プロローグ
――20XX年6月21日。
ユーラシア大陸の東に浮かぶ島国、日本。
そのどこにでもある普通の都市、どこにでもある普通の一軒家から物語は始まる――
深夜。
ベッドで眠っていた少年は、不意に寝苦しさに襲われた。
「――うぅん……」
彼は魘されて、無意識に寝返りを打とうとした。
仰向けのまま、首と肩だけが僅かに右を向く。
しかし、そこから下は、まるで金縛りにでも合ったかのように動かない。
「……んんっ……」
彼は今度は左に寝返りを打とうとしたが、結果は同じ。
(……)
そこで彼の意識は朧げに覚醒した。
(……今日は確かガチャで爆死して……)
しゅんっ
彼は寝る前のことを思い出して落ち込んだ。
彼の名前は須磨楽人。
ソーシャルゲームが好きな、どこにでも居る普通の高校二年生。
今日は彼の推しキャラが、初めて別衣装を実装された。
喜び勇んだ彼は授業中にも関わらず、溜め込んだガチャアイテムと課金を注ぎ込んで……爆死した。
帰宅した彼は失意を胸に、いつもより早く布団に入り、枕を涙で濡らしながら眠りに就いていた。
少し落ち着いた彼は目を開けた。
部屋の中は暗い。
照明は消えたままで、カーテンの隙間から入ってくる、外の光だけが唯一の光源。
遠くからは時折、車の音が聞こえてくる。
薄っすらと照らされた天井には何も無い。
彼は足元の方が陰が深いことに気付いて、視線をそちらに向けた。
闇に慣れてきた目に、薄っすらとそれのシルエットが浮かび上がる。
彼の腰の上、掛布団越しに、小柄な人影がぺたんと座っていた。
その開いた膝は、彼の両腕を抑え付けるように乗っている。
「あっ、起きた」
人影が愛らしい少女の声を発して、少年は目を丸くした。
彼がその声を聞き間違えるはずが無い。
だから、彼は驚きながらも、自分がまだ夢の中に居るのかと思った。
――その時。
表の通りを車が通り過ぎた。
部屋の中が一瞬だけ明るくなり、少年は驚いた。
「!?」
その明かりに照らし出された姿は――
「初めまして、ガクト♪」
――彼の最愛の推しキャラ、サーニャ・アンティノーマだった。
これはどこにでも居る少年須磨楽人と、彼の推しの少女サーニャ・アンティノーマの、アンタッチャブルな物語である。
次回、午前中の予定です。




