◇290 月を消してみせましょう
こんなのでいいのかよ! ってなってください。いいんです、いいんですよ。
「嘘っ、それいいの?」
私はハチャメチャなことを言われてビックリした。
まさかとは思ったけど、本当に頓智みたいな感じだ。
「試してみていいだろ」
「試すって……もっと他に無いの?」
「あるにはあるが、一泡吹かせないと、癪だろ」
Sin=ナルツキノミコトさんに一泡を吹かせたいらしい。
うーん、それで動じてくれるのかな?
ちょっと面白いけど、試してみてもいいのかな? 私はNightの提案を飲んだ。
「いいよ。やってみよう」
「よし。それじゃあ決まったな……」
Nightはクルンと振り返った。
腕を組み、目を閉じているSin=ナルツキノミコトさんの前に立つ。
すると気配で気が付いたみたいで、「なんだ?」と問われた。
「おい、決まったぞ」
「決まった、だと? 我の試練を超えられるというのか?」
「当たり前だ。そのために声を掛けた」
Nightは相変らずだった。Sin=ナルツキノミコトさんはイラっとしている。
だけど神様の威厳と寛容さによって、上手く受け流してくれた。
でも、これで失敗は……しない。したくない・
「では、我にその答えを見せてみよ」
Sin=ナルツキノミコトさんは「フッ」と笑った。
豪語するけど、本当上手く行くのかなって気持ちが完全に拭われた訳じゃない。
ちょっと面白い……けど、やってみるしかない。
「ふっ。だそうだ、フェルノ!」
「OK。んじゃ、せーのでっやぁっ!」
フェルノは種族スキルを発動する。【吸炎竜化】が応えた。
全身に真っ赤な竜の鎧を纏うと、背中からは翼が生えた。
鋭く発達した爪が伸びると、地面をパン! と蹴った。
「なにをするつもりだ?」
「まぁ見ていろ」
Sin=ナルツキノミコトさんも気が付いていなかった。
だけどNightはそれさえ見越していて、フェルノは翼をはためかせる。
宙に停滞すると、渡されていたNightのマントを使い、鳥居の扁額にヒラリと掛けた。
「どうかなー、Night-?」
「充分だ」
「……これでなにが変わったのだ?」
流石にSin=ナルツキノミコトさんもピンと来ていない。
やっぱり想定外のことをしているんだ。
でも大丈夫。私達の狙いはまさにそれで、一泡吹かせることなんだ。
何だろう。Sin=ナルツキノミコトさんの表情が面白い。
キョトンとしていて、本当に頭になかった。
ふと拝殿から飛び降りると、裸足で舗装された神道を行く。
「一体なにを……」
「アレよ!」
ベルが指を指した。視線をふと誘導する。
鳥居の扁額が一部だけ隠されている。
これで“月を消した”ってことになってるんだけど、ピンと来ていないみたい。
「一体なにを消したというのだ?」
「月だ」
「月だと? これの何処に月が隠されているというのだ!」
グィー――――――――――――――ン!!!
空気が張り詰め、上から押し潰された。
重力を支配されているみたいな感じで、私達は圧倒的な威圧感に襲われる。
一体これは何? 何が起きているの? もしかして、嫌われちゃったのかな?
「えっ、あの、その?」
「……何故だ。何故我の威圧が効かんのだ」
「えっ、あの、その……みんな?」
みんなの顔色が凄く悪かった。
クロユリさんの時に似ているけれど、それとはまた違う。
もっとこう、高貴な感じのエネルギーに押し潰されたみたいな感じで、みんな膝を崩していた。
「みんな、大丈夫? 立てる?」
「……ああ、はぁはぁ……神だかなんだか知らないが、少し勘違いをしているんじゃないのか?」
「なに?」
Nightは気持ちが悪そうで、それでも立ち上がった。
Sin=ナルツキノミコトさんのことを上から目線で否定すると、スッと指を指す。
見るべきはそこじゃないってことで、ニヤッと笑みを浮かべた。
「私達は満“月”神社を消した」
「……はっ!?」
Sin=ナルツキノミコトさんは何か気が付いた。
扁額の一部にマントが掛かっている。
その意味をようやく理解すると、威圧感が解ける。
「「「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」」」
威圧感から解放されたみたい。
ペターンと地面に押し潰されているって感じより、解放された感じだ。
心の余裕を取り戻すと、対照的でSin=ナルツキノミコトさんは口を開けていた。
「月を消した、だと?」
「ああ。本当は、扁額をコンクリートかなにかで塗り固めたかったが、罰当たりになるからな」
「……貴様が言うな。だが、貴様が言うからこそ、理解できる。面白いぞ」
凄い好印象を貰った。
ここまでのいやり取りで、印象は最悪だった。
けれど今回で挽回したみたいで、Sin=ナルツキノミコトさんは笑っている。
私達がやったのは、本当に頓智みたいなこと。
満月神社の象徴的な、立派な細かい装飾の入った扁額。
そこにはこの世界の文字で、満月神社と刻まれていた。
その内の一つ、“月”の文字を消した。
実際には隠したんだけど、如何やらアイデアがいいみたい。
Nightっぽい……って言うか、ひねくれているのかな? でも、なんか面白かった。
「ふっ、見れば見る程単純だな」
「単純でいいんだ。凝ったことをする必要は無い」
「貴様が言うのか? 月の立体物を作った奴がな」
「それもそうだな。だが、私達は試練を超えたぞ」
Nightが言葉を足せば足す程、何だか普通じゃない感じがする。
それがいいんだけど、Sin=ナルツキノミコトさんは受け取ってくれた。
だからこそ、Sin=ナルツキノミコトさんに認めて貰えたらしい。試練は無事に……?
「いいだろう。だが、最後の試練を超えてみる覚悟はあるか?」
ん? まだあるの。結構大変だったよ?
Sin=ナルツキノミコトさんも意地悪だよ。もしかして怒ってる?
そうとしか考えられないけど、ここまで来たんだ。やるしかないっぽい?
「は、はい。頑張ります!」
「いいだろう。ならば見ろ」
Sin=ナルツキノミコトさんの体が光り出した。
また眩しい光が投影されて、私達は視界が潰される。
瞼をソッと閉じると、過去最大級の月の光に当てられて、私達は震えた。
「な、な、な、なにが起こってるの!?」
「分からない……だが」
「また変身するの?」
「ここまで来たらそうでしょ」
「一体どのような方が……あれ?」
光が解けた。私達はユックリ瞼を開ける。
そこに居たのはSin=ナルツキノミコトさんじゃない?
もちろん、Me=チルツキノコトさんとも違う。
何処か男性のような力強さも、女性のようなしなやかさもある。
不思議な感覚で、私達は言葉が出ない。
頭が混乱すると、ピコンとはてなが浮かび上がった。
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