顛末:世界三大…
【リアライザー】たちは救助が来る直前まで、倉庫の中で大人しく【共生者】の安否を心配していた。
彼女たちは【共生者】が人身売買される予定とは知らず、自分たちが馬鹿な真似をすれば【共生者】が殺されると思っていたからだ。
それが先ほど、入り口から不自然な破壊音が聞こえてきた。
真っ先にその音に気付いたのは、耳の良い猫耳の少女。
彼女は、写真屋で見かけた縁で仲良くなったサーニャと一緒に、入り口近くまで行って隠れた。
目立ちたがりで明け透けな踊り子が、それに勝手に付いて行き、シャッターが開きそうになったので仁王立ち――手錠のせいであまり足は開かなかったが――していたところを、楽人が目撃して固まったのである。
楽人とサーニャが感動の再会を果たしていると、他の【共生者】たちも後から追い付いて来た。
彼らは楽人たちを横目に倉庫へと入って行き、次々に自分の【リアライザー】と感動の再会を果たしていった。
例えば、軽そうなフリーターと少し年上のお姉さん。
幼い頃に近所のお姉さんに初恋をした彼は、お姉さん【リアライザー】に甘えた。
例えば、クールな大学生と真面目そうな眼鏡の女教師。
クールで通している彼は、ギャップ萌えのドジっ子女教師【リアライザー】にだらしない顔を見せた。
例えば、お洒落で陽キャな高校生と青い髪の地味めな魔法少女。
学校でも悲劇自慢の同級生に受けのいい彼は、その原因である不憫系魔法少女【リアライザー】の頭を撫で回した。
例えば、中二病の中学生とセーラー服の美少女。
修学旅行で買った木刀に名前を付けている彼は、妖刀の化身である少女【リアライザー】の腰に手を回そうとした手を抓られてラブコメを楽しんでいる。
例えば、顎髭のイケオジとパッツンパッツンの美女。
汚嫁に騙されて三次元の女に幻滅して離婚した彼は、3D系のソシャゲ美女【リアライザー】と大人っぽい雰囲気を醸し出していた。
例えば、太ったオタク眼鏡高校生と金髪ドリルのお嬢様。
色々拗らせた重度のオタクな彼は、場違いなドレスで高笑いを上げるツンデレお嬢様【リアライザー】に足蹴にされて「ブヒィ」と鳴いて喜んでいる。
例えば、イケてる女と眼帯の美少年。
理想の相手に相応しくあろうとする彼女は、中二病より保護欲を掻き立てる少年【リアライザー】と【心眼】との間で目移りを禁じ得ない。
例えば、小学生アイドルと小さな毛玉ちゃん。
男嫌いの母親に厳しく躾けられて、レズロリコンプロデューサーに付き纏われている彼女は、母親が見当たらない寂しさを性別不詳のモコモコを抱き締めて癒された。
無論、午前中から囚われていた人たちもそれは同じ。
サラリーマンは倉庫の外を彷徨いていた踊り子に発見されて抱き締められ、老婆は駆け寄って来た金色の小犬を抱き抱え、息を切らせながら最後に到着した中年男性に猫耳少女がウザ絡みをしていた。
【リアライザー】は全員無事だった。
本当に誰一人として手を付けられておらず、【踊り子】だけはそれについて不満そうに【共生者】へ愚痴っている。
【共生者】全員が【リアライザー】と再会したが、相手を見つけられない【リアライザー】たちも居た。
愛らしい小犬、二足歩行の白い猫、空を舞う小さな妖精、青い髪に目元にピアスの美少年、筋肉質の屈強なオカマ…。
卑屈そうな男に殺されたパンチパーマや、誘拐犯たちにノコノコ付いて行った女たちの【リアライザー】である。
高町刑事が【心眼】に視線を送ると、彼は頷き、犯人たちの居る倉庫の方角を向いた。
「…犯人を追う。ここの方が安全だから君たちは待っていろ。シャッターは下ろして行く」
高町の言葉に逆らう者は居ない。
【共生者】たちは空腹な状態で走って疲れていたし、【リアライザー】たちにしても、大半は空腹で碌に動けなかった。
(どうする?)
楽人はそれを聞いて自問自答した。
(高町さんの言う通りだ。でも俺はあのキャバ嬢に借りを感じている。彼女が動かなければもっと犠牲が出ていた。それが俺で無い保証は無い。それにアルクスが居るなら…)
「俺も行く。一人くらいは…」
「一人くらいは顔の分かる者が居た方が良いだろう」
楽人の説得の言葉は、途中から【心眼】に奪われた。
【心眼】にしては珍しく言葉を省略しなかったのは、それが高町刑事では無く、周りに言い聞かせるための言葉だったから。
「ガクトが行くなら、わたしも行く!」
サーニャは慌てて、抱き着いたままの楽人の胸から顔を上げて、彼の顔を見ながら宣言した。
「勿論だ。来てくれるか、サーニャ?」
「はいっ♪」
元気よく答える彼女の顔には、いつもの笑顔が戻っていた。
彼女に続くように、この場に【共生者】が居ない五人の【リアライザー】が名乗り出た。
「わたしもいっしょにいくわ」
その時、初めて姿を現した彼女を見て、【心眼】を除く全員が驚愕した。
その可愛らしいが成熟した女性をも彷彿とさせる丁寧な話し方に、愛らしいデフォルメされた身長五十センチ程の二頭身の姿は、“仕事を選ばない猫”の二つ名で呼ばれるキャーティだった。
「…ぬぅ。まさか“世界三大マスコット”まで攫われていたとは…」
これには流石の熟練刑事も言葉を失った。
――世界三大マスコット。
世界中で愛されるマスコットたちの中で、その頂点に立つと言われるキャラクター達に与えられた尊称である。
ナラカマウス。
通称ナラカス。
冥府の名を冠する、テレビがモノクロだった時代から人気者の擬人化されたネズミ。
その名の由来に相応しく、著作権を持つウォルフデスティニーが版権ビジネスに厳しく、些細な私的利用にも難癖を付けることで付いた徒名が“白と黒の脅迫者”。
“白と黒の脅迫者”の名は、商売に関わる者たちの間では、テロリストよりも恐れられている。
ウィナー・ザ・ポー。
通称ポーさん。
原作者が昔飼っていた黒鳥の名に由来する、デフォルメされたクマ。
版権ビジネスの鬼、ウォルフデスティニーに買収されたことで、原作の幻想的なエンディングとは真逆の残酷なエンディングが追加され、付いた徒名が“手放された愛”。
“手放された愛”の名は、キャラクターを我が子のように愛する者たちの間では、悲劇への警鐘として使われている。
そして、キャーティ・ホワイト。
通称キャーティ。
最初から物語と言うより女児向け販促キャラクターとしてデザインされた、擬人化された二頭身のネコ。
キャラクタービジネスでも類を見ないほど多くのメディア、業種、作品でコラボを行ってコラボビッチの名を欲しいままとし、付いた徒名が“仕事を選ばない猫”。
“仕事を選ばない猫”の名は、ブラック企業に勤める者たちの間では、増え続ける仕事を指す隠語となっている。
「“仕事を選ばない猫”なんて、一体どんな値段が付くんだ…」
楽人もその恐ろしさに眩暈がした。
「そんなに凄いんですか?」
サーニャも名前を聞いたり動画を見たりしたことはあったが実感が湧かず、小首を傾げた。
「多分ミサイルが撃ち放題、ロケットで宇宙にも行ける」
「うわぁ~…!」
これには流石に世間知らずのサーニャも絶句した。
――物にも依るがミサイルは数億円、ロケットの打ち上げは百億円くらい掛かると言われている。
世界三大マスコットの年商は十兆円を超えるので、その【リアライザー】の取引価格は、どんなに少なく見積もってもロケットより安いと言うことは無い。
「もしそうなれば、誘拐犯たちは莫大な資金を得て規模が大きくなり、被害者も桁違いに増えていただろうね」
アル・ラクスも高町や楽人と同じ想像に至り、眉を顰めた。
もし“仕事を選ばない猫”が売り捌かれていたら、日本だけの問題では済まされない、【リアライザー】問題に一石を投じる騒ぎとなっていたことは疑う余地が無い。
高町は国際レベルの問題を未然に防げたことに、内心胸をそっと撫で下ろすと、無理矢理話を戻した。
「…犯人たちは多くて十三人。大丈夫だな、アル・ラクス?」
高町がアル・ラクスを見ずに確認すると、
ドンッ
「任せたまえ!」
彼はその分厚い胸板を叩いて、誰もが聞き惚れるような通る声で、全員を守り切ることを誓って見せた。
例えこの場の全員が付いて行くと言い出したとしても、例え犯人たちが十倍だったとしても、彼は同じように答えただろう。
そう思わせるだけのものがあったからこそ、その場の誰もが彼の言葉に安心感を覚えた。
ガラガラガラ…
アル・ラクスがシャッターを下ろす。
高町はそれを確認すると直ぐに走り出し、【心眼】も並走した。
それに手を繋いだ楽人とサーニャが続き、四人の【リアライザー】たちが続き、背中にキャーティを乗せたアル・ラクスが最後尾から続いた。
彼らは目の前の通りに沿って、犯人たちの居る倉庫へと向かう…。




