オタク同好会
キーンコーンカーンコーン……、キーンコーンカーンコーン…………
四限終了の鐘が鳴って、午前中の授業が終了した。
楽人は教科書などを片付けると、スクールバッグら弁当も出さず、オタク同好会の部室へと向かった。
同好会は部室が認められていない学校も多いが、月仰高校は少子化の影響で部室が余っていたため、オタク同好会も部室を貸し与えられている。
彼は帰宅部であって、オタク同好会には所属していない。
彼の目的は、同じ境遇の相手に会ってみること。
サーニャの語っていた条件から、そこに所属する生徒が、最も可能性が高いと推測してのことだった。
ざわ、ざわ……
楽人が部室に着いてみると、部室の前には同じことを考えた学生たちが行列を作っていた。
行列には男子生徒も女子生徒も並んでいる。
楽しそうにお喋りをしていたり、黙って並んでいたり、ソワソワしていたりした。
最後尾の男子生徒の手には、『最後尾』と大きく書かれた手作りの看板があり、彼は楽人に気付くと声を掛けた。
「お前も見学か? ちゃんと並べよ」
「わかった」
楽人は看板を受け取って最後尾に並んだ。
看板には『最後尾』の他にも、簡単な予定が書かれていた。
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<最後尾>
面会は一週間
昼休みと放課後17時までを予定
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(なるほど。ギリギリまで並んで、会えなくて文句を言う奴への予防線か)
楽人が文言に納得していると、部室から興奮した数人の男子生徒たちが出て来て、行列が少しだけ進んだ。
彼もスペースが空かないように、それに倣った。
「癒される~」
「俺、この手一生洗わないわ」
「写真壁紙にしたわ」
「写真シェアしようぜ」
まるでアイドルの握手会みたいな様子だった。
写真をシェアしたいなら出口に留まりそうなものだが、先に出て来た生徒の姿は無く、彼らも直ぐに帰って行った。
(出口に固まるなって注意でもしてるんだろうか?)
次に行列が進むより早く、追加の野次馬が現れた。
その可愛い系の男子生徒に、楽人が看板を引き継いで間も無く、次の女子生徒三人組が並んだ。
(結構増えるな)
直ぐにまた野次馬が追加され、更に数分すると、数人の生徒たちが部室を出て行った。
(一人一分くらいか? 弁当を食べてから来たら間に合わなかったな)
楽人は空腹を訴えるお腹を擦りながら、真っ先に来た英雄たちを、尊敬の眼差しで見つめるのだった……。
* * *
「次の人たち、どうぞ」
数十分後。
昼休みも終わりが見え始めた頃、前の野次馬たちは二つ目の看板を楽人に手渡して、部室へ入って行った。
開いたドアからは、白衣を着た女教師の姿が見えるが、人外らしき姿は見えない。
(なるほど、先生が仕切っているのか)
楽人は現状に合点が行った。
彼の到着前に、堪え性の無い生徒が割り込んで一悶着あったが、叱られて素直に並び、面会を終えて帰って久しい。
トンットンッ
楽人は後ろの可愛い系男子に突かれた。
急かされたので一緒に看板を見ると、そこには楽人の予想通り、様々な注意書きが書かれていた。
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<注意書き>
・面会時間は一人一分。
同時に入室できるのは最大5人まで。
当方が不当な時間配分と感じたら追い出します。
・過度な接触禁止。
握手は可。
本人が許可すれば、髪を撫でたりも可。
・写真の撮影は条件付きで可。
同意書必須。
個人での鑑賞目的に限る。
SNSやブログを始め、投稿やアップロードなどの拡散行為は厳禁。
もし何かあっても、当方は一切の責任を負いません。
また、こちらに何か被害があれば法的に訴えます。
・部室外での迷惑行為も同様に対処します。
ご了承ください。
・面会期間は一週間、昼休みと放課後17時までを予定しています。
日数は需要によって変更の可能性があります。
・同好会への入会手続きはしていません。
後日、告知します。
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看板の下の方には、紐を通した同意書の束が吊るされていた。
(よく考えてあるなぁ……)
楽人は看板の内容に感心した。
実際、その内容は常識的なもので、良識ある大人なら、言われるまでも無く守って然るべきものしか無い。
しかし、世の中には「注意されなかったから」とか、「罰を受けないから」と言って、無法に振る舞う人間が少なくない。
況してや、これを読むのはまだ未成年の学生……。
(それに同意書を入室前に書かせてくれるのも気が利いてる)
略式で分かり易い同意書も含め、随所に用意した人間の配慮が伺い知れた。
「なあ、一緒に入らないか?」
「いいぜ。俺も声を掛けようと思ってたんだ」
「やったー!!」
楽人が後ろの可愛い系男子の誘いに乗る。
彼は後ろの女子三人組に看板を渡しながら、彼女たちも誘い、即席五人組が完成した。
* * *
「次の人たち、どうぞ」
楽人たちが呼ばれて部室に入ると、中は小ざっぱりしていた。
棚には漫画やラノベ、アミューズメントの景品などが並んでいるが、鍵が掛かっている。
部屋の片隅、入り口からギリギリ見える場所には、椅子に座った白衣に眼鏡の生物教師の姿。
部屋の中央は空いていて、入り口の方を向いた机が三つ並んでいる。
椅子には女子生徒たちが座り、その机の上に――それが居た。
「「「「かわいい~♡」」」」
女子四人組の声がハモった。
「?」
楽人が声に釣られてそちらを見たが、そこに居るのは可愛い系男子一人と女子が三人。
彼は深く考えるのを止めて、それに向き直った。
――それは一言で言うならば、デフォルメの利いた狸かアライグマ……のぬいぐるみのような生き物。
本物より毛が長くフワフワで、頭や尻尾が大きく、逆に胴は小さく、つぶらな瞳も大きい……つまり可愛い。
そして何より現実離れしているのは、その体毛がピンク色であること。
「ウユーン♪」
(声まで可愛いとか完璧か!)
更に鳴き声まで可愛いと隙が無かった。
楽人は記憶を探ってみたが、彼の乏しい知識に該当する不思議生物は無かった。
「写真を撮る時は、ユントロ君に声を掛けてからにしてあげてくださいね」
オタク同好会の生徒が注意を呼び掛けた。
ユントロに心奪われていた楽人たちは、その時初めて彼女たちの存在に気付いた。
(やっぱり名前も可愛い!)
気付いて尚、彼らの心はユントロに釘付けだった。
彼らは皆で写真を撮ったり、話しかけたり、撫でたりし始めた。
ユントロはよく反応し、可愛さの中にも知性が垣間見えた。
女子生徒たちがユントロを抱こうとしたけれど、嫌がられたので彼女たちは泣く泣く諦めた。
「ユントロ君に、何か質問はありますか?」
頃合いを見計らって、先生が確認をした。
言葉が通じると知って、女子生徒たちの眼の色が変わった。
「ユントロ君?」
「クューン?」
名前を読ばれたユントロが小首を傾げた。
「「「「きゃあああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」
女子生徒たちが大音量で黄色い声を上げる。
(ヤバい! 可愛さがヤバい! 俺の自制心がヤバい! 周りの女子たちの大声で耳がヤバい! 別に特殊能力なんて無いはずなのに、只の泣き声と仕草だけでこの破壊力……。くっ! これにはうちのサーニャも敗北を認めざるを得ない……!)
楽人も声こそ上げなかったものの、心の中は似たようなものだった。
その後も、彼らは面白がって声を掛けては、ユントロの反応に身悶えした。
「はい、終了10秒前」
間も無く、女教師から無慈悲な死刑宣告が下された。
楽園追放宣告に絶望しながら、慌てて最後の写真撮影をする、楽人たち仲良し五人組。
彼らはギリギリ最後の撮り収めをして、ユントロに手を振りながら仲良く部室を出ると、ユントロについて熱く語り合いながら教室へと帰って行った。
ユントロを通じて結ばれた彼らの友情は、末永く続くだろう……。
可愛いは正義!




