恋
次のヒロインは誰を出そうかな
「おいおいマジかよハヤト!」「ゴリラ系配信者だったのかwww」とタイムラインが超高速で流れていく。画面の向こうの視聴者たちが大騒ぎする中、俺は左手のスマホの画角をキープしたまま、右手に握った鉄パイプ風の破片をぐっと構え直した。
「エレナ! リィンを頼んだ!」
「了解しました、社長。労災リスクの軽減を最優先します」
エレナが素早い動きでリィンの腕を引き、ゴーレムの間合いから一気に下がっていく。リィンはまだ呆然とした様子で俺の背中を見つめていたが、すぐにハッと我に返ったように叫んだ。
「バカ! 無茶だよハヤト! あいつはただの鉄屑じゃない、古代の魔力で動いてるんだ! 生身の人間が正面からぶつかって勝てる相手じゃ――」
「現場の鉄骨に比べりゃ、これくらい大したことねえよ!w」
俺はいつもの軽い笑みを浮かべ、思い切り地を蹴った。
ガチの解体現場で何年も培ってきたのは、単なる筋力じゃない。物体の『重心』を見極め、どこに一番負荷がかかっているかを見破る「構造の穴」を見つける勘だ。
ゴーレムが再び巨大な石のハンマーを振り上げる。その巨体が動くたび、肩の結合部にある鈍く光るボルトのようなパーツが、激しく摩擦の火花を散らしているのが見えた。あそこだ。あそこをブチ抜けば、あのクソ重い腕はただの自重でへし折れる!
「オラァッ!」
激しく振り下ろされた戦槌の軌道を、俺は全速力のステップで紙一重でかわした。ドガァァァン! と鼓膜を破らんばかりの轟音とともに、俺のすぐ真横の石床が文字通り粉砕され、強烈な爆風と石の破片が頬をかすめる。
『うおおおおおぶねえええええ!』
『ハヤトの回避能力が完全にプロのそれ』
『現場で鍛えた危険予知能力(KY活動)の賜物で草』
「今だッ!」
ハンマーが床に激突し、ゴーレムの動きが一瞬だけ止まる。その隙を見逃さず、俺はゴーレムの太い腕を足場にするようにして、一気にその巨体へと駆け上がった。狙うは右肩の結合部!
「ここがァ! 現場のォ! 解体手順だぁぁぁ!!」
手にした鉄の破片を、ゴーレムの肩の隙間に思い切り突き立てる。そして、テコの原理を利用して、己の全体重と背筋の力を一点に集中させて強引にねじ込んだ。
ギチギチギチビキィィィン!!
「ぐ、おぉぉぉぉ!」
火花が散り、俺の腕の筋肉が悲鳴を上げる。だが、毎日プロテインをシェイカーで一気飲みし、何トンもの瓦礫を片付けてきた俺の肉体は伊達じゃない。
パキィィィン!!! と甲高いいい音が響き、ゴーレムの右肩を固定していた太い金属ピンが、文字通りひしゃげて吹き飛んだ。
「ぶるぁぁぁ!?」と、ゴーレムが言葉にならない駆動音を上げる。
結合部を失った巨大な右腕は、自らの重さに耐えかねて、音を立てて床へ崩れ落ちた。片腕をもぎ取られた巨躯が、大きくバランスを崩してよろめく。
「よし、右腕の解体、完了!w」
俺はバックステップで華麗に(実際はちょっと泥臭く)着地し、スマホのインカメラに向かってサムズアップしてみせた。
コメント欄はもう、お祭り騒ぎなんてレベルじゃない。画面が文字の嵐で完全に埋め尽くされている。
『嘘だろおい生身でゴーレム解体したぞwwww』
『スキル:引っ越し(物理)強すぎだろ』
『これもう動画編集スキルいらないんじゃね?w』
『ハヤト社長、頼もしすぎて草。リィンちゃんの顔見てみろよ』
カメラをチラッとリィンの方に向けると、彼女は両手で口元を押さえたまま、完全に顔を真っ赤にしてフリーズしていた。琥珀色の瞳が、まるで夜空の星でも見るかのようにキラキラと輝いている。
「あ……あたしの短剣でも傷一つ付かなかったのに……生身で、あんな……」
胸を手で押さえ、完全に心臓がバックバクになっているのが遠目からでもわかる。吊り橋効果なんてレベルじゃない。目の前で命を救われ、さらに自分を信じてくれた男が、生身でバケモノを圧倒しているのだ。完全にトドメを刺されていた。
だが、ゴーレムもまだ死んではいない。残った左腕で戦槌を拾い上げようと、執念深く赤い目を光らせている。
「ハヤト様、労働時間の超過により、そろそろ現場の完全撤去(を推奨します」
エレナがいつの間にか、部屋の隅にあった別の鋭利な鉄パイプを俺に向かって綺麗にスライドさせてよこした。アシスタントとしてのサポート能力が高すぎる。
「サンキュー、エレナ! よし、リィン! 最後は2人で決めるぞ!」
「え!? あ、あたしもっ!?」
不意に名前を呼ばれ、リィンがびくりと肩を跳ね上げる。
「当たり前だろ、お前がここまで案内してくれたから、このボスに出会えたんだ。プロの意地、見せてくれよ!」
俺がまっすぐリィンを見てニヤッと笑うと、彼女は一瞬だけ気圧されたように目を泳がせたが、すぐにその表情を引き締めた。
「……っ、あったり前さ! あんただけに良い格好させてたまるかい!」
リィンは二振りの短剣を強く握り直し、疾風のような速さで俺の隣へと並んだ。
「あたしが左側の注意を引く! あんたはあの剥き出しになった胸の魔力核をブチ抜きな!」
「了解、現場監督の指示に従いまーす!w」
「いくよ、ハヤト!」
リィンの鋭い掛け声とともに、俺たちは同時に地を蹴った。
リィンが超高速のステップでゴーレムの残った左側の視界へ飛び込み、短剣で激しく金属音を鳴らしてヘイトを集める。「こっちだよ、デカブツ!」というリィンの声に釣られ、ゴーレムの赤い視線が左へと流れる。
その瞬間、がら空きになった正面の胸部へと、俺は全力で踏み込んだ。
エレナから受け取った鉄パイプを、腰の回転を意識した完璧なフォームで、ゴーレムの装甲の割れ目へと突き出す。
「これで、お仕事終了だぁぁぁ!!!」
鈍い感触とともに、鉄パイプがゴーレムの胸の奥にある、青く輝く魔力核を正確に貫いた。
一瞬の静寂の後、ガラスが割れるような美しい音が響き渡り、ゴーレムの全身の赤い光が完全に消失する。
3メートルを超す鉄の巨体が、糸の切れた人形のように崩れ落ち、ただの動かない鉄屑へと戻っていった。
「ふぅ……。お疲れっしたー!w」
俺は肩で息をしながら、手をついて座り込む。さすがに生身での肉体労働はめちゃくちゃ疲れる。だけど、最高に気持ちいい。
スマホを見ると、同時接続数はついに12万人を突破。そして、画面の中央に、見たこともない金色に輝く超特大の通知が流れてきた。
【スーパーチャット受信】
ユーザー:王城の変態国王(¥100,000)
「素晴らしい!! 筋肉と汗の美少年勇者、余は感動したぞ! 今すぐ城に戻って余の愛を受け取るが良い!!」
⇒ 異世界通貨:純金貨100枚に変換・実体化しました。
『チャリンチャリンチャリンチャリンチャリン!!!!』
部屋中に、これまでとは比べ物にならないほどの大量の純金貨が、まるで豪雨のように降り注いできた。一瞬で俺の膝の高さまで埋まるほどの金貨の山。
『国王直々の赤スパキタあああああwww』
『10万スパチャとか大富豪かよwww』
『でもメッセージの内容が相変わらず変態すぎて草』
『ハヤト逃げろ、変態国王が本気出してきたぞ』
「
うわあああ! 金は嬉しいけどメッセージが怖すぎるって!w 誰が戻るかよ!」
俺が悲鳴を上げていると、リィンがゆっくりと俺の隣に歩み寄ってきた。彼女はまだ少し顔を赤くしたまま、もじもじと指先をいじっている。
「あの、ハヤト……。さっきは、その、ありがと。あんた、口は軽いしヘラヘラしてるけど……本当は、すごく、頼りになるんだね……」
上目遣いで俺の顔をじっと見つめてくるリィン。その目は完全に潤んでいる。
「いやいや、リィンのおかげだよ。最高のコンビネーションだったじゃん。な?」
俺がいつもの調子でリィンの頭をぽんぽんと叩くと、彼女は「あぅ……」と小さな声を漏らして、顔から湯気が出そうなくらい真っ赤になり、そのまま俺の胸元に顔を埋めてしまった。
「……もう、バカハヤト。一生ついてってあげるから覚悟しなよ……」
『リィンちゃん完全攻略完了www』
『完全に惚れてて草』
『これもう異世界放浪ハーレム配信じゃん』
「ハヤト社長」
そこへ、金貨を一枚一枚、恐ろしい手際で数えてカバンに詰め込んでいたエレナが、底冷えするようなジト目を向けてきた。
「国王からの臨時ボーナスの回収が完了しました。今後の活動資金としては十分ですが、これ以上の『王宮からの追手』および『恋愛トラブルによる業務遅延』は、我が社の利益を損なう恐れがあります。速やかに次の街への移動プランを策定してください」
「エレナさん、相変わらず現実的すぎて最高だわw」
俺は苦笑いしながら、スマホのカメラをリィンとエレナ、そして大量の金貨へと向けた。
「よし! お前ら、初のダンジョン配信は大成功だ! 変態国王に捕まる前に、俺たちの異世界放浪の旅はまだまだ続くからな! 次回の配信もお楽しみに! バイバイ!w」
配信を切った後も、俺たちの目の前には、輝く黄金の山と、少し騒がしい仲間たちの笑顔が広がっていた。始まりは廃墟の古井戸からの落下だったが、俺の異世界配信ライフは、思った以上に最高の撮れ高になりそうだ。
楽しんでいただけたでしょうか




