第29話
「本当に良いんだね?」
「何が?」
「このまま王妃様に何も言わずにトリニティに入って。」
城を出て一週間程。我らが王様が宣言していた通り宰相である僕も行幸を行うことを認め、いよいよレイア・トリニティの故郷であるトリニティ領内に入ろうとしていた。
「よく無いんだろうな。俺はまた王妃に負担をかけることになるだろう。」
「リク…」
「だからこそ俺は行かなきゃならない。…全てをここで終わらせるために。この問題を解決したら王妃に全てを話すつもりだ。許してもらえるかは望み薄だがな。」
王妃様が倒れられてから自分で深く責任を感じ、まあこれは当然なんだけど。王妃様付きの侍女に糾弾され、ついでに元主治医のロバート殿にもこれ以上王妃様に負担をかけたら一生後悔すると脅され、更に最も信頼する部下の一人であるダニエル・アドフォードには失望を顕にされたらしく、自業自得ながら史上最高に落ち込んだ不器用な国王様は遂にギブアップを決めたらしい。
「ほんっとバカだよね。」
「何?」
「結局そうなるなら最初から素直にそうしておけばよかったんだよ、ほんとバカ。」
「うるさい。」
分かってる。好きな女の子に素直に、まっすぐ向き合うなんてこの醜い戦いばかりの世界で汚れながら生きてきた政治バカには無理なことだ。でも何もここまですることなかった。ただまっすぐに信じて進めばよかったのに、そこに道があるかどうか確認できないと決して進めない。過去に何度も裏切りを経験したこの男は本当に手放したく無いものには触れられないのだ。でもその牙城がとうとう壊れつつある。
「けど今までのリクのどんな作戦よりも最高だよ。誰よりも成功を祈ってる。」
「フン。もう作戦なんて言えん。万事休す、やけくそだ。負け戦だよ。」
「そんなもんでしょ、初恋なんて。随分こじらせたねぇ。」
「お前、一回死んどくか。」
リクが王妃様に受け入れられるかどうかはわからない。大切な人との接し方も、大切にする方法も多分よく分かってない。失敗に失敗を重ねてどうしたら良いか分からなくなってる。でもそういう時こそ、ピンチの時ほど希望を光をさぐり当てる。僕が知ってるリクハルド・エルグランデはそんな男だったはずだ。
「へいへい。ほら、見えてきたよ。トリニティ城。」
「ああ。」
この仕事を終えて覚悟を決めたリクに神様は微笑むだろうか。それとも…
「じゃあサクッとレイアちゃんパパ締めちゃいますか。」
「おい。言葉には気をつけろ。」
「ごめんごめん。」
ただし、この時僕らはまだ知らなかったんだ。この後どんな事態が僕らを待ち受けているのか、どんな結末が僕らを待っているのかを。




