ソシャゲ君のくせに生意気だ
結局、楽人は最初の三件以降、登校中に不思議な生物は見かけなかった。
(家を出た当初は驚いたけど、思ったより少ないのか? まあ人間そっくりだと見分けが付かないだろうしなぁ…)
ガラッ
楽人が教室のドアを開けると、クラスメイトたちの視線が彼に集まった。
ドアを開ける前までは、いつも通り雑談が飛び交っていたのに、今は誰も喋っていない。
彼が不思議に思いながら席に着くと、隣の男子、伊藤蓮が声を掛けて来た。
「ソシャゲ君は来た?」
「は?」
突拍子の無い質問に、楽人は唖然とした。
「違うみたいだな」
「そうね、ソシャゲ君なら来てると思ったのに」
「ちっ。使えねーな」
クラスメイトたちが次々に訳の分からないことを口遊んだ。
楽人はソシャゲ好きを揶揄われることには慣れていたが、心当たりの無い中傷は癪に障った。
「『来た?』だけじゃわかんねーよ」
だから呆れて、少し面倒臭そうに愚痴った。
彼は世間的にはオタクに分類されるが、クラスカーストは低くない。
寧ろ、比較的高いとすら言えた。
と言うのも、学力は(ソシャゲに使う小遣いを減らされないために)優秀で、身体も(ソシャゲの操作がブレないために)鍛えていて、ネタみたいな徒名も(ソシャゲの時間が減るから)軽く笑って流すし、“ミレニアム戦記”の時間以外は人付き合いもそこまで悪く無いからである。
漫画みたいな「自分より優秀な奴は認めない」という極まったキングやクイーンは、このクラスには居なかった。
「ああ、わりぃわりぃ。これだよ」
最初に声を掛けた伊藤が素直に謝り、スマホの画面を楽人に見せた。
そこに映っていたのは、学校の裏サイト。
話題は当然、例の件だった。
『世界で一番思ってくれる人の前に現れる』
(なるほど。ソシャゲ君の仇名まで貰っている俺なら確かめられると思った訳か。まあ場末のソシャゲでもアクティブユーザーは万単位だから、彼らが思ってるほど楽な確率では無いと思うけどな……)
裏サイトを読む楽人を、クラスメイトたちは固唾を飲んで見守った。
(さて、どうするか)
楽人は返答を脳内でシミュレーションしてみた。
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Case1 サーニャのことを話した場合
「やっぱりかよ」
「どんな感じ」
「勿体ぶらないで紹介しろよ」
「今度学校に連れて来いよ」
「色々聞いたんだよね」
「キャラクターが来る条件とか教えてよ」
「あたしも」
質問責めコースの末、放課後に家へ押しかけられた。
Case2 サーニャのことを隠した場合
「ちっ。やっぱ使えねーな」
「ソシャゲ君でも無理なのか……」
「条件が間違ってるのかな」
「はんっ。所詮お前の愛はその程度だったんだな」
「幻滅したわ」
「次、オタク同好会に聞きに行こう」
「うん」
クラスメイトたちは呆れて、自分たちの話に戻った。
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シミュレーション終了。
(カミングアウトは家凸があるから論外。後でバレてもいいように上手く誤魔化した方がいいな……)
楽人は方針を決めると、裏サイトの情報から使えそうなネタを拾って、スマホから顔を上げた。
「いやあ、面白いねこれ。マジ?」
「知らなかったのかよ」
「だって俺、一昨日はガチャに備えて我慢したし、昨日はガチャの爆死でそんな気力も無かったんだぜ……う、思い出したら泣けてきた」
楽人はスマホを指差して泣き真似をした。
彼は自分で言っておきながら、サーニャの新衣装ガチャで爆死したことを思い出して、本当に悲しくなって来た。
全財産を叩いて好きな相手を逃したのだから、それも仕方が無い。
本物のサーニャが現れなければ、今日学校に来れたかも怪しい。
「いとれん、ひどっ!」
「いじめが許されるのは三歳児までよね~」
ゆるふわウェーブの女子と金髪に染めた日焼けギャルが、二人揃って伊藤を弄る。
楽人が指差したところには、『前日に好きなキャラクターで懸想していること』という条件が書かれていた。
余りにも説得力のある内容なので、クラスメイトの大半は信じていたが、彼は昨日も一昨日も致していない。
図らずも、この尤もらしい説得力溢れる内容が間違いだと証明されていた。
「済まん! 謝る! 俺が悪かったから、な。もう泣くな!」
いつの間にか、外野は楽人憐れんで放って置こうという流れになっていた。
(よく分からんが、巧く切り抜けられたようだ。…後で学内の有名人を見て周るか)
楽人は俯いたまま、口の端を密かに吊り上げるのだった……。
計画通り!(計画したとは言っていない)




