救出:リアライザー
先頭を走る【心眼】たちは、一分足らずで【リアライザー】の監禁されている倉庫に到着した。
アル・ラクスはシャッターの前に屈み込み、一ミリの隙間も無い地面とシャッターの間に無理矢理手を入れ、そのままシャッターを強引に持ち上げる。
バキベキバキベキ…
シャッターは金属が折れる音と割れる音を立てながら開いていった。
「サーニャっ!」
楽人は居ても立っても居られず、シャッターが碌に上がる前に、その場に屈んで中に向かって愛する【リアライザー】の名を叫んだ。
「ガクト!」
倉庫の中から直ぐに、サーニャの返事が返って来た。
シャッターの隙間からはまず、日に焼けた艶めかしい足が見えた。
…楽人はそれを、単なる光度差による錯覚かと思った。
次に、紐のような衣装で大事な部分だけを隠した、際どい足の付け根が見えた。
…楽人は服としても下着としても見覚えが無かったので、首を傾げた。
それから徳利のような腰付き、大きく形の良いお椀型の胸、鮮やかな金髪……と見えて来るに従い、楽人の眉毛が面白いほど不規則に動く。
「はぇ?」
そして相手の顔が見えた瞬間、彼は間抜けな声を出して固まってしまった。
返事はサーニャの声だったのに、中から現れたのは昼間見かけた踊り子だったのだ。
ガラガラガラ……ガシャーンッ
やがてシャッターが開き切ると、目の前の踊り子は外を見渡したがお目当ての相手が見つからず、楽人の横を通り過ぎて倉庫の外に出て行った。
すると、彼女の陰になっていたサーニャの姿が、楽人の視界に入った。
「サーニャ!」
今度こそ楽人は倉庫の中に駆け出し、ついに再会できた愛しい人を抱き締めた。
「ガクト~…」
手足に手錠を掛けられたままのサーニャは、彼に抱き締められながら嬉し涙を流した。
「何もされなかったか? 怪我は無いか? どこか痛いところは?」
「無いよぉ……何もされてないし、痛くも無いよぉ……。ガクトは? ガクトは大丈夫?」
「俺も何とも無いよ。良かった。本当に良かった…」
「…ぁんっ♡」
楽人はサーニャを抱き締めながら、その頭を、肩を、背中を、腰を少し強く撫でて確かめるが、彼女は痛がったりせず、愛する男を感じて只々喜んだ。
ガチャッ
高町刑事がサーニャの背後に回り、その手足に掛けられていた手錠を外した。
「「ありがとう」」
楽人とサーニャの言葉が綺麗に重なる。
と同時に、楽人は現実を理解した。
(そうだ、助けたのは俺じゃない。アルクスたちだ。…俺は何もしていない。俺はただ、彼女を危険な目に合わせただけで…)
「――そう自分を責めることは無い」
自責の念に囚われかけた楽人に、【心眼】が背後から声を掛けた。
それは慰めるというよりも、只事実を語っているだけの言葉。
(今、声に出してた?!)
楽人は胸の中のサーニャを見たけれど、彼女は不思議そうに小首を傾げるだけ。
周囲を彷徨く踊り子を後回しにしようか考えていた高町は、彼らの様子に気付いて遠回しに楽人を肯定した。
「…楽人君、君が音無静香を助けなければ、渡良瀬が御影アキラの救出に協力することは無かった」
アル・ラクスはそれに応えて続けた。
「そうだ。ガクト君が来てくれなければ、アキラや私は今頃どうなっていたか」
【心眼】が言葉を締め括る。
「貴殿が家族との繋がりを大切にしなければ、奥方は気付くのに遅れ、警察への協力もされなかったであろう。…全て貴殿の今までの行いが齎した結果だ」
三人の大人たちが楽人を肯定した。
(でも、俺は今回何も…)
しかしそれでも、楽人自身は自分の不甲斐なさを許せなかった。
フィーーーー…
楽人は耳鳴りのような音を感じたかと思うと、全てのものが動きを止め、全ての音が止まったような錯覚に陥った。
「――常に状況の打破に関与できる者など居りはしない――」
その中で【心眼】の言葉だけが響く。
光が止まれば見えず、空気が止まれば音は届かないのだから、時が止まっているのではない。
「――もし居るとすれば、それは人も物も状況も、全てが用意された作り物の――」
…ーン
耳鳴りのような音が止み、全てが動き出した。
「私、心眼のアルストロメリアが断言しよう。貴殿のお陰でサーニャは救われた」
それは【心眼】が、己の【共生者】以外に初めて名乗った瞬間だった。
つぅー…
楽人の目から一筋の涙が零れた。
(…俺はこの言葉が欲しかったのかも知れない)
――家に居ても、学校に居ても、塾に居ても。
食べていても、寝ていても、勉強していても、大好きなソシャゲをしていても。
何時も何処かで物足りなさを感じていた。
他人なんて知らない、自分の為だと嘯きながら、本当は誰かに認めて欲しかったのだ。
無条件に全てを許し合える最愛の人でも、無償の愛を惜しみなく注いでくれる両親でも無く、ただ、真実としてのそれを…。
――法の正義を信条とする刑事は言った。
誰かを救うことが、他の誰かを救う切っ掛けになるのだと。
――正義の象徴たるヒーローは言った。
独り善がりの行動でも、救われる者が居るのだと。
――真理を見抜く英雄は言った。
一つ一つの絆が、今に繋がっているのだと。
(…俺はヒーローじゃない。望まれる者でも無い。正義の味方や英雄じゃなくても良い。俺は俺として生き、大切な人を守り続ける……!)
それは小さな誓い。
誰にでもできる、しかし誰もが選べるわけではない覚悟。
――それは一人の青年が、愛するリアライザーを守る物語の始まりだった……
もうちょっとだけ続くんじゃよ()




