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鉄の世界に咲く花は  作者: イロハ
二捻生
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内なる悪魔

グラウンドから帰ってきた幸と入れ替わりに、私は今グラウンドへと向かっている。

不必要な程に脈打つ心臓と、額や背中を伝う冷や汗とが相まって、緊張感と不快感が私の心を占有している。


「大丈夫、さっき、だってあんなに、確認、したし……………」


散々プリントを使って頭に詰め込んだ各パーツの役割や、シミュレーションで会得した技術を思い出し、気持ちを無理やり授業に集中させる。


「それに、私は――――――――――」


様々な方法を駆使し、必死に己を落ち着かせようと試みる。


そして、気づけばドームの入口。

最後にもう一度大きく深呼吸をして、私はグラウンドの土を踏みしめた。


「それに、私は………………お母さんの、娘、だから………………!」


=======================



「次は、黒森さんね」


「はい、お願い、します」


幸に続き、次は夕の初操縦授業が始まる。

手汗で湿る両掌(りょうてのひら)をズボンで拭い、小さな手でレバーを握りしめる。


「緊張してるかと思いましたけど、案外大丈夫そうですね」


「そ、そんなことは、ない、ですけど……………やらなきゃ、なので……………」


予想外の強気な発言に、宮井先生が少々驚く。


「そうですね。兵士を志す以上、心の強さは大事ですから、その気持ちは大切にしてください――――――――それでは、始めていきましょう」


=======================



「次は君か。初めまして、AMEO日本部隊少尉の国代(くにしろ)秋穂(あきほ)だ。よろしくな」


「初めまして、留学生のクリー・シュレイダムだ」


夕と宮井先生の乗るエリスムとは別個のエリスムのコックピット内で、初顔合わせの果たしたクリーと国代が互いに挨拶を交わす。

すると国代先生は急に息をつき、胸を撫で下ろすような仕草を見せた。


「…………………どうしたんだ?」


「いや、すまない。君は物静かで安心したよ。さっきのスフィカという子がこの狭いコックピットで随分騒いでいたから、疲れてしまってな」


「………………………それはどうも、お疲れ様です」


自分と同じ留学生、しかし存在感だけは似ても似つかぬやかましい金髪を思い出し、クリーは同情の苦笑を浮かべる。

スフィカは、シミュレーション室へ帰ってきた時、


「国代先生とってもいい人だったのでス!お友達になれそうでしタ!」


なんてことを言っていたが、それはとんだ勘違いなのではないだろうか。


「よし、喋っていても時間が勿体ないな。早速始めようか」


「わかった、よろしく頼む」


「まず初めは歩くところからやるぞ。シミュレーションを思い出して、少し歩いてみろ」


脳内に学んだことを描き出し、レバーを掴む左手を前へと押し出す。


「そんな感じだ。一先ずはこのペースを守って、振動になれるぞ」


「ああ、わかった」


日常生活ではそうそう体験することはない、連続する縦揺れに耐える。

十数歩ほど歩いたところで、国代先生が再び口を開いた。


「君は、どうして日本へ留学したんだ?」


「………………まあありきたりだが、人型の機体に憧れがあったからだ」


刹那の淀みののちに、クリーが応える。

なるほどねぇーーと相槌を打ちながら、下に置かれていた資料を手に取る国代先生。


そのやり取りから更に5歩程度進んだところで、不意にクリーがレバーの引きを緩める。

それに従い、エリスムが歩みを止めた。


「どうした?」


「今度は私から尋ねたいのだが……………先生は、魚村(うおむら)という兵士を知っているか?」


「う………おむら……………あー知っているぞ。私より幾つか年下だが、腕のたつ兵士だ」


「今も前線で戦っているのか?」


「そうだな。階級も私より上の中尉にいる、立派な専用気乗りだよ」


そう答えた途端、クリーの心が激しく揺れた。

真紅の瞳はより深く、くすんだ色へと移り変わり、全身に汗が吹き出る。


「………………そうか」


そのクリーの小さな呟きを聞いた国代は、全身が硬直する錯覚に陥った。

つい先程までの語調とは全く異なる、遥かに低い唸るような声。

怨嗟や憤怒に塗りつぶされたような、毒々しい声。

それはまるで―――――――――


「………………………悪魔………………」


クリーにまでは届かないような小さなか細い声で、無意識にそう零す国代先生。

そのまま数秒間漂い続けた重々しい空気は、


「いきなり変な質問をして、すまなかった」


という、「悪魔」ではない、クリーの声によって融解した。


「……………いや、気にするな。それより、次へいこうか」


ゴクリと唾を飲み込み、何事も無かったように対応する国代先生。

先程の空気を掘り返さなかったのは、決して授業の時間が押してきているからではない。


下手に刺激すれば、この少女に喰われてしまうと、兵士としての直感がそう告げていたからだった。

みなさまこんばんは、イロハです。

あるいはおはようございますこんにちは。


意味深な回は、やはり書いていて楽しいですね。

もちろん、その意味の深堀はここでは

出来ませんが、後々に分かっていくと

思いますので、どうかお楽しみに!


最近、凄い久しぶりに火傷をしました…………。

水膨れになって、鬱陶しい痛みが続きましたが、

なんとか萎んでくれました…………(苦笑)


それでは、今回はここで終わります。

また次回もよろしくお願いします。


※Twitterもあります

https://twitter.com/iroha_TETUHANA


【次回投稿予定日は 6月14日 22時 です】

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