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第32話「とにかく、魔術の威力を上げたいのです(2)」


 数十分後。



「……うまくいかねぇ……」


 練習に疲れた俺は、ぐったりと切り株に座っていた。




 俺が試すことにした光投槍ライトジャベリンは、『消費MP15』の割には威力が高く、初心者向け【光魔術】の中ではコストパフォーマンスが良い術式と言われている。


 ゲームで術式を研究し続けている有名プレイヤーいわく、『発動時の見た目』『動きの優雅さ』など余計な部分に魔力を使わず、「相手にダメージを与える」というシンプルな目的に特化した術式であるから、というのがその理由らしい。



 自分の現在の魔術系ステータス――最大MP74、魔術攻撃力58、光魔術スキルLV1――をふまえると、「小鬼こおに洞穴ほらあなダンジョンボスにそこそこダメージを与えられ、かつ諸々の効率が最も良い術式」はこの光投槍ライトジャベリンではないかと考えている。





 投槍ジャベリン系発動時のイメージは、魔力で細長い槍を作り、それを投げるようにして対象にぶつける……というものだ。


 俺の場合、「光魔力で槍を具現化する」という手順までは何とかなるんだけど、その後がどうにもうまくいず。何度やっても、どのようにぶつけようとしても、狙った的――少し離れた位置に生えている木――に当たってくれない。



 何となくTVで見た陸上競技の槍投げの動きを思い出して投げてみたり。

 見本としてテオに、風属性ではあるものの同じ投槍ジャベリン系な『風投槍ウィンドジャベリン』を実演してもらい、その動きを真似したり。



 毎回イメージや動きを少しずつ変えつつ、できる限りの試行錯誤をしてはいたのだが……何度も繰り返しているうちに、とうとう集中力の限界が訪れてしまった。






「はい、MP回復薬(ポーション)

わりぃな」


 疲れ切った俺にテオが小瓶を手渡してくる。

 瓶の蓋を開けて中身を一気に飲み干し、ぷはぁと一息。



 MP回復薬(ポーション)は、栄養ドリンクをさらに濃縮した感じの強烈な味で、正直なところ味わって飲むようなもんじゃない。

 息を止め一気にグイッといかないと、喉の辺りでつかえて蒸せてしまう、飲み込むどころじゃなくなってくる。


 救いは量が少ないところと、後味が悪くないところ。

 飲む瞬間はきついけど、喉さえ通ってしまえば意外と口がさっぱりするから、水とかで口直しまではする必要がないんだよな。





「……見てて思ったんだけどさ、タクトは、()()()槍を投げるイメージでやってるんだよな?」

「うん。なかなかイメージ通りにいかないけど、投げようと努力はしてる」

「あぁ……たぶん原因それだっ」

「え?」


 俺の試行錯誤を横で見ていたテオは、どうやら何かに気付いたようだ。


「ん~……タクトは槍って投げたことある? 魔力の槍だけじゃなく、木製とか金属製とかの槍でもいいからさ?」

「いや、無い」

「やっぱり! 投げ方見てて何となく分かったぜ」


 テオは納得したらしく、1人でウンウンとうなずいている。



「何が分かったんだ?」

「OK、ちゃんと説明する! そもそも魔術とは何かって説明は覚えてるよね?」

「えっと……『精霊の力を借りて、魔力を自由に扱うスキル』だよな」

「そのとおり。でも今のタクトの『光投槍ライトジャベリン』は、光の槍を具現化するとこまでは魔力を使ってるんだけど、投げる段階では魔力を全然使ってないんだ」

「……?」



 テオによれば、魔力の意思である精霊は、『術者のイメージ』を汲み取って魔力を具現化したり、何らかの効果を生み出したりしているとのこと。


 だから基本的に、術者のイメージする範囲でしか魔力は働かない。



「……だから、さっきのタクトみたいに『自分で投げよう』って強く意識してイメージしてると、精霊は『あ、投げる時は手伝わなくていいんだ!』って解釈しちゃうから、魔力が働かなくなっちゃうんだよ。で、タクトは元々槍投げが上手いわけじゃないだろ?」

「正直……自信ない」

「しかも【投擲とうてき術】も習得して無いから、他のスキル補正も入んないし。それじゃ、自力で的に当たるわけないじゃん!」

「そういえば……」



 元陸上部だという知り合いから「槍投げは意外と難しいよ。きちんとフォームを覚えて、真っすぐ投げられるようになるまでだけでも時間かかる」と聞いたことがあるのをうっすら思い出す。



「もう分かったよね?」

「ああ。自力で投げようとしないで……自動的に的に当たるようなイメージで投げればいいんだな?」


 テオは満面の笑みで「その通りっ!」と答えた。




 ふと俺は「光矢ライトアロー光球ライトオーブに関しては、なぜ上手く的に当てられたのか」疑問に思う。

 テオと話した結果、以下のような結論になった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

光矢ライトアロー:矢だけじゃなく弓も魔力で具現化したことにより、『弓の力で真っすぐ矢が飛んでいく姿』を無意識にイメージできていたから


光球ライトオーブ:俺が元々『球状の物』を投げ慣れていたから

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 学生時代に球技でボールを触っていたのが、こんなところで役に立つとはな。





**************************************





 ほんの少し休憩を挟んでから、俺は光投槍ライトジャベリンの練習を再開。


「タクト、どんなイメージで投げるか決めた?」

「おう。何となくは固まったよ」



 発想を変え、投げる段階で『魔力を利用』する。

 標的となる木をもう一度見据えてから、イメージを固めつつ詠唱を始めた。



 

「……きらめく光達よ、鋭く(とが)れ。その穂先を研ぎ澄ませ……」



 詠唱にこたえるように、俺の手へと白い光が集まり、徐々に力強い槍へと姿を変えていく。


 ここまでは何度も成功済み。

 問題はこの後だ。



「そして……」



 手の中の槍が、()()真っすぐ的へと飛んでいくようしっかりイメージしつつ詠唱を仕上げ、槍を投げる!


「貫け! 光投槍ライトジャベリン!」




――ビュウンッ!




 俺の手を離れた瞬間、白い光の槍は自ら加速。

 轟音(ごうおん)を立てて的にぶつかったかと思うと、小さく爆発して消えた。




 標的にしていた木に、ゆっくりと近づく。


「……すげぇ」


 光の槍がぶつかって消えた木の幹には、『光矢ライトアロー』の時とは違い、大きな大きな穴が開いていた。


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