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番外編:バッドエンド3

 カーンカーンカーンカーンッ


 世界的大都市にサイレンが鳴り響く。

 しかし、周囲にパトカーや消防車の影は無く、サイレンや警報は街中のスピーカーから発せられていた。


《東京都上空に【Zナンバーズ】警報が発令されました! 近隣住民の皆様は慌てず、騒がず、屋内に避難してくださいっ!!》


 【Zナンバーズ】とは、特に強大な力と好戦的な性格を持つ【リアライザー】たちの通称。

 【七災厄】が特異な力に因って人類に畏れられているのに対し、【Zナンバーズ】はその純粋な戦闘力によって恐れられている。


 サイレンが鳴っている間にも、東京都上空に【Zナンバーズ】が集まって来る。

 好戦的な彼らが集まってすることと言えば一つしかない。




 ――武術大会と言う名のバトルロワイアルである。




 ちゅどーーーーーんっ!


 【Zナンバーズ】の一人が放ったエネルギー弾が相手に避けられ、高層ビルを貫通して直径数メートルの穴を穿いた。


 彼らを知らない人たちから見れば、避難警報が大袈裟に思える御粗末な被害。

 しかしその実態は見た目とはまるで違った。


 彼らが見境なく攻撃をすれば外れない。

 何故なら、街一つ、都市一つ、時には国や星一つすら覆い尽くす攻撃を避けることは困難を極めるからだ。


 しかし、そんなものは只の子供のじゃれ合い、力を垂れ流しているに過ぎず、同等以上の力を持つ相手には――原作通り――掠り傷一つ付けられない。

 ゲーム的に言うならHPの1も減らすことは叶わない。


 だから彼らは有効打を与えるために、力を集中させて戦う。

 見た目が地味になったとしても。



 ボボボボ、ボボボボボーッ!



 【Zナンバーズ】の一人が空中で気合を溜める。

 全身から金色に光り輝くオーラが噴き出し、更に全身を包んで炎のように燃え上がる。

 そのオーラは地上にまで届くが、建物や道路が蒸発するようなことは無い。



 ぎゅるぎゅるぎゅるーーー……、どかーーーーーーーーーーんっ!



 エネルギーを収束させて地上に居る対戦相手へ放つと、エネルギー弾はその敵を飲み込んで、その真下にあった核爆発すら耐える地下シェルターに容易く大穴を開けた。

 エネルギー弾はそのまま地下深くマントルにまで達し、そこからマグマが噴き出して、安全なはずの地下シェルターは阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わる。

 アルファベットの最後の文字を冠するに相応しい、圧倒的な力がそこにはあった。


 しかも、狙われた相手はほぼ無傷。


 ドカンッ


 相手は地面を力いっぱい蹴って、道路に大きなクレーターを作りながら金色の戦士に殴りかかる。




 別の相手と戦っていた氷の魔神が片手間にマグマを凍らせた。

 彼が正面に向き直ると、黙って待っていた彼の相手は嬉しそうに拳を打ち鳴らす。


 彼らは好戦的ではあっても、嗜虐的では無い。

 戦うことが好きなのであって、勝つことが好きなのではない。



 ――言うなればバトルマニア。



 勝利は飽くまで戦った結果に過ぎない。

 彼らにとってのそれは、殺し合いでは無くスポーツ感覚に近い。


 氷の魔神がマグマを凍らせたのは、人命を尊んだ訳では無く、地球と言う恰好の舞台が無くなるのを嫌っただけ。

 相手がそれを待ったのも、不意打ちで勝っても、鼻くそほどの価値も無いからに過ぎない。


 【リアライザー】はその性質上、大半が主人公サイドのキャラクターであり、好んで地球を壊そうとする者は少ない。

 その少数は、【リアライズ】から早々に【Zナンバーズ(かれら)】に依って滅ぼされた……バトルを楽しむのに邪魔だからという理由で。


 ある意味、人類が未だ滅びずに済んでいるのは彼らのお陰とも言える。

 …と同時に、最も数多くの被害を出して、最も多くの人たちに名を知られているのもまた彼ら。

 彼らは決して、都合の良い人類の味方では無いのだ。


 しかし、だからこそファンも居る。

 遠くから撮影される放送だけでは飽き足らず、好きなヒーローを間近で観戦したがる剛の者(アホのこ)も少なくない。











 ジャララーーーーーンッ




 戦場にエレキギターの音が鳴り響いた。

 商魂逞しいテレビ局のカメラが、ビルの一つの屋上を映し出す。


 そこには四人の人影があった。


 一人は、人並外れた大柄の女。

 褐色の肌に緑の髪を逆立てていて、ドラムセットの中心で椅子に座っている。


 一人は、大柄なチョビ髭の中年男。

 浅黒い肌に黒髪をオールバックにして、キーボードを構えながらスピーカーの調子を確認している。


 一人は、ブラウンの丸レンズのサングラスに、タンクトップとデニムの男。

 前を、天を、貫くような特徴的な髪を風に揺らし、エレキギターを構えて隣の相棒を見ている。


 そして最後の一人。

 髪型とサングラスとタンクトップは同じ。

 デニムには自然なダメージがあり、半端にSF味のあるエレキギターを構えた彼の名は…。




《【七災厄】の絶気アスラですっ! 周辺住民の皆さんっ! 鼓膜を破って布団を被って隠れてくださいっ!》


 ヘリコプターで遠くから実況をしていたリポーターが、悲鳴を上げて支離滅裂なことを言って自分の耳をペンで貫いた。

 …と同時に、テレビ中継が停止された。


 彼女は狂った訳では無い。

 寧ろこれから狂うのだ。




「「Hearing We Song!」」


 ――俺たちの歌を聞け――。




 “サンダーライザー”の演奏が始まった。

 四人が演奏し、その内二人のボーカル、絶気アスラと鍍金ヴァジュラが歌う。


 【Zナンバーズ】たちは最初、それを鬱陶しがったり、景気付けにしたりした。

 しかし次第に一人、また一人とバトルを止め、彼らの演奏に聞き入り、熱狂していった。


 絶気アスラの歌は原作通り、戦闘狂だろうが、脳みその無い本能だけの生物だろうが、何なら生体コンピュータだろうが熱狂させる。


 【Zナンバーズ】は盛り上がり、辺りを飛び回り、跳ね回り、けれど周辺に一切被害を出すことなく熱狂した。

 その姿は品の良いファンの姿そのもの。


 草木は見る間に成長を遂げて花開いて実を結び、夏の虫たちは飛び回って求婚の羽音を奏で、野良犬は遠吠えを繰り返し、野良猫は発情して盛り狂い、隠れて見ていた観客たちも建物から姿を見せて歓声を上げた。




 ――絶気アスラは一見、騒がしいだけで実害が無いように見える。

 それどころか、見ようによっては、他の【リアライザー】の暴走を止めて被害を抑える、人類の救世主とすら言える。

 しかし、断じてそんなことは無い。

 【七災厄】とされるには、それ相応の理由があるのだ。


 バタッ


 バタッ


 バタッバタッ


 あちこちで熱狂していた人たちが倒れ始めた。

 彼らは何れも骨と皮だけに痩せこけ、中には倒れた拍子に骨折する者も少なくない。

 まだ立っている者たちも似たようなものであり、その目には狂気の色が浮かんでいる。


 それは何も人間だけに限ったことでは無い。

 虫は方向感覚を失って壁に激突し、犬は喉を潰して呼吸困難に陥り、猫は腰を痛めて突っ伏していく。




 “オーバーデスマーチ――死を超える行進――”




 生物に自らの限界を超えて熱狂させ続けるそれが、絶気アスラを【七災厄】と呼ばしめるものの正体だった。


《アスラ様ーーーーーーーーーーっ!》


 鼓膜を破ったはずのリポーターが叫んだ。

 彼女もまた、狂っていた。


 絶気アスラの歌は、言葉の通じない動物や植物にも影響する。

 鼓膜を破った程度で防げる道理は無い。




『人知を超越した【リアライザー】なら、聞かせる相手を選べるのでは?』


 そう思う者も少なくない。

 確かに、彼は原作でもそれが出来る。


 …しかし、彼は本物のロッカー。

 観客は選ぶものでは無く、歌で惹き付けるもの。

 ゲームのキャラクターのように聞き手を選り好みするなど言語道断。

 原作でも戦場で敵味方問わず歌い聞かせる彼に、人間だけを特別扱いする理由は無いのだ。




 ジャララーーーーーンッ




 幾度のアンコールを重ね、演奏が終了した。

 最後まで聞いていたのは【Zナンバーズ】のみ。

 草木は大地から栄養を吸い上げ尽くして枯れ、大地はひび割れ、人も、犬も、猫も、虫も息絶えた。

 【Zナンバーズ】はアスラたちと握手をして、意気揚々と帰って行く。


「…今日も居なかったな」


 アスラが残念そうに呟く。


「仕方ないさ」


 ヴァジュラが相棒の肩を叩いて慰める。

 彼は人間である。

 アスラの【共生者】であって、【リアライザー】では無い。

 キーボードのチョビ髭男とドラムの大女も同じく人間。


 ――何故彼らは無事なのか?


 彼らはロッカーらしく、【思い(エナジー)】の強さだと信じている。

 ベースだった微少女――三十路で十代半ばの恰好を好んでする――は、アスラの歌に付いて来れず死んだ。


 彼らはそれを悲しんだが、だからと言ってロックは止められない。

 それは死んだ彼女の末期を汚すことになってしまう。

 だから今はヴァジュラがベースを兼任していた。


「今日は手塚たちでも誘って飲もうぜ」

「みんなあいつらくらい気合が欲しいぜ」


 彼らの絶大なファン、“眼鏡オタク”こと手塚新蜂は数少ない彼ら側。

 無論、サーニャ一筋の須磨楽人も同様。


 ――もし彼が彼女より“サンダーライザー”に熱狂すれば地球は終わる。


「あいつらは未成年なんだからアルコールは飲ませるなよ」


 チョビ髭がヴァジュラを窘めると、大女も黙って頷いて同意を示す。

 アスラたちは世間話をしながらビルの屋上から去って行く。




 ――彼らが立ち去った後には、草木一本生えない不毛の大地(しんじゅく)が広がるのだった……。

(*´ω`*)「ゲームでもライブでも熱中し過ぎには注意。水分補給と栄養補給は忘れずに」

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