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カラオケ:デュエット

「次、綾波さんだよな?」


 楽人は貴巫女にマイクを差し出した。

 しかし、彼女はそのマイクを受け取ると、直ぐにサーニャに差し出した。


「?」


 サーニャは不思議そうに小首を傾げながらも、素直にマイクを受け取る。


「デュエットしましょう」


 貴巫女はそう言うと、自分は隠していたマイクを取り出して開封した。

 最初はマイクを一本隠して、範子と楽人の自然な手渡しを期待していたが、このままではそれは難しいと判断して作戦を切り替えた。


「え~と……はいっ♪」


 サーニャは少し戸惑った後、嬉しそうに返事をした。

 彼女とて、デュエットは初めてではない。

 前回、家族で来た時、楽人の両親がデュエットするのを見て、彼女もやりたがって楽人と歌っている。


「おっ、もうデュエットやんの?☆ やっちゃうの?☆」


 範子が貴巫女とサーニャを交互に見て目を輝かせる。


「やっちゃいます♪」


 サーニャは嬉しそうに答えて立ち上がる。


 ~♪ ~~♪ ~♪ ~~♪


 イントロが流れ出す。

 液晶モニターの端には、デュエット採点を示す表示も現れた。


 ――“トップをめざせ~Plus Ultra~”

 昔のスポコンロボットアニメの挿入歌だ。

 挿入歌でありながらテーマソングよりも知名度が高く、作品共々、今尚根強い人気を誇っている。


「歌い出し、サーニャさんが先でいい?」

「はいっ♪」


 いつの間にか立ち上がっていた貴巫女が、サーニャに担当パートの確認をした。

 サーニャは返事をすると、マイクを両手で握ったまま、瞳を閉じて天を仰いで深呼吸をする。


 そしてイントロが終わる瞬間、顔を下ろして瞳を開いた。

 …初めて聞いた曲だったのにも関わらず。


《くじけちゃうの~♪ だ~めなあたし~♪》


 完璧なタイミングだったにも関わらず、やはりサーニャの歌は、音程が微妙に合っていなかった。

 液晶モニターに表示される文字の色が変わる。

 歌い手の交代だ。


《みんなーお~なじ~♪ は~じめはそう~♪》


 対する貴巫女の歌は、至って無難。

 けれど自分のパートが終わる瞬間、少しテンポを上げた。


《とても~♪ で~きないのー♪》


 それに釣られて、サーニャが自分の番を理解してタイミング良く続けた。


《自信をもってーっ♪》


 貴巫女は自分の歌い出しも、サーニャを慌てさせないように、彼女が歌い切ってから歌い始める。


(リードが上手いっ! これが本当に初めての相手とのデュエットなのかっ?!)


 楽人は貴巫女の歌唱力以上の技術に驚愕した。

 性格も何もかも違う範子の初めての親友は、伊達では無いのだ


《瞳閉じて……祈るようにっ♪》


 範子は二人を見ながら、何も考えずにノリノリで拳を振っている。

 楽人は貴巫女に嫉妬すら覚えつつ、今後の参考にしようと思い、貴巫女とサーニャの一挙手一投足を見逃すまいと真剣に鑑賞した。


《夢をすーてないでっ♪ あーゆーみっ、つーづーけるのっ♪》

《胸にだーきしめたっ♪ おーもーいっ♪ かーなうまでっ♪》

《《RiseOn! RiseOn! RiseOn! RiseOn! RiseOn! ――》


 最後を意識したサーニャが、初めて歌っている最中に液晶モニターを背にして、


《《――RiseOnっ!!》》


 …貴巫女と一緒に歌い切った。


 ……パチパチパチパチ


 少しの間があって、たった二人の観客から拍手が始まった。


「二人とも神ってた!」


 範子は貴巫女とサーニャに思いつく限り最高の賛辞を送った。

 貴巫女の親友であり、彼女が初めての相手とデュエットする姿を何度も見て来た範子から見ても、今のデュエットには心揺さぶられるものがあった。

 それは歌っていた当人にしても同様で、


「貴巫女さんっ! 凄いですっ! よくわからないけど凄いですっ!」


 サーニャは初めての歌なのに気持ち良く歌えて、その理由を理解できないながらも、貴巫女のお陰だと感じて感謝した。


「ふふっ、サーニャさんもよく合わせてくれました」


 貴巫女も満更では無さそうで、テーブルにマイクを置くと、サーニャに両手の平を向けて伸ばした。

 サーニャが不思議そうにしながらも、同じようにマイクを置いて手を伸ばすと、貴巫女は両手を突き出して彼女の手に当てた。


 ぱぁーんっ


 小気味良い音が密室に響き渡る。

 サーニャが目を見開き、今度は彼女から手を当てた。


 ぱぁんっ


 音は少し鈍かったけれど、サーニャは満足そうに笑い、二人は笑顔で椅子に腰を下ろした。


「サーニャ、お疲れ。最高だった」

「――っ」


 楽人がサーニャを笑顔で労うと、彼女は彼に抱き付いた。

 楽人は片手を彼女の背中に回し、もう片手で頭を撫でてやる。

 そんな二人の時間を咎めるように、液晶モニターが効果音と共にやっと採点結果を表示した。


 ダラララララ~~~~~~ッ…ダンッ!


《63点》


 サーニャが先ほど歌った時よりも点数は低かったが、これは彼女にとって初めての曲でのデュエット。

 貴巫女のリードの巧さが引き出した点数だった。


《相性点4.108》


 デュエット採点の専用項目、相性点。

 10点満点で、二人の評価が近いほど高得点になるもの。


(あれって同レベルだと高得点になるけど、お互いの欠点を支え合う二人だと低くなるんだよな……うちの両親とか)


 楽人は前回のカラオケを思い出した。

 その時は、両親は初めてのデュエット採点で見事に相性点1点台を獲得。

 険悪な雰囲気になりかけたので、楽人が採点基準を調べて二人を宥めた。

 良い思い出である。



 * * *



「うっし! 次はあーしたちの番っしょ」


 範子はテーブルの上から二本のマイクを持って立ち上がり、対角線上に座る楽人に片方を差し出した。


「わたしもガクトと歌いたいですっ!」

「サーニャさんは私と歌ったばかりだから、少し喉を休めた方がいいわ」

「あう~…」


 サーニャは貴巫女に諫められると、渋々引き下がり、抱き着いていた楽人から離れた。


 …そう、これこそが貴巫女の策略。

 自分がサーニャとデュエットを歌うことで、次に範子と楽人をデュエットさせ、明日明後日の勉強のモチベーションを大きく稼がせる完璧な作戦。


(…まあ仕方ないか)


 楽人は熱唱したばかりのサーニャを気遣って、自分のペットボトルを彼女に差し出す。


「休んだらサーニャの番な。それまで休んでてくれ」

「うんっ♪」


 サーニャが素直に頷いて、受け取ったスポーツドリンクを美味しそうに飲む。

 それを見た貴巫女は心の中で舌打ちをしたが、当の範子は気にしないで歌う準備をしていた。


 ~~♪ ~~~~♪


 流れて来たイントロは、楽人が少し前に歌った“聖なる孤独な光”だった。


「俺がさっき歌ったやつ?」

「おん。デュエット曲だったからこれにした☆」


 楽人は言われて初めてデュエット曲だと気付き、液晶モニターを見てみると、確かにデュエット曲の表記が出ている。

 話している間にイントロが終わってしまい、楽人は慌てて歌い始めた。


《…24時間~♪》


 ――その後は、済し崩し的にデュエット祭りになった。


 まず楽人は範子と熱唱した後、対抗意識を燃やしたサーニャと同じ曲でデュエットを熱唱。

 更に貴巫女からも「ついで」と言い張られて、同じ曲をデュエット。


 三連続で同じ曲をデュエットした結果、何故か、貴巫女の相性点が一番高いという異常事態が発生。

 納得できないサーニャと範子が、競い合うようにデュエット曲を入力してデュエット祭りと化すのだった…。

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