新世界
楽人が家の外に出ると、目の前の道路をジャージ姿の青年が走り過ぎた。
只のジョギングかと思って見送ると、青年は狼っぽい生き物に引き摺られていた。
楽人が見なかったことにして歩き始めると、今度は身長差の激しいカップルが目に入った。
最初はロリコンかと訝しんだが、よく見たら男の方が身長2メートル以上あるイケメンだった。
楽人が最初の角を曲がると、塀の上を歩いていた猫が、二階建ての屋根に飛び移って去って行った。
その額には三つめの目があった。
次の不思議生物とは直ぐに遭遇しなかったが、平凡な住宅街の朝には似つかわしくない驚きの声が、あちこちで上がっている。
≪わたしたちは、《世界で一番思ってくれる人の前に現れる》の≫
昨晩のサーニャの言葉が、楽人の脳裏を過った。
彼が嫌な予感の赴くままにスマホを開くと、真っ先にGooGreatナビの急上昇ワードが目に入った。
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漫画 キャラクター 現実
ゲーム キャラクター 現実
俺の嫁
リアル 始まった
二次元からの侵略
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「……知ってた」
楽人は思わず独り言を呟いていた。
(昨晩は色々あり過ぎて頭が回らなかったけど、そりゃあそうだよなぁ……)
彼は取り合えず「サーニャ」を検索して見たが、大半は昨日のガチャの話題だった。
『サーニャktkr』
その文字が目に入った瞬間、楽人は目を丸くして固まった。
彼は逸る気持ちを抑えて、恐る恐るリンク先をタップして見て周った。
『10連でサーニャktkr』
『不人気サーニャゲットしたけど100連はきつい』
『一発サーニャ 今ガバだぞ』
『200連かかったからサーニャはお高い女』
リンク先は何れもガチャでの入手報告だと分かり、彼はそっと胸を撫で下ろした。
「心臓に悪いなあ」
楽人が急上昇ワードで軽く調べてみると、それらしいものが大量に出てきた。
写真や動画を上げている者も少なくなかったが、祭りに乗じたCGや加工っぽいものが多い。
ネット上の推論はUMA、宇宙人、妖怪、クローン実験の四つ巴状態。
当然のように日本以外でも発見されていたが、日本のヒット数がダントツで多かった。
『世界で一番思ってくれる人の前に現れる』
『今この時、世界中で起きてる』
サーニャが言っていた言葉と同じものが、複数のサイトから見つかった。
(まだ少ないし、こいつらは本物ってことか)
まだサーニャが現れて半日も経っていない。
アクセス数目当ての者が、目を付けて模倣するには、まだ早過ぎた。
「――っ!」
楽人の脳裏を今朝の両親の姿が過った。
今朝、両親は二人ともダイニングに居て、リビングのテレビは点いていなかった。
サーニャたちが現れたのは昨晩の深夜。
一般的には、大きな事件でも無ければ、早々朝一のニュースになるタイミングでは無い。
(父さんは朝からゴシップなんて読み漁らないし、母さんは一度決めたことは必ず守る自慢の母さんだ……)
「はぁ……」
楽人は安堵の溜め息を一つ漏らすと、軽くなった足取りで登校を再開した。
彼は仕事熱心な父親と、筋を通す母親を持ったことを、心から誇りに思うのだった……。
四つ巴とかいう訳のわからない展開!




