文化祭の出し物
放課後。
帰りのホームルームが終わって担任が教室を出た直後、委員長が教壇に立って宣言した。
「これから文化祭の出し物を決めます」
ワァーッ! ワァーッ! ワァーーーッ!!
教室中から歓声が巻き起こる。
「待ってました!」
「いよっ! 大統領っ!」
「前振りはいいから早くっ!」
「やぁーってやるぜっ!」
「漸く俺の季節がやってきた!」
「今年こそアレをやるの!」
「眼鏡っ! 眼鏡っ! 眼鏡っ! 圧倒的眼鏡をっ!」
――月仰高校の文化祭は基本、9月中旬に行われる。
それは二学期が始まってから準備を始めても間に合い、二学期の中間考査に影響しないように配慮された時期。
文化祭を一年で一番の楽しみにしている生徒も少なくないため、実際には夏休み中から準備を始めるクラスも多い。
そんな血気盛んな彼らが、テスト開けまで準備開始を待ったのには理由がある。
嘗て、馬鹿な生徒たちが居た。
学年が変わった直後から、文化祭の準備を始めただけに留まらず、クラスメイトに参加を強要し、そのクラスの生徒たちは一学期の成績が軒並み前年三学期よりも落ちた。
事態を重く見た学校側は、幾つかの規則を校則に盛り込んだ。
一つ。文化祭の準備及び相談は、一学期末考査が終了した翌登校日以降とすること。
一つ。特別な理由が無い限り、文化祭の準備に一日以上参加すること。
一つ。他の生徒に協力を強要しないこと。
これらに違反した生徒は、文化祭への参加を禁ずる。
…妥当なところである。
「意見のある人は手を挙げてください」
「はいっ!」
「はいっ!」
「はいはいっ!」
「はいっ! はいっ!」
「はいっ!」
「はいはいはいはいっ!」
「はいっ!」
委員長が意見を求めるや否や、気の早いクラスメイトたちが次々と手を挙げた。
「はい、鈴木君」
委員長は最初に手を挙げたクラスメイトを適切に指名する。
「喫茶店」
最初の勝者となった鈴木遥斗は、自信満々にありきたりの意見を述べた。
「喫茶店、と」
委員長が淡々と黒板に書く間も、「はいはいっ」と元気良く手を挙げるクラスメイトたち。
しかし、委員長はそれらを一切無視して、先程二番目に手を挙げた佐藤杏を指名した。
「次は佐藤さん」
「はい。私はバルーンアートがいいです」
「バルーンアート、と」
委員長が二つ目の御題を黒板に書く。
「次は手塚君」
「眼鏡喫茶」
手塚新蜂が、委員長の眼鏡に熱い視線を送る。
クラス中から呆れた声が上がったが、委員長はそれを完全に無視して、「喫茶店」の下に「(眼鏡)」の文字を書き足した。
その後も次々に意見が挙げられていった。
「プラネタリウム」
「お化け屋敷」
「メイド喫茶」
「屋台でクレープ」
「執事喫茶」
「バンド」
「迷路」
「戦国武将の歴史館」
「ライブ」
「ツンデレラ」
「九条君の独占ライブ」
「未来戦記アダムべリオン」
中でも、特に意見が多かったのが、定番の喫茶店とライブ。
喫茶店には「メイド服」だの、「タキシード服」だの、「眼鏡」だの、願望が駄々洩れなものが多かった。
それに対してライブはライブで、自分が歌いたいというのもあれば、自分が見たいという願望もあった。
「【リアライザー】がいればなあ…」
伊藤蓮の呟きに、クラスメイトの大半が頷く。
恐らくは何処のクラスでも、何処の学校でも囁かれる願望。
オタク同好会は校外の参加者に向けて、ユントロのふれあい広場を予定しているとの噂だった。
「それでは多数決を取ります」
意見が出尽くし、委員長が裁決を宣言した。
それを聞いてクラスの大半は盛り上がるが、あまり盛り上がらない生徒たちも居る。
大人しい生徒やクラスに友人が少ない生徒。
楽人はその一人だった。
(夏休みは出来るだけサーニャと過ごしたいから、準備が楽なのがいいなぁ…)
その楽人の願いは、クラスの外に恋人が居る生徒たちの共通認識だった。
校則では手伝いの強制を禁止しているが、高校生なんてものは所詮子供。
強制参加の雰囲気を作ったり、参加しないと嫌がらせを――普通は些細な無視など――するなどは珍しくない。
(理想はライブ。次点で当日の受付担当だな)
だから楽人はライブに票を入れた。
ライブなら披露したい人以外の負担は少ない。
最初から楽な出し物を選ぶことで、参加に消極的な理由を作るのは常套手段である。
(どうせ文化祭には、サーニャを連れて来れないしなぁ…)
楽人はサーニャを人混みに連れ出すことを警戒していた。
ストールなどで羽や尻尾を隠せても、人混みでは他人に当たって、【リアライザー】だとバレる可能性が高い。
彼女を文化祭に誘えない以上、文化祭を楽しみたい人たちが嫌がる受付が、彼もクラスメイトたちも誰も損をしない選択だった。
…しかし、現実は非情である。
「それでは、2-Bの出し物は、眼鏡メイド執事喫茶に決定しました」
委員長が消極的なクラスメイトに残酷な結果を発表した。
クラスメイトたちから挙がる声は歓声半分、落胆半分。
(お化け屋敷や迷路にならなくて本当に良かった…)
その一方で、楽人は心の底から安堵していた。
お化け屋敷はどう転んでも直前の居残りが避けられない、彼にとって一番のハズレ出し物。
メイド喫茶と執事喫茶と眼鏡喫茶の得票数が合計されなければ、お化け屋敷が勝っていた。
ライブ推進派は票が伸びず、最終的に個人参加へ流れた。
無論、彼らもクラスの出し物へ、最低限の協力が必要なことは変わらない。
出し物が決まれば、次は分担。
メイドや執事はクラスの綺麗どころや言い出しっぺたち、調理班は飲食系を推した生徒たちが、(逃げようとした者も含めて)優先的に割り当てられた。
そんな中、楽人は第一希望の受付担当には成れず、協調性に問題のある彼は小物制作班となった。
一定のノルマを熟せば済むので、休み時間に熟せば放課後や夏休みは潰れない。
第一希望では無かったが、彼にとっては願ったり叶ったりの割り当てである。
ノルマ…怖い……




