敗北
楽人が教室に戻る頃には、昼休みの終わる予鈴が鳴っていた。
彼は急いで弁当を食べ始めたが、昼休み中には食べ終わらず、結局、五限が始まっても先生に隠れて食べ続けていた。
彼が弁当を食べ終わって周りを見ると、まだ数名、弁当を食べているクラスメイトたちが居た。
無論、同類である。
楽人は先生から注意が飛んでこなかったことに安心し、ネットでユントロの検索を始めた。
(なん…だと……?!)
そして直ぐに、彼は今日一番の衝撃を受けた。
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みんなが選ぶ漫画・アニメ・ゲームキャラ人気投票20XXペット部門
…ゆ゛、14位ユントロ…
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ユントロは昨年の全作品人気キャラクター投票で、ペット部門の14位。
上位は当然の権利のように、世界的人気キャラクターたちが独占している。
“ミレニアム戦記”の人気投票ですら下から数えた方が早いサーニャでは、足元にも及ばない人気キャラクターだった。
(……女性票が大半か。俺が知らないわけだ。それにしても何者だよ、うちのオタク同好会)
人気があるということは、ファンが多いと言うこと。
それは取りも直さず、召喚者競争も激しかったことを意味する。
(俺の何倍も好きって、まともな人生送れないだろ……)
彼は自分のことを棚に上げて、見知らぬ誰かを心配した。
それが勘違いだと指摘する者は居ない。
彼が検索を続けていくと、ユントロの写真が出て来た。
アニメやゲームのCGとかではなくて普通の写真だった。
(おいおい早速かよ。いやだねー、日本語が通じない奴は…………なん…だと……?)
楽人が呆れながら写真のブログを確認すると、ブログのアイコンはオタク同好会の部室に居た女子生徒の一人……ではなく、部室に居た生物の女教師だった。
名前が違い、眼鏡も無く、マスクで顔の下半分を隠している。
しかし、同じイラストレーターの判子絵を見分ける彼の目は、同一人物と判断した。
ゲーマーには稀によくある特殊能力である。
(いや、それにしても……まさかなあ……)
彼の学年で生物を受け持っている音無静香は、二十代半ばの堅物の生物教師である。
真面目で生徒思いの先生だが、眼鏡と野暮ったい服装、それと真面目過ぎる性格から生徒の人気は低い。
(手塚は狙ってる眼鏡好き男子が多いとか言ってたけど、あいつ以外にいるのか?)
楽人はクラスの自称情報通、手塚新蜂を盗み見た。
彼の言葉を借りるまでも無く、音無静香は独身で、浮いた話一つ無かった。
カチッ、カチッ
楽人が再びスマホに目を落としてブログを遡ると、ユントロのぬいぐるみやグッズの写真が山ほど出て来た。
それどころか、落書きみたいなユントロの似顔絵まで、幾つも載っていた。
書き込まれているコメントも、彼女のユントロ好きを認めるものが多い。
どこからどう見ても、以前からのユントロ好き。
控えめに言って重症。
ガラガラガラ……
楽人の脳内で、真面目な堅物女教師のイメージが音を立てて崩れ去った……。
(……まあ、これなら無断で写真を使ったとかは無いな)
他のサイトを見ても、彼女以上の重症者は見当たらない。
何なら、重症者のサイトからは、漏れなく先生のブログへのリンクが付いているような有り様だった。
(……当たりだな。まさか、こんな身近に有名キャラクターのご主人様が居ようとは。しかもそれが堅物女教師の隠れオタクとか、それなんてギャルゲ? もしくはバトル漫画?)
楽人の脳内でいきなり、彼とサーニャ、音無先生とユントロのタッグマッチが始まった。
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『Fight!』
カーンッ
開幕のゴングが高く鳴り響く。
「ウユーン?」
ずきゅーんっ!
ユントロが愛らしく小首を傾げた瞬間、楽人とサーニャはその可愛さに胸を撃たれて、胸を抑えてその場に崩れ落ちた。
『K、O!』
秒で瞬殺されたと言うのに、妄想の中の彼らはどこか幸せそうな表情で痙攣していた……。
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(……うん。バトル物は俺のようなモブには荷が勝ち過ぎるな。そんなことよりも、先生と話す機会が欲しいところだ……)
その後、楽人はユントロの写真に癒されながら、午後の授業を過ごすのだった……。
* * *
放課後。
楽人がオタク同好会へ直行すると、既に百人を超える長蛇の列が出来ていた。
とても定時までに捌ける人数では無い。
行列の中には、彼が昼休みに見かけた顔も幾つかある。
(どうせ二人切りになれる訳でもないし、サーニャのことを相談するなら、生徒指導を利用した方がいいか?)
――学校にも依るが、教師は基本的に、生徒と二人きりになることを禁止されている。
それは校外のみならず、校内に於いても当て嵌まる。
担任や生徒指導担当でも無い教師が、生徒と二人きりになれば、罰則は免れない。
普通の学生に過ぎない彼は、そこまで把握していなかった。
(……塾もあるし、今日は帰るか)
結局、急いで音無先生と話す理由の無かった彼は、校舎を出て駅前の塾へ向かった。
教師って大変ですね(他人事)




