プリ待ち
プリクラコーナーにはプリクラ専用の機械、通称プリ機が等間隔で並んでいた。
「意外と遠かったな」
プリクラにあまり縁の無い楽人が、感慨深げに呟く。
それは複合店の基本戦術。
客足を稼げるコンテンツを奥に配置して、客に多くの店を見てもらう。
無論、プリクラコーナーへのルート上の目立つ場所に、映画館やスイーツ、ランジェリーショップなどがあるのも経営努力である。
「それで、どれにするんだ?」
――プリ機は製造会社によってサイズの違いはあっても、外観はどれも似通っている。
形状は高さ2メートル前後、幅1~2メートル、奥行き1~3メートルの直方体。
側面の片側には外部モニターがあり、その下の方にお金の投入口。
当然、メインターゲット層を意識したスマホ決済にも対応。
また、同じ側面に撮影ブースや落書きブースへの入り口もあり、中が見えないように暖簾が掛かっている。
暖簾は足元が空いていて、先客の有無が分かり易い。
これが無いと、撮影中に中を覗かれるという大惨事が起きるだろう。
撮影した写真の排出口は、正面にあったり、側面にあったり、撮影ブースにあったりと製造会社による差が大きい。
プリ機の正面、側面、背面の四面には写真見本や広告が貼られている。
写真関連の会社ならではの美麗な広告は、顧客の「自分もこんな写真を撮りたい」「こんな風になりたい」という願望を駆り立てて止まない。
その証拠に、夏休み中とは言え全ての機種が使用中で、並んでいる機種も少なくない。
「こっちこっち☆」
範子がプリ機の一つに駆け寄って、皆を手招きした。
それはプリ機の大手メーカー、クズリューの人気シリーズ“ハルカナソラ”だった。
根強い人気から、何度も新バージョンが発表され、カップルやグループでの利用客にもお勧めとされている。
《忘れ物にご注意ください》
丁度、機械音声が流れ、前の客が落書きブースから出て来た。
並んでいたカップルが支払いを済ませて撮影ブースに入り、その機種の行列が途切れる。
「前のと違うやつです♪」
サーニャは新しい体験への期待に胸を膨らませた。
「サーニャん、前のってどれ? ここにあるやつ?」
「えっと…………はいっ、ありましたっ! あれです♪」
サーニャはプリクラコーナーを見渡し、以前楽人たちと撮ったプリ機を発見すると嬉しそうに指差した。
「須磨っち、やるじゃん☆」
範子が褒めると、楽人が視線を逸らし、サーニャが不思議そうな顔をする。
その機種は被写体の加工機能が無い代わりに、純粋な写真機能では他の追随を許さない撮影特化型。
そのため、プリクラのメインターゲット層である、理想の自分を求める人たちにはあまり人気が無い反面、一部には絶大な評価をされている機種だった。
【リアライザー】とは限りなく原典に近い存在。
【共生者】とは誰よりもそれに執着している者。
ありのままの姿を、最高の形で残したいと思うのは必然でしか無い。
…無論、範子は楽しい思い出のために、自分の分は思いっきり加工するつもりである。
「前のお客さんが移動したわ。後三分くらいね」
彼らが話している間に、先程のカップルが撮影を終えて落書きブースへ移動した。
撮影後の落書きタイムは三分が基本で、普通の客は時間いっぱいまで出てこない。
「サーニャん、ブースに入ったら戦争だかんね! 準備はいい?」
「戦争ですか?!」
戦争と聞いて、サーニャは原作知識から表情が険しくなる。
ポコンッ
貴巫女が範子の頭頂部に軽く拳を落とした。
「あいたっ!」
「範子、脅さない。サーニャさんごめんなさい。戦争はただの比喩表現なのよ」
貴巫女が眉尻を下げて、申し訳無さそうな顔で親友の代わりに謝る。
「そうなんですか?」
「プリクラは時間制限があるからな。慌ただしくなるから心構えだけしとこうって話だよ。前回も次々に写真を撮っただろ?」
「! そうでしたね♪」
サーニャは前回の状況を思い出すと、納得して口の前で両手を合わせた。
《忘れ物にご注意ください》
機械音声が流れ、カップルが落書きブースから出て来た。
「さあ、行こう。サーニャん☆」
「はいっ♪」
範子がサーニャの手を引いてプリ機に向かう。
楽人と貴巫女もその後に続いた。




