人という字
ネット上は須磨楽人の想像を超えていた。
人と言う字は、人と人が支え合って出来ている。
それも間違ってはいないが、正確ではない。
正しくは、人と人が互いに上になろうとしているのだ。
それは人の世の理であり、人間の性。
故に、人と言う字は左右対称では無いのだ。
朝方公開された“サンダーライザー”のライブ映像は、平日の昼間だと言うのに、日本中で人々の目に留まってトレンド入りし、更に世界中で多くの人々の目に留まり、ネット上で物議を醸し出した。
いや、表面化したと言う方が正しい。
曰く、偽物のコスプレ。
曰く、CGの方がリアル。
曰く、版権を無視した非常識。
曰く、【リアライザー】に頼った売名行為。
卑怯、セコイ、運……風評被害には事欠かなかった。
他者を貶めることに喜びを感じるのは、人間の性なのだから当然である。
しかし、ファンたちは、そんなことは百も承知だった。
実際、インディーズとメジャーの間に明確な技術力の差が無い以上、メジャーを目指して成れる者と成れない者の違いは、結局は関係者の目に留まる運やコネが大きいのだ。
それでは、メジャーは卑怯なのか? セコイのか? 運なのか?
そのどれも正しいとも言えるが、それが全てでは無いし、批難されることも少ない。
つまり、【リアライザー】を批難することは只の妬みに過ぎず、寧ろ現れた事実こそが、その熱意の大きさを証明するものですらあった。
それならば、世界中で当人たちの多くが誇っていると言うのに、ファンである彼らが大好きなバンドを卑下する必要など無かった。
この話題は当のバンドだけではなく、他の分野へも飛び火した。
特に夜、配信者やファンの周りで炎上をし続けた。
先週末に盛り上がった“化身配信者”は、「儲けに走ったなんちゃって人権派」と揶揄されるが、尻馬に乗って【リアライザー】の表明を求める配信者が出て来た。
また、多くの良識ある配信者は、自分が他人の成果をパッチワークしたアバターを使っていると自覚しているので、“サンダーライザー”を素直に羨んだ。
その中の一人、“ファイアーライザー”のようにパクリ元の【リアライザー】が現れた配信者が、【リアライザー】との配信に踏み切った。
それは自らパクリだと公表するようなものであり、今までのファンに恨まれたり、世間から叩かれる可能性も少なくない。
そこには相応の葛藤と覚悟があったことは想像に難くなかった。
当然、そこにアンチが群がる。
『恥知らず』『偽物』『やっぱりアレのパクリだった』『AIと同じ』…。
ネット上にファンの多い業種である“化身配信者”と言うこともあって、“サンダーライザー”よりも派手に炎上した。
それでも受け入れるファンは多く、また、新しいファンの獲得にも繋がった。
それはAIのような他者の力そのものではなく、人間の努力に因るものだったことが大きい。
例えるなら、“AIに作曲・作画・作文をさせる人間”と、自力で“模倣する人間”の違い。
どちらに人間味があるかは論じるまでも無い。
面白くないのはアンチである。
彼ら彼女らは、【リアライザー】の版権元に有ること無いこと通報した。
版権元の企業は、直ぐに裁判所へ訴えた。
【リアライザー】を使ってバズったばかりの個人が支払える慰謝料なんて高が知れている。
企業に都合の良い契約を強いて【リアライザー】を利用、最低でも高額のマージンを請求、最終的には【リアライザー】自身を奪おうと経営陣が夢想しての行動。
正に捕らぬ狸の皮算用だった。
しかし、彼らは知らなかったのだ。
世論の本当の力を。
当の配信者は罪を否認し、一か月後の第一審――簡易裁判――に挑む姿勢を見せた。
ネット上でも、リアルでも、世界中の人たちが注目した。
――しかし、事態は一か月後の裁判を待たずして、急展開を迎えることになるのである…。
現実が予想通り動くなんて誰が決めた?(意味深)




