第25話「こんな時、頼りになる人(1)」
俺とテオは『小鬼の洞穴』から、いったん離脱することにした。
なるべく最短距離で引き返し、夕方には地上へ到着してテントで1泊。
翌日の昼過ぎに、エイバスの街の正門まで戻ってきた。
「「おつかれさまでーす」」
今日も門前で仕事中の守衛・ウォードに、揃って挨拶する。
「おつかれさん。お前ら小鬼の洞穴どうだったよ?」
何気ないウォードの言葉に、顔を見合わせる俺とテオ。
「そのことなんですけど……ちょっと急ぎで相談がありまして」
「ん? 別にいいけどよ、早くても今日の仕事が終わってからになっちまうぞ?」
「大丈夫です!」
ウォードと夜に会う約束をした俺たちは、街の中へと入っていく。
「ふぅ……あ~~緊張したっ!」
門が見えなくなったところで、テオがすっきりした笑顔になった。
あまりの変わりっぷりに俺は思わず苦笑い。
「ウォードさんの前だと、テオは借りてきた猫みたいだな」
「だって何かあるとすぐ俺を怒るんだぜ? そりゃおとなしくもなるだろ」
「怒られるような事するからだろ?」
「うぅ……まぁでもウォードが力になってくれるなら、ホント頼もしいよなっ!」
「そうだな。オークジェネラルの時も凄かったし」
守衛のウォードは、強敵をあっさり倒してしまうほどの実力の持ち主。
かつては、テオと冒険者としてパーティを組んでいたという。
もし協力を得られたならば……攻略の成功率は大きくアップするはずだ!
*************************************
続いて、エイバス冒険者ギルドへとやってきた。
人もまばらな中、掲示板に貼ってある紙を整理していた『彼』に声をかける。
「よぉ、テオにタクトじゃねぇか!」
振り返って野太い声を出したのは、ウォードと同じくテオと旅をしていた元冒険者で、現在はギルドマスターを務めるダガルガだった。
ぺこっとお辞儀をする俺。
嬉しそうに、軽く手を上げて挨拶するテオ。
「お前らが、この時間にギルドへ来るなんざァ珍しいな!」
「今日はダンジョン帰りだからさっ」
「おう、そうか! ドロップ品の買取なら歓迎だぞ、何かあったらよろしくな!」
「ありがとー」
しばらくテオと喋っていたダガルガが、俺のほうを向く。
「で、タクトの調子はどうだ? 剣の腕は上がったか?」
「おかげさまで少しは。小鬼の洞穴の雑魚ぐらいなら、倒せるようになりました」
「そうかそうか。まぁそれだけ出来りゃ食うには困んねぇだろ、よかったな!」
「あ……アハハハ……」
俺の口から、思わず乾いた笑いがこぼれた。ダガルガへは『記憶喪失の見習い剣士』で通していたことを、今の今まですっかり忘れていたのだ……。
……勝手に気まずくなった俺は、本題を切り出すことにした。
「ところでダガルガさん、今ちょっとお話できますか?」
「おう、なんだ?」
「あ……えっと……」
つい辺りを気にしてしまう。
現在ギルド内は空いているとはいえ、全く人が居ないというわけではない。
もし聞かれたら……と思うと、この場で話すのは気が引けた。
「どうしたんだ?」
変わらぬテンションでたずねてくるダガルガ。
見かねたらしいテオが、彼の耳元へ小声で言う。
「……人に聞かれたくない話なんだ。ここだとちょっと」
「……難しい話か?」
よく分かっていないながらも、同じく小声で返すダガルガ。
テオは「うん」と答え、さらに一言添える。
「たぶん……ダガルガがギルドマスターになってから、1番の大問題かも」
「……そうか」
真面目な顔になったダガルガは、腕を組んで考え始めた。
ややあって、考えがまとまったようにうなずく。
「よし分かった! お前らついて来い!」
そう俺たちに言うなり、ギルドの奥へと歩き出した。
案内されたのはギルドマスター執務室。
やや広めの室内には、書類がどっさり載った木製ワークデスクが1組。
8人まで座れる応接スペースには、革張りソファやテーブルが置かれている。
全員が席についたところで、ダガルガは真面目な顔で言った。
「そんじゃ、話してもらおうか!」
*************************************
「……マジで大問題じゃねぇかよ……」
俺がメインとなり、ところどころテオが補足を入れる形で事情を説明。
――実は俺が異世界から来た『勇者』であること。
――暗殺などから身を守るため、その正体を隠していたこと。
――ダンジョン『小鬼の洞穴』のボス部屋でおきたこと。
ひと通り聞き終えたダガルガは、頭を抱えてしまった。
「騙してしまい本当にすみません」
「まァその状況ならしゃあねぇよ……むしろこっちが助けてもらう立場だしな」
「いやいやそんな、俺じゃまだ実力不足ですから」
「これから強くなりゃ済む話だろ? 【光魔術】を使えるのは、勇者であるタクト、お前だけなんだ。別の世界から引っ張り込まれたとこ悪ぃんだけどよ……この世界のこと宜しく頼むぜ、勇者様!」
「は、はい!」
目を見て真剣に話すダガルガの言葉に、思わず背筋がピンと伸びる。
「……ところでよォ。今の話、どの辺まで漏れてんだ?」
「えっと、全部知ってるのは俺とテオだけです。あと、原初の神殿のエレノイア様とイアンは『俺が勇者だ』ってことだけ知ってます」
「嬢ちゃんもグルかよ! ん? そういやテオ、なんでお前は正体知ってんだ?」
「ん~っと、初めて会った時に気づいちゃった!」
「なッ……」
短く驚いたダガルガは、ふてくされた表情になる。
「……納得いかねェ」
「しょうがないじゃん、事が事なんだし――」
「水くせぇんだよ!」
なだめようとしたテオの言葉を遮るように、語気を荒げるダガルガ。
「確かにタクトはしょうがねェ、この世界に来たばっかりだしよ。でも、テオや嬢ちゃんは別だ! 少なくとも俺はな……2人とも、小っちゃい頃から知ってる大事な大事な家族みてぇな仲間だと思ってんだよ! 事が事だからこそ、隠し事なんかしねぇで最初っから頼りゃいいじゃねぇか!」
しゅんとしたテオは「……ごめん」と、小さな声で謝る。
「分かりゃいいんだ」と笑って返したダガルガは、俺のほうに向き直って言う。
「タクト、お前もだ。何かあったら遠慮せず俺に言ってくれよ!」
「……はい!」
「よし、いい返事だ! まぁ、まずは小鬼の洞穴を何とかしねぇとな」
そうニヤっと笑うダガルガが、改めてとても頼もしく思えたのだった。




