退学制度
「あーーーー!!楽しかったな!!」
「そうですネ幸!とっても興奮したのでス!」
ドーム入口を入ってすぐの所にある更衣室で着替えつつ、先の授業の興奮を噛み締めながら幸とスフィカが叫ぶ。
「すっごい、緊張した、よねクリー」
「全くだ。終わってしまえば、いい経験だったと言えるがな」
ふむ、やはりと言うべきか、あの2人組はこの授業を通して距離が縮まったように見える。
「ようやく、兵士訓練校らしい授業になってきたわね」
「あはは、そうだね。凜はあまり緊張しなかったの?」
上の体操服を脱ぎながら下着姿の凜に質問を投げかける。
カッターシャツのボタンを留めながら凜が口を開く。
「まさか、そんなわけないじゃない。それはもう人生で1番緊張したわよ」
「凜は大袈裟だな…………あれ、意外とそうでもないのかも?」
自らの人生を大雑把に振り返り、過去の緊張事例一覧を検索してみるが、あながち凜の発言は誇張されていないかもしれなかった。
ふと、耳に届いた微かな唸り声。
発生源へと視線を向けると、そこにはプリントを握りしめ、凝視している夕がいた。
「夕、どうかしたの?」
「今度、テストするって、先生、言ってた、から」
2年生になって初めての、機体に関するテスト。
序盤も序盤、こんな基礎的なテストから芳しくない点数を取ってしまえば、成績への痛手は避けられない。
そんなプレッシャーを夕は早くも感じてしまっているのだろう。
「授業、緊張で、あんまり覚え、られなかった、から…………。ちゃんと、覚えないと」
「そうね……………2年生からは、退学制度も適用されるわけだものね」
「ちょっと凜!今の夕にそれ以上圧かけたら…………ほらみろ」
これがアニメであるならば、間違いなく「チーン」という擬音が使われていることだろう。
幸が夕の肩を軽く叩きながら正気に戻そうと試みる。
退学制度。
有り体にいえば、兵士になれる器にないものを辞めさせる制度だ。
この制度によって退学へと追い込まれる生徒は多く、己の実力不足を悔いながら訓練校から去っていくのだ。
しかし、「生徒の未来を打ち砕く非情な制度」と捉えているものはいないに等しく、むしろ世間からは「救済制度」とさえ言われている。
というのも、実力不足とはつまり、戦地へ赴いたところで他の機体の弾除けになれたら御の字ということだ。
無駄に命を散らすことを避けられる、そういった面からこの制度は大切にされている。
毎年、この制度によって打ち砕かれる兵士の数はおよそ3〜4割。
平常点の加え、専用機試験を除いた定期テストによって退学対象か否かを決定するのだ。
「ご、ごめんなさい黒森さん。そ、そのっ…………深呼吸!」
自分のせいでさらに混乱させてしまったと、凜は反省しながら深呼吸せよと懸命に夕を宥めるが、尚も虚ろな瞳でプリントを見つめ続ける夕に幸は、
「どうした夕、葉菜と約束しただろう? 次会う時は立派な専用機乗りだって」
幸が夕の頭に手を置きながら放った一言に、夕はハッと我に返る。
カチカチに固まっていた思考が頭を撫でる手によってほぐれていくのが傍目に見てもよく分かる。
安心しきったように「ほう………」と息つく夕にその場にいるみなが癒される。
「ん……………ありがとう、幸。もう、大丈夫だから」
「そうか。よかった」
姉と妹、あるいは母と娘か。
どちらにせよ、そのように錯覚してしまいそうなことが多々ある2人に私も心を溶かされる。
スフィカは両手を顔に当ててクネクネしていてなんか怖い。
「中嶺さんは、黒森さんの精神安定剤か何かなのかしら」
凜もまた夕が落ち着いてくれたことに安心し、2人の関係をそう表現する。
「そうかな」と幸は肩をすくめながら、しかしどこか嬉しそうに同調する。
その後、夕の振る舞いに癒された私たちはゆっくりと着替えを済ませて、長めの休憩時間へと突入したのだった。
みなさまこんばんは!イロハです!
あるいはおはようございますこんにちは!
原稿書いてて発見したのですが、
「あながち」って「强」って書くんですね………。
この漢字が「あながち」とは別の意を持つ
言葉だったら元も子もありませんが(笑)
作者は漢検を受けるくらい漢字が好きな
変人なのですが、これは知りませんでした。
学び学び。
後で調べてみます。
それでは今回はここで終わりましょう!
ありがとうございました!
また次回、よろしくお願いします!
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【次回投稿予定日は 3月29日 22時 です】




