爆死が許されるのは○連まで
6月21日、14時。
月凪市立、月仰高等学校。
駅から歩いて三十分足らずの場所にある、どこにでもある普通の公立高校。
2年B組の教室。
楽人は授業中、机の陰に隠れて、こっそりスマホを取り出した。
(……サーニャ、お待たせ)
楽人は心の中で、待ち受け画面に映る美少女に話し掛けた。
以前、彼はうっかり声に出してクラス中の笑い者になり、それ以来「ソシャゲ君」と呼ばれている。
そのゲームの名前は“ミレニアム戦記”。
ゲームシステムは、戦略性を要求されるシミュレーションRPG。
ストーリーは、主人公の皇子が魔物に襲われた祖国から一人逃げ延び、仲間を集めて再起を図る、王道の貴種流離譚。
……しかし、悲しいかな。
登場キャラクターに偏りがあり、味方の九割九分が美少女。
彼は硬派なゲームを主張したが、誰にも信じて貰えなかったので、既に諦めている。
(さて、ガチャはっと……)
楽人は“ミレニアム戦記”のアプリを起動すると、直ぐにログインした。
今日は彼の推し、サーニャ・アンティノーマ初の新衣装の実装日。
ログインすると、直ぐにその新着情報が表示された。
(プレイ開始で一目惚れしてから苦節3年。何度この日を夢見たことか……)
実装予告から数日。
彼は期待に胸を膨らませて、今日と言う日を夢見て眠れぬ夜を過ごして来た。
《天の魔族サーニャ限定ガチャ》
新着情報として、彼の愛して止まない推しの姿が表示される
(……ぐっ)
しかし、彼は心を鬼にして新着情報を飛ばした。
直ぐにガチャ画面へ移動して、推しの紹介すら無視して、《10連》のボタンをタップした。
――彼は経験上、“ミレニアム戦記”のガチャは、メンテナンス直後が当たり易いと考えていた。
迷信と言う勿れ。
彼はいつも、メンテナンス直後の最初の10連で、確率の2倍近く当たっている。
また、新着情報を見たり、ガチャの紹介を見たりといった、ヘタな操作を挟むと外れるのも彼のジンクスだった。
しかも今回は、彼の推し初めての――そして最悪、唯一にして最後の――新衣装。
迷信にでも縋りたいと思うのが人情である。
だから、例え授業中だとしても、この時間にガチャを回す以外の選択肢は、彼には無かった。
(出ろ……出ろ…………!)
画面が虹色に輝く。
最高レアの演出だ。
しかし、この時点ではまだ、ピックアップされたキャラが出るとは限らない。
10連ガチャの結果が1つ、また1つと表示されていく。
(あー、ダブったかぁ……)
最高レアとして出たのはサーニャの妹、メスリンの特別衣装。
トップクラスの性能で、普通ならピックアップ以外としては最高の大当たりだったが、彼は既に持っていた。
(まだまだ……)
彼は続けてもう一度、10連のボタンをタップした。
この“ミレニアム戦記”のガチャには天井が存在しない。
ガチャの回数達成で当たるシステムも無ければ、ポイントで交換するシステムも無い。
しかし、彼に焦りは無かった。
彼がこの日のために溜めた、推し貯金はミレニアムに因んでガチャ1000回分を超える。
(ふはははははっ! 圧倒的じゃないか我が軍はっ!)
……そして爆死した。
諸説あるが、ソシャゲでの爆死とは目的のものが出ないことを指して言う。
例え何百万円、何千万円と使おうが、目的のものが手に入れば爆死とは言わない。
しかし、残念ながら彼にはそこまでの予算は無く、有乎無乎の貯金まで全て吐き出して2000連以上しても、愛しい推しが出ることは無かった……。
毎回同じ確率のオンラインガチャでは稀によくあることOrz
午後も更新します。




