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ヒーロー:捜索

 移動には高町刑事の覆面パトカーを使用した。

 車は須磨家を少し離れたパーキングメーターに停めてあり、それを見たアル・ラクスは感銘を受けた。

 …フィクションでは、覆面パトカーでも路上駐車が多いせいである。


「…当然閉まっているか」


 駅前のパーキングメーターに車を停めて、そこから高町たちが歩いて市役所に到着する頃には、時刻はもう20時を回っていた。


 中核市の中心部は夜が遅く、そこかしこにネオンの光が溢れていたが、市役所の建物には明かりが点いていなかった。

 市役所は定時前に始めた対応で残業になるのことは多くても、全国平均で見ると一時間に満たない。


 ブツッ


「…出ないな」


 高町が市役所の建物を睨みながら電話を切る。

 既にシャッターだけでは無く、市役所内にも職員は居ないようだった。


「…ここから追えるか?」

「可能だ。…クククッ。やはり学生鞄は毎日使うだけある」


 高町が【心眼】を振り仰ぐと、彼は鼻を突き出して、臭いを嗅ぐ真似をしながら可笑しそうに答える。

 彼がスクールバッグの握りを嗅いでいたのは、そのためだった。


「…任せた」

「了解した」


 【心眼】は返事をすると、直ぐに歩き始めた。

 まるで目が見えているかのように、迷い無く、立ち止まることなく楽人の足跡を追う。

 高町とアル・ラクスも彼に続く。

 数分も歩くと駅前に戻って来て、【心眼】はビルの一つの前で足を止めた。


「ここの一階だ」


 そのビルの一階は、楽人たちが拉致された写真屋だった。

 多くの個人店同様、既に電気は点いておらず、路上に置かれていた看板は片付けられ、シャッターも閉まっている。


「周囲よりも滞留時間が長い」


(マウスマンやワンコマンみたいに、鼻鏡でもあるのだろうか?)


 アル・ラクスは原作に登場する、ネズミとイヌの怪人を思い出した。

 子供向け番組のヒーローである彼の敵は、当然、子供にも分かり易い怪人が多い。

 彼自身、設定上は常識外れの五感を持っているが、【リアライズ】した今は物理的な問題もあって、嗅覚はネズミやイヌに及ばなかった。


「けれど残り香だ。中には居ないな」

「まだ居るかもしれない。調べよう」


 アル・ラクスの言葉に、【心眼】が首を横に振る。


「…時間の無駄だ。既に他所へ移した後だろう」


 高町は最悪の可能性――既に殺された後――は口にしなかった。

 最近頻発している捜索依頼は、その大半が【リアライザー】絡みであり、裏を返せば【共生者】の安全は保障されていない。


「…令状を取る時間が惜しい。…【心眼】、使え」


 被害者の命に関わるという物証が無いため、令状も無しにビルに突入して家宅捜査をする訳にはいかない。

 指示を受けた【心眼】は、両目を覆っていたアイマスクを外した。


(美しい…)


 アル・ラクスはそこにある物を見て、ゾッとすると同時に魅せられた。

 両目が無い訳では無い。

 空洞な訳でも無い。

 地球上では決して有り得ない――惑星を彷彿とさせる球体がそこにはあった。




 ――右目は夜空に浮かぶ赤茶けた月……より赤みが強く冥王星のようであり、左目は地球や海王星よりも緑が強く天王星を彷彿とさせる。

 両の目が淡い光を放つ様は現実味が無く、ともすれば、幻想的ですらあった…。




 【心眼】が首を巡らせると、数メートル先の空間を、赤茶と青緑の光が見えない視線を追うように彷徨う。


「あっちか。遠いな」

「…車を回そう」


 【心眼】の言葉を聞いた高町は、直ぐに車を取りに向かった。


「【心眼】。もしかしてその力を使えば、今までの行方不明者も追えたのでは無いかな?」


 アル・ラクスは渡良瀬警部が言っていた、連日の行方不明者のことを思い出して尋ねた。


「ククク、失踪者の家族が協力してくれればな」


 【心眼】は肩を竦めて意味深に嘯く。


 ――実際、捜索願いを出しても、意外なほどに家族の協力は得られない。

 行方不明者が心配でまともに考えられないだけならマシな方で、探られたくない腹や世間体を気にして、必要な情報が提供されないことも少なくない。


 特に、今回は時期が悪かった。

 【超生物保護法】による戸籍登録の審査である。

 連日の仮装行列で、目撃証言もいつも以上に信憑性が疑わしい。


 どの行方不明者が【共生者】かも分からない。

 家族が隠している場合もあれば、【共生者】本人が家族にさえ隠している場合もあり、普通の行方不明者も居るからである。

 その上、警察も審査に駆り出されて人手も足りない。


「勝手に家に入れない。勝手に部屋を漁れない。警察とは不便なものだ」


 【心眼】が面白くも無さそうに淡々と言う。

 情報も協力も期待できないからと言って、警察が法を破る訳にもいかない。

 この状況で捜査が捗るはずも無く、敏腕で鳴らした渡良瀬警部も捜査本部で頭を抱えていたところに、楽人の話が降って湧いたのだ。

 正に渡りに船だった。


「ある意味、お前が連絡をくれて助かった」


 キュルキュルッ


「…乗れ」


 高町の車が到着した。

 【心眼】とアル・ラクスは話を中断して乗り込み、【心眼】が指し示した先へ向かった。

 楽人たちが攫われた場所……倉庫街へ。

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