ランチ:料理
注文から数十分後。
注文した飲み物が無くなり、水も減り始めた頃、料理が到着し始めた。
「有機野菜サラダと熟成玉葱ドレッシングになります」
大きめの皿に夏野菜が盛られていた。
有機野菜の欠点である色や形のバラつきが、カットと盛り付けで、逆に色鮮やかな芸術品に仕立てあげられている。
「トマト甘っ☆ ゴーヤにがっ! ピーマンいらない」
「このドレッシング、何にでも合います♪ キュウリ♪ ナ~ス♪ カボチャ♪ …」
二人があまり食べないピーマンやゴーヤは、楽人と貴巫女の口に入った。
「パルマ産の生ハムサラダになります」
生ハムが巨大な花のように盛られていた。
熟成された朱色のハムが一枚一枚花弁のように盛られ、下に敷かれたレタスやホウレン草などがその葉っぱのように見える。
「しょっぱ! 水、水!」
「変わった風味ですねえ。美味しいんですけど塩気しかしないです…」
「そういう時は野菜と一緒に食べなさい。イタリア料理、特にハムは塩分が強いの」
濃い味付けと消化のしやすさで、パンと一緒にあっという間に無くなった。
「イタリア産チーズの盛り合わせになります」
イタリアを代表する三種のチーズが、一口サイズにカットされて小皿に三列で並んでいた。
見るからに硬そうなパルミジャーノ。
青カビが不規則な模様を作るゴルゴンゾーラ。
非熟成の柔らかそうなモッツァレラ。
「ウマウマ☆」
「三つ一緒に食べてもいいんですね。わたしもやってみます♪」
「須磨君はパルミジャーノが好きなの?」
「気分」
小さなチーズたちは、次の料理が到着するまでの箸休めとなった。
「手長エビとムール貝のリゾットになります」
トマトベースのオレンジ色が眩しいリゾット。
ジャガイモやインゲンを中心に、細長いムール貝と手長エビが競うように円を描いている。
「三つしかないです…」
「俺は炭水化物を貰うから、好きに食べていいぞ」
「この貝中身ちっさ☆ でも旨味ギュッて感じ☆」
「殻もカリカリで味が染みてるわね」
エビと貝は女性陣の、リゾットは主に楽人の胃袋に消えた。
「真鯛とアサリの白ワイン蒸しになります」
アサリとプチトマトの海を、剥き身のエビが泳ぎ、真鯛の切り身が雄大に踊る、狂った水の名に恥じない姿。
上にチョコンと乗ったレモンの輪切りが太陽のようだった。
「これまた魚介類の旨味が凄いなぁ…」
「骨が無くて食べやすいです♪」
「それな☆ ずずぅ~」
「範子、イタリア料理でスープは啜らないで」
日本でも人気の定番料理は、彼らにも好評だった。
「カルボナーラとボロネーゼのマリアージュになります」
皿の上に白と赤、二つの渦潮があった。
一見普通のパスタには、カルボナーラにはツナと微塵切りにされた玉葱が、ボロネーゼには薄く切られた茸とイカが見え隠れしている。
「ミートソースじゃないんだな」
「混ぜるなら自分の取り皿で混ぜてね……って範子! 言ってる端から…」
「めんごめんご☆」
「ひゃっ」
「どうしたサーニャ?!」
「舌がピリッとしました…」
「胡椒めっちゃかかってるもんね」
白と赤のマダラ色になったパスタは、彼らの取り皿もマダラ色に染めた。
「…マルゲリータ・ピッツァになります」
ウェイトレスは詰まらなそうに言った。
トマトとチーズにバジルの葉が載った、ド定番のピッツァ。
生地は外はカリカリ中は柔らかのナポリ風。
「やっぱ普通」
「定番料理が普通で無かったら、俺が泣く」
「もっきゅもっきゅ……定番だと何かあるんですか?」
「SNS映えしないくらいのものよ。この店にそれを求めてる人なんて居ないでしょうに…」
次の料理を持って来たウェイトレスが、その意見に不服そうだった。
「牛ヒレに季節のフルーツソースのカルパッチョになります」
大皿の上に薄くスライスされた一口サイズの生肉が、螺旋状に並べられていた。
肉は白い脂肪が木目状に入っていて美しく、皿の中央には付け合わせの野菜が、休火山のように青々と佇んでいる。
「はにゃ?! ウマっ、ウマっ、ウマっ…」
「ソースがさっぱりしていて、いくらでも食べられそうです♪」
「…もう一皿頼む?」
「いや、全部来てからでも遅くない」
カルパッチョは日本だと生魚を使うイメージも強いが、本場の肉は味付けが一味違った。
「ホタテ、エビ、アサリ、イカのペスカトーレになります」
魚介類がこれでもかと織り交ぜられたパスタが、横長の皿いっぱいをうねるように盛られている。
先程のカルボナーラやボロネーゼと違って、魚介類がメインの正にシーフードパスタ。
同名のピッツァもある。
「まるで荒波に飲まれる魚たちだな」
「ヤバっ! 助けてあげないと! あーしはホタテと、エビと、ホタテと…」
「一つずつにしなさい」
「ガクト、全部食べてもいいですか?」
「好きなだけ食べていいぞ」
今日の注文唯一のホタテは大人気で、楽人の口には入らなかった。
「香草チーズ盛り沢山のピゾーロ・ピッツァになります!」
ウェイトレスは何故か嬉しそうに目を輝かせながら料理を提供した。
一見するとチーズしか載っていない地味なピッツァ。
しかし、生焼けの生地にモッツァレラチーズやトマト、野菜やソーセージなどを詰めて二度焼きしたそれは、切れ目を入れると酸味と甘みの混じった芳しい香りがした。
「ここに来て更に食欲を刺激する香りとは……やるなあ」
「負けませんっ♪」
「そろそろキャパい…」
「はい、お水」
サーニャが二枚目のピッツァに取りかかろうとした時、料理を置いたウェイトレスが戻る前に確認をした。
「デザートも直ぐにお持ちしましょうか?」
楽人たちは顔を見合わせた。
序盤から飛ばした範子の胃袋は限界に近く、少しお腹を押さえている。
しかし、同じく飛ばしっぱなしのサーニャは平然としていて、ピゾーロは彼女一人でも十分と掛からず、その胃袋に消えると思われた。
「十分後にお願いします」
「畏まりました」
楽人が代表して答えると、ウェイトレスは畏まって頭を下げて下がり、ピッタリ十分後に戻って来た。




