第23話「初ダンジョン・小鬼の洞穴、3日目(1)」
探索3日目の朝、『小鬼の洞穴』9階層。
10階層へと続く階段近くに設営したテントの中。
ボス部屋への突入を前に、俺とテオは作戦の最終確認をしていた。
あくまで“ゲームと同じ仕組みであれば”という前提付きだが。
ボスが纏う『闇の魔力』こそが、ダンジョン化の元凶だ。
これを消し去れば、この場所自体が闇から解放される。
そのためには【光魔術】などの光属性攻撃でボスにダメージを与えればいい。
具現化した『光』を『闇』にぶつけて相殺すれば、消えていく。
ただし浄化前にボスを倒してしまうと、やや面倒になる。
残った『闇』を消すには、再び現れるまで8時間待たなければならないのだ。
これをふまえ立てた、俺たちの作戦はこうだ。
まずはボスが【魔王の援護】で自動強化され、ゴブリン10体を召喚するだろう。
俺たちは念のため【鑑定】し、相手との戦力差を把握する。
すぐにゴブリンを4体まで減らし、そのままキープ。
3体以下にするとボスが再召喚を行い、10体まで増やされてしまうからだ。
続いて俺が【光魔術】でボスを攻撃。
できる限り距離をとりながら、ひたすら『光球』をぶつけていく。
テオは終始、サポート役だ。
とにかく臨機応変に、ボスとゴブリンとをあしらっていく。
「……これで問題なく浄化できるはず、だよな?」
10階層の見取り図を前に、俺がつぶやく。
テオは笑顔で答えた。
「たぶんね。ダメそうなら、もう1回挑戦すればいいわけだし」
「ああ。撤退判断は任せたぞ」
「OK!」
ちなみに、いざというときの切り札も用意してある。
ボスは『土属性』だから『風属性』の攻撃に弱い。
よってテオは【風魔術】【魔術付与】【魔術合成】を重点的に練習していた。
事前に想定した各種パターンの作戦を軽く確認したところで、テントを撤収。
俺たちは、意気揚々と10階層へ下りていった。
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他の階より少し長い、数十段もの階段。
その先に待っていたのは、大きな金属製の扉だった。
武骨で頑丈な黒い金属扉。
高さは軽く10m。
どことなく不穏な空気が漂っている。
「……これを開けたら、いよいよボス戦か」
さっきまで威勢がよかった俺も、さすがに少し緊張してきた。
「大丈夫だって。回復薬はいっぱいあるし、タクトの剣も魔術も上達したんだし」
「だよな……よし!」
覚悟を決めた俺が先頭に立ち、扉に手をかける。
重い扉を押して開けると、辺りに大きな音が響きわたった。
――ゴゴゴゴ……
扉の先には、広さ30m四方ほどの石造りの部屋。
中央に佇むのは、ダンジョンボス・ゴブリンリーダー。
普通ゴブリンより一回り大きく、不気味な黒いガスに覆われている。
俺と目が合った瞬間、奴は何かを察したらしい。
醜悪な顔を「ギキッ」と歪め笑った。
「グギャアアアァァーーーーーッ!!!」
耳を突き破るかのごとく轟く雄叫び。
咆哮に応えるように風が渦巻く。
強烈な衝撃波が俺たちを襲った。
と同時に、ボスを包むガス状の物質が変わっていく。
黒と紫が不吉に混じる禍々しいオーラへと。
俺とテオは顔をかばいつつ、飛ばされないよう足を踏ん張る。
「前情報じゃ、こんな動き報告されて無かったぞ? もしかしてこれって――」
「ああ。スキル【魔王の援護LV5★】を発動したんだ」
顔を強張らせるテオと対照的に、俺は割と落ち着いていた。
ゲームでは何度も見た『ダンジョンボスの強化演出』と全く同じだったから。
ややあって、衝撃波がおさまると。
毒々しいオーラを纏ったゴブリンリーダーが、凶悪な笑みを浮かべていた。
すぐに【鑑定】をかける俺とテオだが――
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名前 ゴブリンリーダー
種族 ゴブリン
LV 5
HP 1403 / 1403
MP 1824 / 1824
物攻 140
物防 240
魔攻 191
魔防 228
■状態
発動中【魔王の援護LV5★】(HP+1300、MP+1800、物攻+96、物防+210、魔攻+180、魔防+210)
■称号
ゴブリンの統率者:ゴブリンたちを従える者
土の魔物:肉体が土属性の魔力で構成される者
魔王の僕:肉体が完全に闇魔力で覆われている者
■スキル
剣術LV3:剣技での攻撃力が27倍になる
同族召喚LV3:自分より低LVの同種族を10体まで召喚できる
土特性LV1:自身の全ての攻撃が土属性攻撃になる
魔誕の闇LV5★:周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくする
魔王の援護LV5★:特定の条件下で、魔王の能力値の10%が加算される
■装備
錆びた剣(物攻+8)、破れた毛皮(物防+3)、ぼろぼろのマント
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「……嘘だろ?」
想定を大幅に上回る能力値。
今の俺たちでは傷ひとつ負わせられない防御力。
明らかに格上すぎるステータス。
俺もテオも言葉を失う。
ゲームの【魔王の援護】の強化数値は、その時の魔王の能力値により決まる。
それは勇者LVで確定し、変わることなど無かったはずだ。
だが現実の鑑定結果は、ゲーム上の約2倍。
「俺まだLV11なのに、なんでこんなに強化されてんだ……」
「これヤバいって! 早く逃げよう――」
現実を受け入れられず戸惑う俺に、テオが退避を提案する。
――だが時は既に遅し。
「ギギギッ!」
ゴブリンリーダーが剣を掲げ【同族召喚LV3】で仲間を召喚。
俺たちは、10体のゴブリンに回り込まれてしまった。
俺は慌てて剣を構える。
焦りつつ鞭を構え、ゴブリンに一括鑑定をかけたテオが驚きの声を上げた。
「こいつらも【魔王の援護】付きなのかッ?!」
「えっ、言ってなかったか?」
「聞いてない!!」
「すまん……スキルLVは1だけどな……」
うっすらと紫っぽいオーラに包まれているゴブリン10体。
全員がゲーム同様【魔王の援護LV1】持ちだったのだ。
もちろん、こちらも強化数値はゲームの約2倍。
うち1体の鑑定結果がこちら。
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名前 棍棒ゴブリン
種族 ゴブリン
LV 4
HP 281 / 281
MP 364 / 364
物攻 43
物防 54
魔攻 41
魔防 60
■状態
発動中【魔王の援護LV1】(HP+260、MP+360、物攻+23、物防+45、魔攻+36、魔防+42)
■称号
先天の棍棒使い:棍棒を持って生まれし者
土の魔物:肉体が土属性の魔力で構成される者
魔王の僕に呼ばれし者:魔王の僕に召喚された者
■スキル
棍棒術LV1:棍棒技に補正がかかる
土特性LV1:自身の全ての攻撃が土属性攻撃になる
魔王の援護LV1:特定の条件下で、魔王の能力値の2%が加算される
■装備
素朴な棍棒(物攻+5)、破れた毛皮(物防+3)
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背中合わせで武器を構え、敵を睨みつける俺とテオ。
円状に取り囲みニヤニヤするゴブリン10体。
離れたところで嬉しそうに眺めるゴブリンリーダー。
その膠着は、しばらく続き……。
「ギキャッ!!」
ゴブリンリーダーが剣を振る。
それを合図に、ゴブリンたちが一斉に飛び掛かってきた。
1撃目は避けた。
しかしその後も攻撃は続く。
俺は盾と剣で攻撃を防ぐだけで精一杯。
テオも鞭から剣へ持ち替えて応戦するが、こちらも防御するのがやっと。
気が付けば、徐々に離されていく俺とテオ。
まずいとは思った。
だが連携がとれたゴブリンたちの動きに、為す術はなかった。
そして、恐れていた事態が起こる。
「ぐはっ」
猛攻を防ぎきれなかった俺の腹に、棍棒での会心の一撃。
息が詰まる。
身体が動かない。
そのままゴブリン5体に囲まれ、ただただタコ殴りにされるだけ。
前後左右から怒涛のように襲い来る鋭い痛み。
ゴブリンたちの下劣な笑い。
テオの必死な叫び。
それらが遠くなっていく中、ぼんやりと俺の意識は遠のいていった。
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白く穏やかな月が照らすのは。
静かに澄み切った黒の闇夜。
そして……いつか見かけた、1人の少女。
瞬間。
おぼろげだった拓斗の頭が、ふわっと冴える。
彼女は変わらず美しく、だけど変わらず寂しげで。
「いったい、あなたは……誰なんですか?」
そう拓斗がたずねると。
少女はゆっくり、ゆっくり口を開いた。
「…………私は……リィル」
今にも消え去ってしまいそうなほど微かな声。
「リィル……それが、あなたの名前?」
少女はコクリとうなずき、そして儚く言い添えた。
「……リィル…………リィル・ヴェーラ……」
その答えを聞くや否や、拓斗は再び意識を手放した。




