ランチ:デザート
「ジェラートになります」
陶器製のカップに入ったアイスが四つ、それぞれの前に注文した物が置かれた。
サーニャの前には、キウイフルーツとオレンジとリンゴのトリプル。
範子の前には、チョコレートとレモンとマンゴーとミックスベリーのクワトロ。
楽人の前には、コーヒーのシングル。
貴巫女の前には、ミルクとミックスベリーのダブル。
十分前に到着したピゾーロは、既に影も形も無い。
サーニャが文字通り、範子の分も食べ干した。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
ウェイトレスは満面の笑みで、上座に座っているサーニャに尋ねた。
サーニャが不思議そうに楽人を見ると、彼は笑顔で頷く。
「はいっ♪ 全部美味しかったです♪」
彼女の笑顔とズレた答えに、ウェイトレスが目を見開いて固まった。
「あははっ☆ サーニャん、つよっ☆」
「あれ?」
ウェイトレスは我に返り、何事も無かったかのように空になった皿を回収して去って行った。
「…あら、美味しい」
貴巫女はウェイトレスが去ると、ジェラートのミルクの方をスプーンで掬って口に入れた。
「あっ! 貴巫女っちズルいっ! あーしも食べる!」
範子はスプーンを握ると、右手から一番近かったマンゴーのアイスを頬張った。
「――しいっ! っぱ夏はアイスしか勝たんっ☆」
彼女は先程までの満腹が嘘のように、四種のアイスを代わる代わる頬張った。
それを見たサーニャは得も知れぬ危機感を覚えて、自分のアイスを片手でしっかり守りながら食べ始めた。
「わたしも…! …あま~いっ♪」
一口頬張っただけで、頬に手を当てて幸せそうな顔になった。
「はははっ。慌てなくても誰も取らないって……おっ? 想像してたより旨いな」
楽人は苦笑しながらアイスを口に入れ、その美味しさに舌鼓を打った。
(…甘いわね。実に甘い。コーヒーのボスより甘い…)
貴巫女は自分のアイスが範子の視界に入らないように、片腕を上げて隠しながら急いで食べた。
――その数分後。
「おいしかった~☆ あ、須磨っち食べないならあーしが食べてあげる☆」
ひょいっ、パクッ
範子は身を乗り出して、対面に座る楽人のアイスにスプーンを突き刺し、ゴッソリ抉り取って口に入れた。
「あっ」
いきなりのことに楽人の手が止まる。
「ガクト、もう食べないんですか? それならわたしがもらいますね♪」
更に、隣のサーニャが範子の言葉を疑わず、勿体ないと思って楽人のアイスに手を伸ばす。
(どうせなら…)
楽人にはサーニャに危険が及ばない限り、彼女の善意を止める選択肢は無い。
彼はスプーンでアイスを掬うと、サーニャの口元に差し出した。
「サーニャ、はい、あーん」
ピシャーンッ
その時、見ていた人たちに電流が走った。
「まさか人前で…」
貴巫女は驚愕した。
既に自分のアイスを食べ終わって、後は何の憂いも無く過ごせると安心し切っていた矢先に、それを見せつけられた衝撃は大きい。
「伝説の、男性からの『はい、あ~ん』をこの目で見る日が来ようとはっ!」
料理を運んだ帰りのウェイトレスがリアクションに混ざった。
「あーしと言うものがありながら…………………………サーニャんの浮気者っ☆」
「えっ?! そっち!?」
範子が話にオチを付けると、ウェイトレスが真顔になって彼女を振り返った。
はむっ
サーニャはそんな彼女たちを気にも留めず、楽人のスプーンに食らい付いた。
「美味しいです♪」
頬に片手を当てて美味しそうに咀嚼した後、手元のカップを持って、残り少ないアイスをスプーンで掬って楽人に差し出した。
「今度はわたしの番です♪ はい、あ~ん♪」
ピシャーンッ
再び範子たちに電流が走った。
「あーん……んむんむ……そっちもフルーツの酸味が利いてて美味しいな」
「はいっ♪ まだありますね。あ~ん…」
二人はお互いのアイスが無くなるまで、『はい、あ~ん』の応酬を繰り返した。
ウェイトレスは途中で我に返って、
「いいなぁ…」
と呟きながら仕事に戻っていくのだった。




