発動 ソウルブレイド
今回は戦闘シーンもりだくさんです!
よろしくお願いします。
辺りが騒然としている。
みんなの視線が、俺に向けられていた。もちろんシノの目線も、がっちりと俺を掴んでいる。
「あなたは……あなたは、一体何者なの?」
シノは少し警戒が混じったような、そんな声を投げかけてきた。そうか。俺は、魔力を通さないキラーマシーンをこの素手で吹き飛ばしたんだ。
この世界……スカイ・ア・ウェイに存在する全ての魔力を持った人間が素手で触ることができないキラーマシーンのボディに、俺は触れたんだ。
その事象が導き出す意味は、すなわち……俺には魔力がない……つまり。
「シノ。すまない。黙ってたとかじゃなくて、言うタイミングがなかったんだ。だからその……」
「うん……」
シノは、頭を縦に振りながら一言だけそう言うと俯いた。
二人の間に沈黙が流れる。この村に来る道中でも度々、沈黙はあった。でも今回の沈黙は、話題が尽きたからとか、またそういうのとは違った別の沈黙だった。
この場面では、どういう言葉を切り出すのが適切なのか、俺には分からなかった。
シノは……シノは俺の事をどう思っているのだろうか…敵だと思っただろうか。裏切り者と……
「アレン」
時間だけが過ぎていったこの沈黙を、打ち破ったのはシノだった。
「アレンは異世界から来たの? と言うのも、アレンがキラーマシーンのバリアーを破る程、強いとも思えないし……なんちゃって」
えへへと、笑ったシノの顔を見て、俺はほっとした。軽くディスられたような気がしないでもないが、とにかく胸いっぱいに安堵の気持ちが染み渡る。
「うん。シノの言う通り、俺は地球っていう世界の、イギリスって国からやってきた。俺は異世界人だ」
シノが俺の方に向かって歩いてきた。目と鼻の先の距離まで顔を近づけてきて、俺は少しドキッとした。
「行けるかな、わたしも」
「え?」
「だーかーらー、アレンが異世界から、この世界に来れたって事は、またその逆の可能性だってあるじゃん?」
「そ、それはどうかな……もしかしたら、ほら……俺がこの世界に来たって言うのは単なる偶然ではなくて、必然だったのかもしれないし……」
シノの鋭い目線が飛んできた。俺は、小動物のように萎縮する。
「わかった。だったら、こうしよう。いけるかではなくて、わたしは行く。異世界に、アレンの世界に」
「は、はあ? 何をおっしゃられてるのでしょうかシノ様……いや、なによりも俺だって、元の世界に戻る方法なんて分からないだ」
「探そう? 一緒に。冒険しようよ。会ってまだ一日も経ってないのにさ、何だって出来る気がするんだ、アレンと一緒なら」
シノは、雲一つない青空のように晴れ渡ったような、清々しい表情をしていた。
俺もそう思う。シノがいたから俺は、キラーマシーンを倒せた。シノといると何だって出来そうな気がするんだ。
「ああ、俺が連れて行ってやる。俺の世界に。そして約束する。シノが見たことのない満天に輝く星空を、俺が見せてやる!」
左手の人差し指を、俺は空いっぱいに突き出した。
シノが笑った。俺も笑った。シノがいれば、世界の一つや二つ、救える気がした。
「でもさ、アレン。そんな約束してくれるのはとても嬉しいけど、まずは目の前のあれ、なんとかしないとね」
そう言ったシノの視線の先には、あの男が立っていた。キラーマシーンを倒しても、まだこいつがいた。
「で、話は済んだが? 異世界の少年よ」
「ああ、ばっちりだ。わざわざ待っててくれたのかよ。粋なはからいしてくれるじゃねえか」
「私はな、貴様が異世界の人間だと知ってますます興味が湧いた。少年よ、聞かせてくれ、貴様の名を」
「はんっ! 何言ってやがる。名前が知りたいなら、自分から名乗るのが筋ってもんだろ」
「口減らずのガキめ――いいだろう。私の名はベンズ、ベンズ・ジャストだ」
「そうか、ベンズ。俺はアレンだ。アレン・ターナー」
「アレンか。なあ、アレン――私は貴様みたいな異世界の人間とこうして、渡り合うのは初めてのことなんだよ。 私は今、猛烈にエクスタシーを感じている!」
さっきまで冷静だったベンズが、意気揚々と、興奮しているかのように俺に言葉を飛ばしている。
「遊ぼうじゃないかアレン! 私を、楽しませてくれ!」
そう言ったベンズの胸が再び光出した。またしてもソウルブレイドが発動された。
「準備はいいか? それでは、いざ! 参る!」
「ええっ!? さすがにいきなり過ぎるだろ! ちょっタイム!」
そんな言葉に耳を傾けてくれるわけもなく、ベンズが剣を真っ直ぐに突き出してきた。
俺は、それを左にステップを踏んで回避する。瞬間、左足に痛みが走った。
「グっ! しまっ……!」
左足を着地させたそこは足場が悪く、俺は左足をくじいてしまった。そのまま、体を支えるバランスを失い、なだれ込むように地面に倒れる。
――シュンッ――
「えっ!?」
頭上を何かがかすめた。空気中には細い糸切れのようなものが舞っている。
これは……俺の、髪の毛……?
「ほう……これを避けるか。大したもんだ」
そう言ったベンズは、ソウルブレイドを俺の方に、振り切っていた。真正面に突き出した剣を、俺が避けたと同じ方向に、予備動作なしで切り替えたのだ。
もし……もし、俺が足をくじいていなかったら?
バランスを失い倒れていなかったラ?
俺はどうなっていただろうか? きっと、俺は深手を負っていたに違いない。足をくじいたのは、偶然か? とにかく助かった。
「ますます楽しくなってきたぞアレン。もっとだ、もっと私を楽しませてくれ。いくぞ、20%解放」
――ドンッ――
大気が震えた。ベンズのソウルブレイドが、わずがだがまた光を放っている。
「アレン、ソウルブレイドというものは奥が深くてな。ソウルブレイドに魔力を練り込んで上げると、これはたちまち魔法剣へと姿を変える。魔力をパーセンテージ単位で表し、0~100の間で魔力を注力することができる。そして、ここからが肝心だ。私たちは一人一人、違った属性を有している。つまり、その属性魔法をソウルブレイドを使って発動することが出来るってわけだ。私が今、こいつに注力した魔力は20%だ」
えっ? えっ? 魔力? 属性? いきなり話が飛躍し過ぎだろ!
さすがに一気に、これだけの情報を開示されたら、俺の脳の処理能力では追いつかない。
「なあ、アレン。なんだと思う?私の属性は」
不敵な笑みを浮かべたベンズの周りを砂埃が舞った。それは、ベンズを中心としてぐるぐると渦巻くかのように回転している。
「頼むからこの程度で、死んでくれるなよ」
そのままベンズがソウルブレイドを振り下ろす。
一瞬何が起きたか分からなかった。分かるのは、俺の体中がザシュザシュと刃物のようなもので、切り刻まれていることだ。
「クッ……グゥヴウァア!!!!」
全身を痛みが襲う。俺は、悲痛な叫び声を上げていた。
「私の属性は風だアレン。今、貴様の体をカマイタチのように切り刻んでやったのさ」
なんだこれは……ベンズは……遠くから、ソウルブレイドを振り下ろしただけじゃねえか――これが、あいつの言ってた属性魔法ってやつか……
「ずいぶんと痛々しい姿だなアレン。あれだけ虚勢を張ってた貴様ですら、これには耐えられなかったか。だが、安心しろ。たった一振りでぼろ雑巾のようになる貴様に、もはや興味は消え失せた。あと一回で全てを終わらせてやる」
ベンズが腕を振り上げた。俺は全てを悟り目を瞑る。
死ぬのか? 俺。これで終わり? ゲームオーバー? ジ・エンド? デッドエンドのバッドエンド? 嘘だろ? 俺、まだ人生において何にも面白いことしてないんだぜ? それにさっきシノに夜空を見せてやるって約束したばっかだろ。
これまでの思い出や、数々の言葉が脳内を飛び交うように交差する。そうか、これが走馬灯ってやつか。でも、それにしたっていくらなんでも走馬灯長くね?
目を開けた。視界の先には白一色の壁が四方を囲んでいる。
そして、真ん中に一人の人間が立っている。
「やっときたか、こっち側に」
しゃべった!? びっくり! てかこいつは誰で、ここはどこだ?
「こいつは誰で、ここはどこだ? と思ってるんだろ。そんな驚いた顔するなよ。あらかた予想はつく。なにしろ俺は、お前自信なんだからな。ほら! また、何言ってやがるんだこいつみたいな顔してる。あーつまりだな、ネタばらしすると、ここはお前の魂の中だ」
はっはあ? 魂の中!? さっぱり分からん
「さ、さっきから何言ってるんだお前……魂の中ってどういうことだよ」
「お前本当に、一つ一つ説明しないと納得しないタイプなんだな。我ながら、面倒臭い奴だ。」
そいつは、一拍置いてそれから
「扉が開かれたんだ。俺と、お前とを繋ぐ、あっちの世界では、決して開くことのない扉が。だから俺は引きずりこんだ。お前の意識を魂に」
「もう面倒臭いことはなしにしよう。単刀直入に言う。欲しいんだろ? 戦う力が」
こいつが言ってることはまだ理解出来ていない。さすがにここが、自分の魂の中だと言われて。はいそうですかと、納得できるわけがない。けれど……
「あるのか?……力。俺に、戦う力があるのか?」
「戦う力と聞いた途端、目の色が変わったぞ。いい、それでいい。ならば、お前に捧げよう。戦う力を。何人たりとも抗えぬ絶大なる力を。そして…………大切な人をその手で守る事ができる力を」
「契約は果たされた。俺への対価はお前の魂を喰らう事だ。またいつでもここに来い。俺はずっとお前の中にいる」
視界が曇っていく。目の前が完全なる闇一色に染められ俺はまぶたを閉じた。
身体中を痛みが走る。ベンズの攻撃を受けた時の傷だ。だが、心無しか、先ほどより癒えているような気がした。
あいつは力を捧げるって言ってたけど、どうするんだ……どうすれば力を出せるんだ。
(いきなり困ったちゃんかよ、参るね全く。あー安心しろ。俺だよ俺。お前自身だ)
脳内に、直接声が響いた。こうやってやり取りができるのか、すげー。
(感心してんじゃねーよ――いいか、考えるんじゃねえ、感じるんだ。自分の中の、奥のそのまた奥の方にある物を、引っ張りだすかのように)
身体が軽くなったような気がした。痛みもどんどん消えていく。それだけじゃない、身体の内側から溢れ出す何かを感じる。
(うちの旦那は馬鹿っぽいが、飲み込みが早くて助かる。もう俺の後押しなしでも大丈夫だろう。)
内側から溢れ出るそれは、体中を染み渡り、体力や気力すらも漲ってきた。
(はん、いいね。最高だ。そんじゃまっ、いくぞ。ラストの添え付けに……唱えろ!!!)
俺と、そして魂の声が重なる。
「(発動!!! ソウルブレイド!!!)」
胸の内側が熱くなる、それと同時に目を覆いたくなる眩しい光が輝き出す。
胸から剣の柄のような物が飛び出てる。
俺はそれを右手で掴みそして、鞘から剣を抜くように引っ張った。
これが……ソウルブレイド――
これが……俺の力――
(気に入ったか? だったら見せてくれ。お前はその剣を使ってどういう踊りをするの)
不思議なことに、俺のソウルブレイドの刀身は未だ光を失わない。
「待たせたな、ベンズ。やろうぜ、続き」
ベンズが唖然としていた。その顔がとてもおかしくて。スマホが手元にあったら、すぐさまSNSに投稿してたに違いない。
「まっまて……どういうことだ……なぜ、貴様がソウルブレイドを……違う。そういうことではない! なぜだ……なぜ、ソウルブレイドを発動させてるのに、貴様からは……くっ、なぜ貴様からは魔力が感じられないのだ!!!!」
「知るかよ」
ベンズが動揺している今がチャンスだ。属性魔法? 知ったことじゃない。俺のソウルブレイドがどういう力を持っているのか分からないが、俺は一気に畳みかけた。
初心者の剣道よりも酷い。ただ、力任せに剣を振ってるだけだ。しかし今のベンズにとっては、隙がない手数が多い攻撃が何よりも効果的だった。右、左、右、左と攻撃を繰り出すが、さすがにそんな簡単には当たってくれない、だがベンズほ徐々にではあるが確実に後ろに後退していっている。いいぞ、このまま……
「調子に乗るなぁっ!!」
「くっ」
強風が吹いた。俺の体は簡単に吹き飛ばされる。
「ふん、一瞬焦ったがな、所詮その程度だ、アレン。」
(お前はその程度か? アレン)
え?
(仕方がねえ、これがお前にとってのデビュー戦だ。今回だけオレがアドバイスしてやるよ)
「これでおしまいだ! バラバラに切り刻め!」
(その力は、風となりお前の足に纏われる)
ベンズは先ほどよりも強力なカマイタチの攻撃を繰り出してきた。しかし、俺はそれを難なく回避する。一瞬だけ、足の動きが早くなったような気がした
「なっ! 避けただと? 私の攻撃を!」
(その力は、壁となりお前のその身を守り抜く)
「くそガキがぁぁああ!!!!!」
ベンズがソウルブレイドを構え、風の魔法をブースト変わりにして勢い任せに突っ込んできた。この距離からじゃ防御体制を取れない。俺は、気休めでもソウルブレイドを自分の目の前に持ってきた。
――ガキンッ――
剣が弾かれた。ベンズの剣が、俺が構えた剣に弾かれたのだ。勢いを殺され、剣を振り下ろした状態のベンズは、醜いほどに格好のえじきだった。
「なっ……んだと!?」
(その力は、牙となり相手の急所に喰らいつく)
真正面ががら空きのベンズに、俺はソウルブレイドで切り込んだ。あえて急所は外した、傷もそこまで深くはつけなかった。戦意を喪失させる。戦いってのは、それだけで充分だと思うから。
「殺せ! 情けはいらない。一思いにやってくれ」
「俺は人は殺さない。それに、殺せと言われたらなおさらだ。生きて罪を償え」
戦いは、終わった。死ぬかと思った……まさに、九死に一生を得たって感じか……そう思ったら急に体の力が抜け、倒れそうになった。
「おっと! 大丈夫? アレン」
そこには、シノがいた。シノが俺を支えてくれた。
「ありがとうシノ。もう大丈夫……大丈夫だから」
「そっか、アレン。かっこよかったよ、すごく」
「ふぇ?」
いきなりそんな事を言われたもんだからすごく恥ずかしくなった。顔は…顔は紅潮してないだろうか。
「そこまでだっ!!!」
声のする方に目を向けると、青で統一された服を着た集団が、俺たちを囲んでいた。
「我々は、スカイ・ア・ウェイ軍及び、独裁政治を行うスカイ・ア・ウェイ国王に反旗を翻すレジスタンス、スカイウォーカー軍だ!」
スカイウォーカー軍? なんだそりゃ?
「アレン。スカイウォーカー軍は、わたしたちの味方だよ!」
シノが俺にそう言った。味方か、それなら安心した。一難去ってまた一難かと思ったぜ。
「こいつを倒したのは君か?」
ベンズを指さしながら一人の男が尋ねてくる。
「あ、ああ。俺が倒した」
まあ、正確には俺ではなく、ほとんど魂のおかげなのだが、
「ありがとう。スカイウォーカー軍を代表して私が礼を申し上げる。私の名はクレイグ。君は?」
クレイグと名乗った男は、すごく愛想良さそうでいかにも、ザ・正義! って感じだった。
「俺は、アレン・ターナーって言うんだ」
俺の言葉にクレイグはにっこりと笑った
「そうか、アレン。それでは君を逮捕する」
え? 逮捕? どういうことだ!?
なす術もなくスカイウォーカー軍にされるがままに拘束された。そしてそのまま移動車に乗せられた。
お読みいただきありがとうございました。
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