↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/165

浮気

 2年B組のギャル代表こと、真島範子は気合が入っていた。

 赤点の罰に通わされた塾の最終日翌日である昨日、大量の食材を買い込み、親友の綾波貴巫女(あやなみきみこ)の家のキッチンを占領し、悪戦苦闘の後、料理を一つマスターした。

 後に貴巫女曰く、


「何でレシピ通り作って料理が爆発するのか。それが分からない」


 と。


 そして今日。

 範子は計画を実行に移すべく、彼ピの部屋に向かった。


『彼ピのバイト中に部屋で手料理を作って待ってて、帰って来た彼ピに、のりりんが俺のためにうるうる、のりりん愛してる今直ぐ結婚しようと告白される大作戦』である。


 その作戦名を聞かされた貴巫女は、「あっ…はい」と言って突っ込みを放棄した。

 土日では無く金曜日を選んだのも、彼ピが塾通いの範子のために週末を開けてくれているからだ。

 料理の練習に付き合っている間中、惚気を聞かされ続けた貴巫女にしてみれば、いつにも増して御馳走様な話だった。


 ガチャッ


 範子は懐から革のキーケースを取り出し、唯一の鍵を引き出して、アパートの玄関の鍵を開けた。

 それは実家から離れて独り暮らしの彼が、恋人の証として渡してくれた合鍵。


「おじゃま~♪」


 パンッ、パンッ


 玄関を開けた範子の視界に入って来たのは一組の男女。

 見慣れた裸の男と、四つん這いになって、男に後ろから突かれて善がっている見知らぬ女。


 男の方は範子の彼ピこと、真一郎。

 長めの前髪は天然パーマとは思えないほど様になっていて、スラッとした長い手足にかなりの高身長、街を歩けば女性なら10人中10人が振り向きそうなイケメン。

 女の方は良くも悪くも化粧が無ければ10人並の顔だが、胸や尻の肉付きは範子より遥かに良く、真一郎が腰を打ち付ける度に、パンパンと小気味良い音を立て大きな胸を揺らしていた。


 トスンッ


 範子の手から力が抜けて、持っていたスーパーの袋が地面に落ちる。

 中からコロコロとジャガイモや人参、玉葱が転がった。

 範子の視線が彼ピと女の間を泳ぐ。


「の、のりりん?!」


 真一郎は、真夏の生暖かい空気に気付いて玄関の方を見ると、範子の姿が視界に入って固まる。


「――んっ」


 四つん這いの女も、お尻に感じていた衝撃が止まったので、不満そうに真一郎を見て、その視線の先を追って範子に気付いた。


 ニヤリ


 彼女は範子と視線が合うと、見下すような笑顔を作って無言で勝ち誇った。


「――っ! …しんちゃんのバカ~~~~~っ!!!」


 範子は一気に涙目になり、振り返って走り去っていった。

 彼女はドラマみたいに、彼氏へ詰め寄ったり、女に食って掛かったりするほど、攻撃的では無かった。


「………」


 真一郎は暫く範子を見送っていたが、走り去る音が遠退いて聞こえなくなると、何も無かったかのように腰振り運動を再開した。


「ぁんっ♡ いいの?」


 女は善がりながら、心にも無い心配をして理解のある女の振りをする。


「仕方ないさ。見た目はイイから連れ歩くのに丁度良かったし、具合もイイ、イイ金蔓だったんだけどな」


 範子は典型的なギャルで、化粧映えもしてスタイルも良かったので、連れ歩けば周囲の視線を集め、彼の自尊心を大いに満たしてくれた。

 見た目の割りに家が金持ちらしく、偶に金の無心をしても快く金を出し、安物で機嫌を取れたので都合が良かった。

 それが学校の成績が落ちて小遣いを止められて、しかも塾に通わされて、夏休みなのに最近は週末しか会えていない。


 だから彼は経験則から、丁度いい潮時だと思った。


「こんなことならハメ撮りしとけば良かったか」


 真一郎は、口で言うほど後悔をしていなかった。

 別に範子を思いやってハメ撮りをしなかった訳では無い。

 便利な金蔓(ATM)に逃げられる危険を冒す気が無かっただけのこと。

 動画で裸を見て楽しむだけなら、目の前の女にボリュームが劣るのも理由の一つだった。


 パンパンッ


「んんっ♡ あの子、鍵持って無かった?」


 女は善がりながら、また邪魔をされないかと心配をした。


「戻って来るようなら言い包めるさ」

「戻って来なかったら」

「鍵を変えるか引っ越す」


 パァンッ!!


 女子高生に金の無心をするような男は気軽に言って、一際強く腰を打ち付けると身体を震わせた。


「―――っ!」


 女は一際大きな言葉にならない声を上げた後、余韻に浸りながら楽しそうに呟いた。


「…悪い男♡」



 * * *



「う゛ぇ~~~んっ! き゛ぃみ゛ぃこ゛ぉ~~~~~…」


 範子は貴巫女の家に裏口から入って行くなり、彼女の薄い胸に泣き付いた。


「よしよし。お帰りなさい。何があったの? 砂糖と塩を間違えた? 転んで彼氏にぶち撒けた?」


 貴巫女は親友の頭を撫でながら戸惑った。

 範子は数時間前、意気揚々と彼氏のアパートへ料理を作りに行った。

 その浮かれようと言ったら、予定を忘れて彼氏の次のバイト時間まで帰って来ないかも、と心配していたほどである。


 いつも、範子は彼氏の家に泊まる度に、親には「貴巫女の家に泊まる」と嘘を吐いて、貴巫女と口裏を合わせている。

 貴巫女の家の裏口から出て、裏口から戻って来るまでがアリバイ工作。

 それが遅れるどころか、一晩もしないで戻って来れば戸惑いもする。


「ぐすっ……女の人……いた…………」

(あらぁ…)


 貴巫女は目に手を当てて上を仰ぎ見て、茶髪のショートボブが後ろに流れ落ちる。


「彼氏に確かめたの?」

「…追って来なかった。…コネも遅かった…」

(あ、駄目だわこれ…)


 ギャルの割りに論理的思考の貴巫女は、範子の言葉から最悪の状況だと理解した。


 彼氏もその場に居たのに、範子を追わず、コネクト(SNS)で直ぐに謝りもしなかった。

 それは取りも直さず、彼氏が範子より目の前の女を優先したことを意味し、真っ最中だったことを疑える要素が欠片も無い。

 今までに時々、バイトで会えないと言われたことも、嘘だったと考えられる。


(範子はこう見えて純情なのよね…)


 範子にとって、真一郎は初めての恋人だった。

 実家のせい(・・・・・)でモテなくて、高校デビューして一年でやっと出来た彼氏。

 そのせいで惚気が凄く、そしてその分反動も大きかった。

 貴巫女は胸の中で泣き腫らす親友の背中を優しく擦りながら、彼女の気が済むまでとことん付き合ってやろうと思うのだった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。