インディーズバンド:アルバイト募集
「何かいいバイト無いかなぁ……」
火曜日。
テスト二日目を終えた楽人は、机に突っ伏して呟いた。
「また何かあったのか?」
さっさと帰り支度を終えた手塚が尋ねる。
その視線は楽人の隣の席、委員長の眼鏡に向いていたが、楽人も委員長も気付いた上で無視をした。
「爆死した」
楽人は机に突っ伏したまま答えた。
彼は二週間前、“ミレニアム戦記”で漸く実装された、愛するサーニャの新衣装ガチャに挑んで盛大な爆死を遂げた。
その際に、貯金も使い果たしていて、母親から貰った今月分の小遣いが、彼の少ない全財産だった。
サーニャも彼と同額の小遣いを貰ったが、特に使う気配は無い。
ガチャの開催期間ギリギリまで、イベントで稼いだ召喚結晶でガチャを回したが、そんなものは焼け石に水。
結局、サーニャの新衣装は手に入らないまま、先程、定期メンテナンスの開始を以てガチャ期間が終了した。
次に手に入る機会は、早くても一年後の復刻時となる。
「ご愁傷様」
手塚は軽く溜め息を吐いて親友を労った後、スマホを弄り出した。
楽人は彼にも“ミレニアム戦記”を布教したのだが、一か月も持たなかった。
中世風ファンタジーらしく眼鏡キャラが少なかったため、文字通り、彼の御眼鏡に叶わなかったのである。
ポチポチポチポチ…
楽人の視界の端では、昨日猛威を振るった女子が帰り支度もしないで、何やら熱心にスマホを操作していた。
ポチ、ポチ…
楽人もスマホを起動して、バイトの求人サイトを開いた。
彼はここ最近、愛するサーニャのために、外出しないで済むバイトを探していた。
しかし、高校生が家で出来るバイトの募集は少なく、募集要項が当てにならない類のものばかり。
特にネット絡みで募集しているバイトは、怪しいものしか無かった。
「丁度良かったな」
手塚は唐突にスマホから顔を上げて言った。
「は?」
「俺のバイト先が人手不足でな。放課後空いてるなら来るか?」
「まだテスト期間中だぞ」
「だから人手不足なんだろ。給料も良いぞ」
「ぐっ」
ぐうの音も出ないほどの正論に、楽人は言葉に詰まった。
「どうせ今から勉強したって無駄だろ?」
グサッ
「ぶはっ!」
「どうした鈴木?!」
ザシュッ
「ふみぃーん……」
「急に泣き出さないでよ早苗ぇ。わたしも悲しくなっちゃうじゃない……うぇーん、うぇーん……」
スパンッ
「ふっ、俺はスポーツ特待生狙いだから関係ないぜ。一緒にカラオケ行こうぜ」
「巻き込むな、万年二軍」
クラスのあちこちで、流れ矢がクリティカルヒットした。
言われた当の楽人は、普段から(小遣いのために)真面目に勉強をしているので、手塚の言う通り前日に一夜漬けしても大差が無い。
「……コンビニか? レジ打ちか?」
「馬鹿か。いきなり金を触らせるわけ無いだろ」
「ははっ、それはそうだ」
楽人の口から、思わず渇いた笑いが出た。
彼には赤の他人に財布を預けるような趣味は無かったが、サーニャが物欲しそうに見えたので全財産を差し出したら遠慮されたということならあった。
「ライブの手伝いだ。深夜までだけどやるか?」
手塚が楽人に見せたスマホには、SNSの遣り取りが表示されていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『…さん、今夜のバイトの補充、友人を一人連れて行ってもいいですか?』
『どんな奴だ』
『同級生、ソシャゲ馬鹿、真面目』
『採用』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽人は起き上がって、手塚の手を両手で握った。
「心の友よ!」
「ふふん。家には連絡しておけよ」
「ああ!」
教室のどこかで漫研女子が奇声を上げたが、彼らは聞こえなかったことにした。
当然の権利として腐っています。




