初デート:帰り
「お義父様、お義母様、ガクト。今日は本当にありがとうございました」
帰りの車の中。
サーニャが楽人たちに感謝する声は、皆が今日何度も聞いた言葉だった。
「どういたしまして」
「サーニャちゃんはもう家の子なんだから遠慮しなくていいのよ」
父親は車を運転しながら簡潔に、母親は夫の気持ちを代弁するかのように優しく応えた。
「はいっ♪ ありがとうございます♪」
重ねて礼を言うサーニャに皆の頬が緩む。
楽人は懐から小さな包みを取り出して、横のサーニャに放った。
「何ですか?」
「今日の記念だ」
「開けてみていいですか?」
繁々と手の中の小包と楽人を交互に見るサーニャに、彼は頷いて見せた。
サーニャが小包を開けると、中からは小さなストラップが出て来た。
「天の逆さ十字!」
それは“ミレニアム戦記”で魔族の象徴とされるものだった。
細く薄い十字架を、上下左右から太く厚い板で覆っているような形状をしていて、その中央に小さな半透明の珠が嵌っている。
昔流行った漫画の十字架型兵器に似ている。
但し、長い方が上である。
それは天を突き刺すようであり、また、天から齎されるようでもあり、作品のキーアイテム……の成り損ないだった。
魔族は必ずこの模様のアクセサリーなどを持っていて、当然、初期キャラであるサーニャもチョーカーに【天の逆さ十字】を付けている。
その割には、作中では未だ全く触れられず、ユーザの間では「製作者が忘れている」とか「今更出せない設定なんだよ」とすら言われている有様だった。
「これって……」
サーニャの言葉を肯定するように、楽人がスマホを取り出して見せると、付けている同じストラップが揺れた。
いつも家で一緒のサーニャには初日に見つかっている。
彼がアパレルショップを抜け出したのは、これを買うためだったのだ。
キャラ物でも無くロゴすら入ってない硬派な仕様のため、ファンの間でも一二を争う不人気グッズ。
そのお陰で、楽人がスマホに付けていてもオタクグッズだと気付かれず、ちょっとヤンチャなシルバーアクセサリーの親戚程度にしか思われていない。
「ええっと……」
「付けてやるよ」
楽人がサーニャからスマホとストラップを受け取って、付けて返してあげると、サーニャは受け取ったスマホに見入って色々な角度から見た後、ぎゅっと胸元で握り締めた。
「……ありがとうございます、ガクト。わたし、一生大事にします……!」
楽人は少し大袈裟だと思ったが口には出さず、ただ笑顔で頷いて応えた。
――今日は何も無かった。
けれど明日も何も無いとは限らない。
『次があると信じて疑わない者は愚か』だと言ったのは誰の言葉だったか。
【リアライザー】の明日がどうなるのか、彼には分からなかった。
ただ、サーニャが笑っていられるように、気軽に出かけられるようになってくれればいいと、彼はそう願わずには居られなかった……。
次回から新章になります。




