ふれあい教室
昼休み。
ある生徒にとっては戦争であり、またある生徒にとっては至福の時間。
前者は、午前中最後の授業が終わると同時に教室を飛び出し、戦場へと向かう。
後者の一部の生徒は直ぐに弁当を広げて食べ出し、また一部の生徒は机を寄せていつもの友達と弁当を食べ出し、また一部の生徒は前者のように戦場となっている食堂や売店へと走った。
「今日は行かないんだな」
楽人が机に弁当を広げていると、いつも直ぐに教室から消える手塚が寄って来て、前の席の椅子を勝手に後ろ向きにして座った。
「もう飽きたからな」
楽人は嘯いた。
サーニャ一筋の楽人ですら、未だユントロの可愛さには飽きていない。
しかし、午前中の授業で、音無先生はもう心配無用だと分かり、様子を窺いに行く必要性を感じなくなった。
ユントロの可愛さは惜しくても、弁当をゆっくり食べる時間の方が重要。
彼の時間と体力は、誰のためでも無く、サーニャのためにあった。
「凄い人混みだもんな」
手塚も楽人の机の上に弁当を広げ始める。
最近は二人とも、ユントロに感けて御無沙汰だったので久しぶりだった。
「お前こそ、もういいのか?」
「今日はいい」
手塚はニヒルに肩を竦めると、弁当を食べ始めた。
彼はいつもオタク同好会に並んでいる。
しかし、今日の昼休みは音無先生が所要で、真島主任が代理だと知っていたので行かなかった。
彼の目的は眼鏡巨乳の音無先生であって、ユントロは飽くまでもオマケ。
自称情報通らしく、優先度のしっかりした男だった。
「然もありなん」
楽人も弁当を広げて食べ始めた。
中身は当然、サーニャの手作り……ではなく、母親の手作り。
サーニャも料理や現代の調理道具に興味を示したけれど、母親の様子からするとサーニャの手料理を食べられるのはまだ先になりそうだった。
「うまうま」
「ほんと旨そうに食べるな~」
「本当に旨いからな」
楽人はジャンクフードや外食も好きだったが、家庭料理は別格だと思っていた。
クラスメイトたちと、弁当のおかずを交換したことも何度かあるが、何かしっくり来なかった。
同じ料理であっても、家庭ごとに塩気や甘みなどの差が意外と大きい。
小さい頃から餌付けされ、胃袋をしっかり捕まえられている証拠だった。
彼の最近の願いは、早くサーニャに胃袋を捕まえられることである。
「――可愛かったわね」
「あれ、メロやばっ☆」
楽人が先に弁当を食べ終わって片付けていると、二人組の女子生徒が楽しそうに教室へ戻って来た。
一人は茶髪のショートボブに、スラっとしたスタイルの落ち着いた雰囲気のギャル、綾波貴巫女。
もう一人は金髪の一束だけがピンク色で、健康的に日焼けした胸元は高校生離れして大きい――当然サーニャよりは小さい――ギャル、真島範子。
開幕ダッシュを決めた彼女たちの顔は、勝利とモフモフの余韻で緩みっぱなしだった。
普段は『ダルい』だの『めんどー』だの言ってばかりでも、欲望に忠実な時のギャルは強かった。
「明日も行くの?」
「あーしはパス。放課後は彼ピとデートだし」
綾波が尋ねると、真島は半分嬉しそうに、そして半分残念そうに答えた。
(ん? 明日?)
楽人の記憶では、ユントロとの交流会は先週の水曜日から一週間……即ち、今日までの予定だった。
(金曜日の分かな?)
既に事情を知っている自称情報通は、綾波たちに意識を傾ける親友を詰まらなそうに見ながら弁当を食べ続けた。
「明日から初めての生徒優先だからだろ」
教室に戻って来た別の宮藤駆が、綾波たちの会話に横槍を入れて混ざった。
彼は手塚と違って情報通という訳では無かったが、どこに混ざっても、持ち前の明るさで疎んじられることは少なかった。
「じゃあ誰か連れてけばいいじゃん」
更に、入り口に近い席に座る坂本乃愛が話に混ざった。
その正面に座っている宇代亜紀も、口の中身を咀嚼しながら頷いて同意した。
「二度目以降がいたら一緒に後回しだって言ってたぞ」
ごっくん
「……それってズルくない?」
宇代が漸く口の中身を飲み込んで会話に参加した。
「判り易くする為だろうな」
「どういうこと?」
話の中心になれた宮藤は気を良くして、いつもより少し浮かれて彼女たちに説明をした。
逆に彼の関心が逸れた綾波と真島は、弁当を食べるために自分たちの席へ向かった。
「例えば俺たち3人が新人2人連れてったとする」
「ふんふん」
「後から来た連中が、新人3人にリピーター2人だから割り込んだ」
「なんでさ!」
「新人が多いからだろ」
「ズルいっ!」
「そうなるから、一人でもリピーターが居たら後回しにしたんだろうな」
「う~~~…」
坂本と宇代は納得したくないけど反論も出来ず、唸ることになった。
「一カ月に延長したのも、大人しく一周するのを待てってことかもな」
職員室には、期間延長の要望が数多く上げられていた。
学校側としては、学業に影響が無い範囲に関しては寛大で、音無先生やオタク同好会にも否やは無い。
その結果、一週間の予定が一カ月――テスト期間を除く一学期いっぱいに延長された。
「それなら仕方ないか~。早く一周しないかなあー」
坂本が納得してぼやき、宇代も納得して食事を再開する。
聞き耳を立てていた楽人も納得し、弁当を片付ける手塚と雑談に更け込むのだった……。
顧問の仕業です。




