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誘拐おかわり:銃殺

 ガラガラガラ…


 倉庫のシャッターが、派手な音を立てて上がっていく。

 日本の技術なら自動ドアのように静かな物も作れるが、その倉庫は内外へ開閉を報せるため、意図的にそう設計されていた。


 …ガラガラ、ガシャンっ


 シャッターが中途半端な高さで止まった。

 横付けされた大型車が、入り口を完全に塞いでいる。

 大型車のドアが開いて、“熊のような大男”と“卑屈そうな猫背の男”が姿を現した。

 彼らは意識の無い男女を抱えて、次々に倉庫内へ運び込んでいく。


(…ちっ)


 その様子を入り口の横に隠れて見ていた楽人は、心の中で舌打ちをした。

 大型車の位置が絶妙で入り口に隙間が無い。

 運転席にも一人残っているので、手足に手錠を付けたまま車を奪うことも不可能に見えた。


 ガシャーンッ


 “卑屈そうな男”が大型車から最後の一人を運び出すと、大きな音を立ててシャッターが閉まる。


 “卑屈そうな男”が倉庫の奥へ消えた後、楽人は後ろ手にシャッターが開かないか試してみたが、既に鍵が掛かっていて開かない。

 彼は仕方無く、こっそりと倉庫の奥へ戻った…。



 * * *



「………」


 “卑屈そうな男”は荷物を運び終わると、壁に寄りかかって暇そうにスマホを弄り出した。


 今回拉致されて来た人間は十一人。

 その内四人の女性は、いずれも夏を意識したお洒落な服装をしていた。


 一人は、緩い茶髪にワンピースの、化粧が濃い若い女。

 全体的にウェーブの掛かった明るい茶髪は、前髪の左右を後ろ頭に流して緩く纏めている。

 白に所々赤いラインの入った膝上のワンピースは、肌の白さも相まって年齢以上に若く見えた。


 一人は、セミロングにベアトップとアンクルパンツの女。

 柔らかそうな長めのエアリーボブが、橙色のベアトップで空いた肩や首元を軽やかに覆い、スラッとした黒いアンクルパンツからは、小振りの(くるぶし)が見えていた。

 ナチュラルメイクの中で、リップだけは派手に自己主張をしている。


 一人は、ロングヘアにブラウス、フレアスカートの若い女。

 白いブラウスは夏なのに長袖で、薄手の紺のフレアスカートは足元まで届いている。

 所々寝ぐせのように跳ねた髪と、眠っていても陰鬱そうな表情には、彼女の性格が良く現れていた。


 一人は、ストレートロングの黒髪に、キャミソールとミニスカートの小学生。

 胸元まで伸びた髪は先の方だけカールをしていて、清楚な感じと愛らしさを強調している。

 キャミソールは肩紐が幅の広いフリルになっていて、更に裾もフリルになっていて、二段フレアになっている白いミニスカートと相まって小悪魔的な魅力を醸し出していた。

 子供に合うサイズが無かったのか、彼女だけは手錠では無く荒縄で縛られている。


 それに比べると、七人の男性は比較的普通だった。


 一人は、クールな顔立ちの大学生。

 前髪長めのパーマは視界半分を隠していて、白いシャツの上に肘まで隠れる黒いアウター、黒いスラックスを着ている。


 一人は、遊び慣れてそうなフリーター。

 無造作なショートヘアはその実、女受けを狙った艶や角度を計算したもので、茶色の七分袖のビッグTシャツに、裾の広いワイドレッグがセンスを主張していた。


 一人は、年配の男性。

 五分刈りに短めの顎髭が似合っていて、半袖Tシャツから覗く腕には無駄な脂肪も筋肉も無く、パツパツの白いデニムを穿いたイケオジ。


 一人は、パンチパーマに仕立ての良い高級スーツの男。

 夏なのにスーツを着こなしているが、ネクタイはしておらず、シャツのボタンを3つ外して襟元を大きく開けていて、危ない雰囲気を隠しもしない。


 一人は、涼し気なベリーショートの高校生。

 センターパートで額が出ていて、黒いYシャツにスリムジーンズが細い体型に似合っている。


 一人は、寝汗を大量に掻いている太めの眼鏡高校生。

 伸びきった半袖Tシャツは、印刷されたアニメのキャラクターまで太っており、青いデニムは今にもはち切れそうだった。


 一人は、制服の夏服の中学生。

 手入れをしなくてもサラサラの髪に学校の制服というお手軽さは、若さゆえの特権である。


 彼らは倉庫内の中央付近に、適当に放置されていた。

 午前中の六人を合わせると、今日審査に来た【共生者】の実に一割を超えるが、審査の実情を知らない男にとっては「今日も馬鹿がよく釣れたなあ」と思う程度のことでしか無かった。


 昼頃から居る四人も、初めて見る“卑屈そうな男”を警戒して、誰も言葉を発しない。

 あれほど愛嬌の良かった大塚ですら、馬鹿な真似をすれば暴力を振るうことに躊躇いが無かったのだ。

 目の前の陰鬱な雰囲気を漂わせる男に至っては、下手なことを言えばどうなるかなど、誰も考えたく無かった。




「…どうだった?」


 “サラリーマン風の男性”は、背後に現れた気配の主……入口脇から戻った楽人に結果を尋ねた。


「無理だった。入口に大型車を外付けして搬入。シャッターは大型車の天井より低い高さで止めていた」


 彼が戻った時点で結果は言うまでも無かったが、情報の共有は無駄では無い。


「…そうか…」


 サラリーマンは最初から期待していなかったので、落胆もしなかった。


 静まり返った倉庫内に、“卑屈そうな男”がスマホを弄る音だけが響く。

 聞こえて来るBGMは、誰もが一度は耳にしたことがあるような、有名なパズルゲームのものだった。


 BGMが五月蠅かったのか、それとも睡眠薬が切れたのか。

 間も無く、新たに連れられて来た内の一人が目を覚めした。

 しかし、“卑屈そうな男”はそちらを気にも留めず、ゲームを止めようとしない。


「んだぁ、こりゃあ?!」


 目を覚ました男は、パンチパーマに高級そうなスーツを着た、如何にもその筋の人間だった。

 彼は手足に手錠を付けられていることに気付くと、ガチャガチャと外そうと藻掻いたが直ぐに諦め、何とか上半身を起こして周囲を見渡した。


 彼の近くには、一緒に拉致されて来た人たちが適当に転がされている。

 パンチパーマの男は彼らを無視して、離れた場所の起きている五人――元から居た四人と“卑屈そうな男”――に狙いを定めた。


「おいっ! オッサンっ!」

「ひっ?!」


 パンチパーマの男が目を付けたのは、気の弱そうな“中年太りの男性”だった。

 別に、「年寄りに敬意を表して老婆を避けた」などという殊勝な理由では無く、単純に、脅せば欲しい答えを吐きそうな相手を選んだだけに過ぎない。


「こりゃあ一体どういうことだ? 知ってることを吐けやゴルァ!」

「ひっ、ひっ、ふっ!」


 “中年太りの男性”はすっかり怯えてしまい、まともに返事も出来ない。

 パンチパーマの男が、「これは当てが外れたか」と思って次の標的を探そうとしたところ、“中年太りの男性”が必死の形相で、壁際に立つ“卑屈そうな男”を顎で指した。

 パンチパーマの男はそれを見て初めて、“卑屈そうな男”の手が自由で、スマホを弄っていることに気付いた。


「てめぇか? んな、ふざけた真似しやがったのはっ!? どう落とし前つけてくれんだぁ! あぁんっ!!」


 不意に怒鳴り散らされた“卑屈そうな男”は、ビクリッと身体を震わせた。


「シカトってんじゃねーぞ、ゴルァ!!」


 パンチパーマの男は立ち上がって“卑屈そうな男”を怒鳴り続ける。


 パンッ


 “卑屈そうな男”は左手でスマホを弄り続けながら、左脇から抜いた拳銃でパンチパーマの男の足を撃った。

 消音装置(サイレンサー)の付いていない銃は、短い……けれども大きな音を倉庫内に響かせた。


「ぐあぁぁぁっ!?」


 パンチパーマの男は激痛に顔を歪めたが、自由の利かない足で踏ん張る。


 カッカッカッ


 “卑屈そうな男”は、派手な靴音を立てながら早足でパンチパーマの男に近寄り、全体重を乗せた前蹴りを男の腹に喰らわせてそのまま踏み倒す。


 ドスッ、バタンッ


「…お前のせいでミスったじゃねーか」


 彼はもう一度拳銃の引き金を引いた。


 パンッ


「ぐげぇおああぁぁっ!!!!!!」


 もう片方の足も撃たれたパンチパーマの男は、“卑屈そうな男”の足の下で焼け付くような痛みに悶え苦しむ。


 たぁららららんらん~♪


 スマホからゲームオーバーを告げる軽快なBGMが流れた。


「ちっ……ん? ああ、わりぃわりぃ。猿ぐつわ忘れてたわ」


 “卑屈そうな男”は漸くスマホから視線を外して、初めて目の前の男が猿ぐつわをしていないことに気付いて謝った。


 それは楽人たちも同じこと。

 自分たちが既に外されているので、パンチパーマの男が喋っていることを疑問に思わなかった。

 彼らがまだ眠っている人たちを確認すると、全員手足の自由を奪われているが、誰一人として猿ぐつわをしていない。


 パンッ


 “卑屈そうな男”が、まだ悶絶している男の額を拳銃で撃ち抜いた。

 男の身体はビクンと跳ねた後、暫く痙攣し、そして物言わぬ躯となった。


「仕方ないよなあ、また暴れられると面倒だし」


 “卑屈そうな男”が口元に暗い笑みを浮かべる。

 彼の人命を何とも思わない態度に、一部始終を見ていた全員が自分たちの幸運に感謝した。

 大塚はアレでも冷静で人道的だったのだと。

ゲーム中に声を掛けるのが許されるのは親だけ

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