カラオケ:楽人
~~♪ ~~~~♪
次の曲のイントロが流れ出した。
超次元要塞マシロス6の挿入歌の一つ、“聖なる孤独な光”だ。
「はいっ」
サーニャが迷いなく、楽人にマイクを差し出す。
「ありがと、サーニャ。…さてと、俺も続きますか」
楽人はマイクを受け取って立ち上がった。
「待ってましたっ☆」
「お手並み拝見させてもらいましょう」
範子が囃し立て、貴巫女が煽る。
楽人は彼女たちに軽く手を振ると、液晶モニターの歌詞を見ながら歌い出した。
《な~にぃが本当かっ、なにが嘘か~♪》
彼の歌は普通だった。
上手くも下手でも無く、敢えて評価するなら几帳面。
音程と安定感は申し分ないけれど、表現力はどうかと尋ねられたら、十人中十人が首を傾げるレベル。
下手なのでは無く、あまりにも普通……無難なのだ。
《わからないー、時もある~♪》
「キャーッ♪ キャーッ♪」
しかし、無難な歌にも関わらず、サーニャは黄色い歓声を上げて大燥ぎ。
「須磨っちーーーっ☆」
最初は反応に困っていた範子もサーニャを見て吹っ切れ、まるでライブみたいに歓声を上げ始めた。
《失われた答ぁえをっ♪ 見ぃつけ出せぇ~♪》
「失われたぁ答えをっ♪ 見ぃつけ出せぇ~♪」
「失われた答ーえをっ♪ 見ーつけ出せぇ~♪」
終いにはサーニャと範子もマイク無しで歌い始めた。
「!」
それを見て貴巫女は脳裏に名案が閃き、タブレットに選曲を入力した。
《――振ぅり向くなっ!》
~♪
最後、少しフレーズを残して楽人の歌唱が終わった。
パチパチパチパチ
「ガクト、よかったです♪」
「ありがとう」
楽人は目を輝かせっぱなしのサーニャに礼を言いながら、椅子に腰を下ろした。
「須磨っちサイコー☆ 結婚してーっ☆」
「あげませんっ」
サーニャは範子を警戒して、楽人の腕に抱き付いた。
貴巫女は彼女の警戒を緩めるべく話題を振る。
「須磨君はロックが好きなの?」
「そういう訳じゃないけど、親友の影響かな」
「…そう」
貴巫女は“眼鏡オタク”を思い出して言葉を濁した。
「えええええぇっ?!」
範子が突然大声を出して驚いた。
貴巫女たちが彼女の方を見ると、彼女は液晶モニターを見ている。
《72点》
液晶モニターには先程のサーニャと同じ点数が表示されていた。
「お揃いですぅ♪」
サーニャは一瞬目を丸くして喜び、楽人の方を振り向く。
「そうだな」
楽人も嬉しそうな顔で、彼女に微笑み返した。
(まさか狙ったの?!)
貴巫女は楽人の表情の中に小さな安堵を見抜いて絶句した。
――通常、カラオケで同じ点数を狙うことは難しい。
採点が厳密なD・A・Mであっても、それは変わらない。
サーニャのように極めて特殊な歌い手には、似せるという手法も使えない。
楽人は初めてサーニャの歌を聞いた時、その特徴に気付いて考えた。
彼女と気持ち良く歌うにはどうすれば良いか?
その時、先に歌った彼の高得点を、彼女は手放しで褒めた。
しかし、今後、彼女が中々上手くならなかった場合にどうなるか…。
そこで彼が選んだ答えは二つ。
一つは、歌う曲ごとに、点数に落差を付けること。
好きな曲でも点数になるとは限らないと、彼女に客観的な理解をさせるためだ。
もう一つは、点数の微調整をすること。
採点形式を調べた彼は、表現力を無難にこなしつつ、音程や安定感で微調整をした。
そして今回はサーニャに近い点数を狙い、それがピッタリ嵌ったわけである。




