「なにやってるんだ、アキラ!」
「狙われているのは私だよ? 私が囮をすればいいんだよ!」
Nightに怒られちゃった。そうだよね、無謀だよね?
でも狙われているのは私なんだよ。だったら私が囮をするのが一番だよ。
それが今一番の得策だと思ったけど、Nightはムッとした。
「囮とは言ってもな、それはお前の能力が相手より優位な状況であって……」
「そんなこと関係無いよ!」
別に囮は死ぬためにあるんじゃない。
陽動をするにしても、高い能力があるから成立する。
相手を搔き乱し、高いコミュ力を武器に、上手く崩す。
それが今の私には全然足りていない。でもそんなの関係無い!
「私は一人じゃないし、みんなそうでしょ? だから、絶対に見逃さないよ。絶対に、絶対に負けたりしないからねっ!」
私は決して一人で戦っている訳じゃない。
CUの世界では、一人よりも複数人の方が断然有利。
足りないものを掛け合わせることで、最高の力を発揮する。
それなら私達が負けることは無いよね? そう思うと、胸の奥から叫び声が聞こえてきたみたいな衝動が迎えに来て、私を包んでいた。
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