◇292 月のウサギ1
月のウサギと対決だ!
私達は用意された光の道を進んだ。
落ちないかヒヤヒヤしたけれど、そんなことは起きない。
満月山の頂上を目指す形で、自然と光の道に導かれていた。
「一体どんなモンスターが待っているのかな?」
「楽しみー」
「楽しみって、ヤバいモンスターでしょ、どうせ」
「そうですね。油断しないようにしましょう」
この先にモンスターが待っている。
どんなモンスターなのかは想像も付かなくは……ない?
Nightは何やら考えているようで、流れるままにマントを置いて来てしまったことを後悔している。
「Night、やっぱりマントは回収した方がよかったかな?」
「ん? あ、ああ、そうだな」
明らかに反応が鈍かった。
レスポンスは悪くないけれど、表情がそう言ってる。
私には誤魔化せないと分かっているNightはポツリと呟いた。
「ウサギか、カニか、女性型か……」
ブツブツ呟いていた。全然共通点が見えない?
いや、そんなことはないかも。確か、国によって見える月のクレーターの見え方だった気がする。
私はサッと思い出すと、フェルノが突然叫んだからビックリした。
「あっ、見えて来たよー!」
私達の視線が光の先に集まった、
まるで最初から用意されていたみたいに、山の一部の草木が丸く削られていた。
何故か会場のようになっていて、私達の足が地面に着いた。
「なによここ、まるで試合場じゃない」
「そうですね。四隅には灯り……篝火では無いですね」
「この世界独自のもので、月光灯だな」
満月山の一部が、草木一本生えない状態で、円形に切り拓かれていた、
ベルの言う通り、まるで試合場で、これから戦う雰囲気があった。
しかも四隅……がよく分からないけど、四つの灯りが立っている。月光灯って言うみたいで、月の光を一杯溜め込んで、キラキラとほんのり灯りを灯していた。
「綺麗だね」
「綺麗って言ってる場合でも無いでしょ?」
「そうだな。全員武器は構えたな」
これからどんなモンスターが出て来るか分からない。
神様って気まぐれっぽい雰囲気があるから、変に余裕を持っても仕方がない。
そんな余裕を油断に変えて来るから、私達は気を引き締め武器を構えた。
「一体なにが……うわぁっ!?」
雲が完全に晴れた。満月がポッカリと浮かぶ。
頭上を照らして、月光灯に光の粒子が蓄えられていく。
そんな数秒の間を置くと、試合場の真ん中に、私達でも見える明らかに怪しい粒子が集まって形になった。
「ま、眩しい」
「あはは、もしかして、本当に月の眷属ってことー?」
「可能性は……〇ではないな」
一体何が飛び出すのかな。私達は光が弾けるのを待つ。
目を逸らし、瞼を閉じて目を守っていると、眩い光が消える。
ようやく形になったのかな? 薄っすらと瞼を開く。
「一体なにが……ん?」
私は固まっちゃった。流石にちょっと引きの目線で見る。
いや、如何見ても、ウサギだよね? ウサギなんだけど……
私は自分の言葉に迷うと、みんなも同じことを思っていた。
「ウサギね」
「はい、ウサギですね。それにしても大きいですが」
「あはは、でもただのウサギじゃないでしょー?」
「かなり筋肉質だよね。Night、あのウサギって……」
現れたのは白いウサギだった。アルミラージよりも白くて、透明に近い。
長い耳、丸っこい愛らしい顔立ち。だけどかなり筋肉質。
特に後ろ脚が凄くて、きっと蹴飛ばされたらひとたまりもないと思いつつ、一番の違和感から目を背けた。
「いや、もっとあるだろ。なんで二足歩行なんだ?」
Nightはバッサリと言い切った。
目の前に現れたのは、明らかに二足歩行立ちをしている白いウサギ。
しかも三メートルくらいはあって、普通に私達よりも大きかった。
丸っこいのに、何だか怖いなって感じる。
「Night、あのモンスターがなにか知ってる?」
「……」
「知らないんだ」
Nightでも知らないモンスター。つまり有名じゃないってこと。
事前情報が無い、神様が寄越した月の眷属。
一体どんな動きをするんだろう。身構えていると、クルンと振り返られ、四足歩行を取った。
「こ、こっちを見たよ」
「ま、まぁ、なにもしなければ大丈夫でしょ?」
「でもさー、戦わないと」
「そうですね。ですが……」
雷斬は刀の柄を握っていた。震えている……のかな?
何だか動きがギコちない気がするけど、きっと気のせい。
ってことにしたいけど、カチャン! と鍔が音を立てると、モンスターは右前脚を蹴り出した。
パァンッ!!!
けたたましい音が走った。
鼓膜が破けたのかと思ったけれど、それだけじゃない。
私の左耳を何かが霞めると、真後ろに生えていた木の幹が抉れていた。
「……えっ?」
言葉を失ってしまった。唾を飲み込むと、理解が追い付かない。
木の幹が抉れている。原因は、樹皮を突き破って刺さった小石。
尖った部分がとかじゃない。とんでもない速度で蹴り込んだせいで、木の幹に直撃して抉り削ったんだ。
「い、今のってなに!?」
「知らないわよ、そんなの!」
「そうだけど……今までのモンスターとは訳が違うかも」
身構えるとか、警戒するとか、そんなんじゃない。
ここは逃げることも視野に入れつつ、私達は瞬時に戦闘態勢に入る。
するとモンスターの方は、私達を敵とか思っていないみたいで、今の一蹴りでビビらせたと高を括っていた。それなら、その油断を使うよね、Night!
「Night、どうするの?」
「一度牽制を入れてもいいかもな」
「牽制?」
あのモンスターがどんな攻撃をして来るかは分かった。
でも、油断したら絶対にダメ。
隙を突くとは言ったけど、まずは牽制だ。
「ああ。あのモンスターがなにかは知らないが、今の攻撃でビビらせたと思っているなら、これ以上に美味い展開は無い」
「よーしっ! だったら、私が行くぞぉ―」
確かに美味しい展開かもしれない。
モンスターに攻撃を仕掛ける絶好の機会。
そんな折、フェルノは地面を蹴る。
「お、おい、勝手に!?」
「フェルノ、ダメだよ」
私はフェルノの腕を掴んだ。
グッと引き寄せると、フェルノを行かせないようにする。
多分このタイミングはダメだった。攻撃のタイミングをミスったらお終いだ。
「どうして止めるのさー?」
「あのモンスターは凄く危なそうだよ」
「そうですね。私の手が震えるなんて……」
「恐怖心って奴よね。……それにしても、悠長ね。余裕の表れなのかしら?」
モンスターから感じるのは恐怖だ。
得体のしれない恐怖に、私達は慄く。
でのこのまま何もしないのは違う。今はとにかく攻撃だ。
「いいか、タイミングだ。重要なのは、アイツの隙を縫うこと」
「分かってるよ……」
私はソッと瞼を閉じる。意識を集中させると、タイミングを読んだ。
空気の流れを読むなんて、ちょっと難しい。
ベルみたいにスキルじゃないけど、私の判断とNightの声が被る。
「「今っ!」」
掛け声と共に仕掛ける。
まずはNightが拳銃を取り出す。
引き金を引いて、弾丸を放つ。その脇を私達が走り抜けると、モンスターは耳を動かした。
ピクン!
その拍子に後ろ脚を引いた。
腰を落とすと、パンと飛ぶ。
地面を蹴飛ばして私達の方に飛んで来ると、飛んでいた弾丸を前脚で弾き飛ばす。
「なにっ!?」
Nightは呆気に取られてしまった。
けれどこれも予想していたみたいだ。
素早く避けて、モンスターの攻撃範囲を回避すると、ホッと胸を撫でた。
「ふぅ、よか……えっ!?」
言葉を失った。モンスターの狙いはNightじゃない。
一番厄介な筈なのに、如何して外すの?
しかも私の方を見ている、近付いてる?
あれ、もしかして、狙いは私なの?
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
私は急ブレーキを掛けると、もはや賭け。
振り上げられたかかと落しを前に、私はしかと見る。
その場で立ち止まって、でも重心は後ろに倒しながら避けると、モンスターの脚が空を切り、私の頭に振り落とされた。
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