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鉄の世界に咲く花は  作者: イロハ
一年生
29/247

ハッピーバースデー、夕 #4

「ねえ……新城さん、永咲さん大丈夫なの?」


寿司屋を後にした私たち。

凜に心配されている理由は決して食べすぎなどではなく。


「あ〜辛い……痛いよぉっ……」


「幸、やってくれたね……」


例の悪魔、その親分は幸。

私と葉菜の知らないうちにワサビを大量に塗りたくっていたのだ。

それがイカやエンガワなど白いネタであれば外から分かったかもしれないが、その時食べていたのは2人そろって不運にもマグロ。

当然外から見ただけで気づくことはできず、そのまま口の中へ緑の塊と共に寿司を運んでしまったのだった。


咀嚼1回目にしてワサビがニョロっとネタとシャリの隙間から溢れ出し、ダイレクトに舌を覆った。

それは当然悶絶モノであり、涙を滲ませながらお茶で無理やり流し込んだのであった。


「幸、だめ、でしょ?」


「はい、反省しております」


若干頬を膨らませた夕に咎められ、幸が素直を謝る。

魂が抜けたような棒読みだったことはこの際言及しない。

というか言及するだけの元気もない。

幸が自販機を見つけて、ジュースを2本買ってきた。

それを私と葉菜に1本ずつ渡してくれる。


「ほんとに悪かったって。お詫びだよ」


幸から受け取ったジュースを止まることなく飲みほす。

多少なり痛みは引いただろうか。


「ふぁーやっと少しは治ったかな」


「葉菜治るの早いよー……私まだヒリヒリするのに」


私より早く痛みが治まったらしい葉菜は大きく息を吐き、親分(さち)をじっと見つめる。


「今度機会があったら絶対に仕返しを……」


「っへへーん、やってみろっ……あ、調子乗りましたすんません」


葉菜からの報復宣言に強気に出るも、夕にジト目で見られてキュッとすぼまる幸。

徐々に私も痛みが引いてきた。


「黒森さん、次はどこへ行くのかしら?」


「次は、服屋さんに、行く。もう見えてる、けど」


夕が前方に見える看板を指さしてそう答える。

私たちはその看板を目指して再び歩き出した。


「なんか気に入った服があったら買ってやるよ。誕生日プレゼントだ!」


「「賛成!」」


そんなわけで夕への誕生日プレゼントも買うことになった。






ドアをくぐると、何ともオシャレな雰囲気が漂っていた。

服の配置や照明の形、明るさなど隅々まで雰囲気にこだわっていることがわかる。


「夕、今日は何を見に来たの?」


「今日、はスカート。暗め、の色のやつ」


「ズボンやスカートはあっちみたいよ」


凜がスカート、ズボンのパネルを見つけ私たちを呼んでくれる。

ラックにかけられていたり、畳んで並んでいたりと複数のスカートを眺め、手に取り夕がどれにするかを迷っている。

私と凜もいっしょに探すことにした。

葉菜と幸は既に姿が見えなくなっていたが。


「あら、これいいわね……ちょっと試着してこようかしら」


「うん、いってらっしゃーい」


凜が白に淡い水色の入った長めのスカートを手に試着室へ向かった。

私と夕は依然スカートを探す。


「紗愛、私も試着、してくる」


程なくして夕もお気に入りのスカートを見つけたらしく、試着へ向かおうとする。

今回は夕がメインなため、私もついて行くことにした。




「葉菜!これどうだ!?」


3人とは別の試着室。

ジャーンと勢いよく開いた試着室の中には清楚で大人びたカーディガンを羽織る幸。


「おー、かっこいいねそれ!」


と、幸の服を褒める葉菜もまた隣の試着室で服を試し着。

可愛らしいピンクのワンピース。

どちらかと言えばボーイッシュ系の服が多い葉菜と幸にはあまり馴染みのないタイプの服だ。


「葉菜のそういう服、あんまり見ないから新鮮だな」


「幸そのカーディガン買うの?」


「いやー、今日は買わないかな。葉菜は?」


「私そんなにお金もってないから……今日は後夕へのプレゼント代くらいしかないのだ」


「そういえば3人ともどこ行ったんだ?」


「………迷子なのかな?」


「とりあえず合流するか」


「そうしよっかー」





「黒森さん、どれにするか決まった?」


「うん、これにする」


「それじゃあそれ貸して!みんなでレジに行こう!」


葉菜と幸も合流し、みんなで均等にお支払い。

袋に包み、夕に渡す。


「はい、みんなからだよ!お誕生日おめでとう!」


「うん、みんな、ありがとう」






現在時刻15時30分。

夕への誕生日プレゼントを買ったところで今日の予定は終了。

このあと夕は家の方でもお祝いをするとのことで、早めの解散となった。

みなで学校へ一度戻り、そのまま解散となった。


==============================



家の門の前。

右手側にある異様に豪華なポストの中を覗く。

今となってはこのポストも見慣れたものだ。

そこには思っていたとおり、手紙が一通。

差出人を確認すると、その名前もまた思っていたとおり。


今ここには私1人。

気を使って先に家の中へ入っていってくれた「家族」に感謝しつつ、その手紙を開く。

その内容も、またしても思っていたとおり。

毎年同じ日に一度も欠かすことなく送られてくるその手紙を読み、そして今年も小さく蹲って涙を流した。

おはようございますこんにちはこんばんは

ついでにおやすみなさいまで!イロハです。

今回で夕のお誕生日編は終わりになります。

次回からはまた別のお話になります。

どうぞ今後もよろしくお願いします!

それではまた次回!ありがとうございました!


次回投稿予定日は 6月12日 です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです。 [一言] RT企画ご応募ありがとうございました。
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