番外編:バッドエンド
カーンカーンカーンカーンッ
街中にサイレンが鳴り響く。
《月凪市に【七災厄】警報が発令されました! 近隣住民の皆様は慌てず、騒がず、黙って死んでください! 下手に抵抗をしたら他の人たちの迷惑ですっ!!》
月凪市のパトカーや消防車が、サイレンを鳴らして市中を走り回り、スピーカーで近隣住民への無抵抗の死を要求して周る。
人々はその言葉を無視して、我先にと逃げ惑った。
市内だけではなく、近隣の市町村も阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
何故そのような事態に陥ったのかと言うと、時は十数分前に遡る……。
「――ガクト、その人誰?」
露出度と可愛さを両立させた原作衣装に身を包み、独特の形をした2メートル近くもある杖を持った可憐なる美少女、サーニャ・アンティノーマは泣きそうな顔で、恋人を見下ろして尋ねた。
「サーニャ、落ち着いて話を聞いてくれ」
その恋人、須磨楽人は努めて冷静に、彼女を見上げて諫めた。
場所は月凪市の街中。
彼は女教師、音無静香のために、一緒にユントロを探している最中だった。
彼の隣では、静香がサーニャを見上げて震え、彼の腕にしがみ付いた。
「その人誰?」
サーニャはもう一度尋ねた。
彼女は小さな羽を申し訳程度に動かしながら、宙に浮いている。
当然だ。
彼女は魔族の長なのだから。
【リアライザー】――それは虚構が現実化した存在。
拳を振るえば大地が割れ、呪文を唱えれば稲妻が走り、スキルを念じれば死体が起き上がる。
人々の妄想がそのまま現実となったそれは、正に災厄そのもの。
その中でもサーニャは七災厄の一つに数えられ、世界中から警戒されている存在だった。
「落ち着け、サーニャ。俺は音無先生の【リアライザー】を一緒に探していただけだ」
ユントロが姿を消した。
それを探していたこと自体は嘘ではない。
しかし……。
「じゃあなんで、その人は服を着ていないの?」
サーニャがゆっくりと杖を持っている手を持ち上げ、杖の先で音無静香を指した。
静香が着ている服は、原型を留めていない。
ユントロを探している最中、今の世界に自棄になった暴徒から襲われたせいだった。
「俺じゃない」
楽人はゆっくり首を左右に振って、サーニャの勘違いを否定する。
「じゃあなんで、ガクトに抱き着いているの?」
楽人は言葉に詰まった。
サーニャに怯えたからなどと、言えるはずも無い。
彼女はその反応を、事実と受け取った。
「――ガクトが浮気をするなら、もう世界を滅ぼして一緒に死ぬしかないじゃないっ!!!!」
サーニャは泣き喚きながら両手を上げて、空高く上昇して行く。
両手で持った杖の先に、虹色の輝きが集まっていく。
パキンッ
その遥か上空、成層圏で渇いた音がして、空中にヒビが入った。
パキパキパキパキンッ
ヒビ割れは瞬く間に広がっていき、空中に巨大な穴を穿いた。
穴の先は宇宙に繋がっている。
太陽の陰になっているお陰で、穴の奥で宇宙が夜空のように煌く姿が見える。
その穴の彼方から、無骨な岩の塊が迫って来た。
やがて、岩の塊は穴を抜けて、地球上に姿を現し始めた。
――デッドエンド・インフェルノ。
星々の世界から隕石を召喚して地上に落とし、辺り一面を衝撃と業火で破壊し尽くす、サーニャ・アンティノーマ最強の魔法。
既に、彼女はその力を一度見せている。
彼女が【リアライズ】したその夜、楽人が彼女の力を知りたがったので、彼女はその力を火星に向けて解き放った。
火星上空に空いた穴から隕石が射出され、その日、火星は宇宙の藻屑となった。
彼女はその結果を以て、国際連合に【七災厄】の一つとされたのである。
彼女が火星を選んだのは、単純に人の裸眼で見える最大の物だったからに過ぎない。
それが昼間であれば、彼女は(いつも通り)何も考えずに太陽を選んでいただろう。
楽人は空を見上げた。
サーニャが何よりも優先される彼に、彼女を止める言葉は無い。
空に空いた穴から、隕石が徐々にその姿を現していく。
隕石がその巨体を現すに従って、空の裂け目も際限無く押し広げられていく。
既にその姿は地球よりも大きい。
しかし、地球はその重力に引かれない。
地表の生き物も、自然も、人工物も、隕石の重力の影響を受けない。
何故なら、それは虚構から生まれた超常現象だから……。
音無静香は恐怖と絶望で顔をぐしゃぐしゃにしながら失禁した。
楽人にしがみ付く手から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
サーニャはそれを見て満足そうに頷いたけれど、彼女に魔法を止める気配は無い。
そして――
――その日、地球は直径十万キロメートルを超える隕石の衝突に因って消滅した。
凡ゆる生物ごと地球が消え去った宇宙で、サーニャ・アンティノーマは、物言わぬ無傷の躯となった須磨楽人を抱き抱えて呟いた。
「……次は誰にも渡さないから……」
(*´ω`*)「嘘です。設定通りの力なんて与えるものじゃないですね」




