初デート:朝
須磨楽人は居間のソファに座って物思いに耽っていた。
今日は日曜日。
彼の下にサーニャ・アンティノーマが現れて以来、初めての週末。
外に出られない彼女は、彼と一日中一緒に居られる週末をずっと楽しみにしていた。
無論、彼も楽しみにしていた。
けれど、彼は一昨日の事件で、肉体よりも精神的に疲れて帰って来た。
だから彼は、初めての外出で、彼女に気を遣わせることを危惧した。
だから彼女は、自分のために、彼に無理をさせることを厭んだ。
その結果、二人は昨日、家で一日中、一緒にダラダラして過ごした。
「お待たせしました」
おめかしを終えたサーニャがリビングに入って来た。
いつも通り、楽人の母親の古着だったけれど、今日は一段と気合が入っていた。
派手さは無いが、清潔感と仕立ての良さを感じさせるワンピースに、落ち着いた色合いのストールを首に巻いて肩に掛け、頭には白い鍔広帽子を被っている。
普段は化粧をしない彼女も、今日は母親にナチュラルメイクを施されていた。
くるりんっ
「どうですか、ガクト?」
サーニャがスカートの裾を少し持ち上げて、楽人の前で一回転してみせた。
遠心力でスカートが翻り、重力に引かれてフンワリと落ち着く。
宛ら、映画のワンシーンのようだった。
ストールとスカートの下で、肩甲骨と尾てい骨の辺りが、微妙に盛り上がっているけれども、そこに羽や尻尾があると知らなければ、肉付きが良いとしか思えないだろう。
「かわいい」
「キャーッ♡」
楽人が素直な感想を述べると、サーニャはその豊かな胸元で握り拳を作り、飛び跳ねながら喜んだ。
「お義母様~♪ ガクトに褒められました~♪」
サーニャはパタパタと可愛い足音を立てて、母親へ報告をしに行ってしまった。
楽人はその姿を見送りながら、胸の奥にモヤモヤした気持ちが湧き上がるのを感じた。
(まさか、最初に嫉妬する相手が母さんになるとは……)
嫉妬するなら父親だと思っていた彼は、現実に打ちひしがれた。
「――楽人は準備は終わっているか? 忘れ物は無いか?」
サーニャと入れ替わりに、父親がリビングに入って来てソファーに座った。
その服装は「休日のお父さん」のイメージそのものだったが、大人の余裕を感じさせる態度と相俟って、それなりに決まっていた。
「うん、大丈夫だよ父さん」
彼らは今日、親子でダブルデートに出掛ける。
元々は、楽人とサーニャの二人きりの予定だったが、一昨日の話を横で聞いていた母親から、ダブルデートを提案された。
思う所のあった彼は、休日の父親を付き合わせることは気が引けたが、母親の好意に甘えることにした。
妻にべた惚れの父親は、息子以上に乗り気だった。
「お待たせ、あなた」
サーニャが母親の手を引いてリビングに戻って来た。
母親もサーニャに負けず劣らず、気合の入った装いだった。
ボレロとフレアスカートのセットは落ち着いた雰囲気で、ボレロの下に着た白いブラウスが良いアクセントになっている。
化粧もしっかりしていて、普段よりも更に若く――音無静香と同年代に――見える。
「綺麗だよ、真理」
父親がソファーから立ち上がって手を差し伸べ、母親が微笑みながら自分の手を乗せる。
絵になる二人の姿に、サーニャは羨ましそうに見惚れた。
「そろそろ行こうか」
父親に言われて、楽人もソファーから立ち上がってサーニャに手を差し出すと、彼女は嬉しそうに腕を絡めて抱き着いた。
照れた楽人は頬を少し赤らめ、両親が彼らを温かい目で見る。
二組のカップルは、繋がったままリビングを後にした。
初デート(親同伴)




