カラオケ:サーニャ
~~~♪ ~~♪ ~~~~♪
そうこうしている内に、次の曲のイントロが流れ始める。
液晶モニターに表示されたタイトル名は、
「わたしの曲です♪」
サーニャが勢いよく立ち上がって、範子から受け取ったマイクを両手で握った。
――“A-gartha”
絶望的な世界で理想郷を追い求める少年たちを描いたアニメの、初代テーマソングである。
《ぼくら~っは♪ めざしたぁ~♪ Al-gar~tha♪》
範子とは逆に、派手な振り付けは無い。
声量が特別ある訳でも無い。
けれど透き通って心に響く、美しい歌声だった。
但し…
「…須磨っち」
範子はテーブルから身を乗り出し、斜め前に座る楽人を物言いたげな目で見つめた。
楽人が手の平を上に向けて言葉を促す。
「…………………………独特だよね?」
範子は必死に考えた末、オブラートに包んだ無難な一言だけを口にした。
そう、サーニャの歌唱は独特なのだ。
声は綺麗だし、聞き心地も良いし、耳にも残るけれど、微妙に音程が合っていないのである。
原作で音痴という設定は無いのだが、最強専用呪文の気の抜けるような掛け声が反映されたのか、音程が絶妙に合っていない。
だから安定感があって表現力も高いのに耳に障る。
《幻想~にっ、まみれ~た~♪ 幸~せを求めっ、続け~た~♪》
サーニャは液晶モニターの歌詞を見ながら、気持ち良さそうに表現力溢れる静かな熱唱を続ける。
彼女の半端ではない感情の込め方を見て、範子はふと疑問に思って小声で尋ねた。
「サーニャんのゲームってこんな話?」
「…逆。楽園を目指すと言うより、障害を全て排除して理想郷を作るタイプ」
「ぱねぇ…」
楽人はかなりオブラートに包んで答えたが、範子はドン引きした。
実際の“ミレニアム戦記”は客観的に見ると、主人公の皇子が世界中に首を突っ込んで武力解決して女と国を支配していく内容。
綺麗ごとで誤魔化しているが、やってることは完全に悪の帝国の世界征服。
宗教も自力で楽園を目指すものではない。
「なんでだろうね…」
「わからん…」
範子と楽人は考えることを放棄した。
《とどかぬっ♪ とおきっ♪ ひぃびーーーーーーーーーーっよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!》
サーニャの何処にそんな肺活量があったのか、と思わせる長大なロングトーンを歌い切って終わった。
終始熱唱していた範子には無い驚きに、場が静まり返った。
パチパチ…
最初に拍手をしたのは、彼女とカラオケに来たのが初めてでは無い楽人。
パチパチパチパチ
範子と貴巫女も続いた。
「サーニャん、マジ、エモかったよ!」
「素敵な歌声だったわ」
「ありがとうっ♪」
サーニャは友達に褒められたことが嬉しくて素直に喜ぶと、一番感想を聞きたい相手の顔を見た。
「サーニャ、可愛かった」
(それって、歌の感想でなくない?)
(それって、歌の感想なの?)
範子たちは楽人の感想を訝しんだが、
「えへへ~♪」
当の本人は両手を頬に当てて嬉しそうに照れながら、彼の横にぴったりくっ付いて座った。
「あれ? 採点遅くね?」
「そうね。機械の故障かしら?」
範子が疑問を口にすると、貴巫女も首を捻った。
しかし、楽人は気にしておらず、サーニャも黙って、採点が表示されるのを心待ちに液晶モニターを見つめている。
(前回もだったしな)
前回、楽人たちが家族でカラオケに来た時も、何故かサーニャの採点だけ表示に時間が掛かった。
店員に伝えて別の部屋に移っても変わらず、最終的に店長から「時々そういう人も居る」と言われて諦めたのだ。
ダラララララ~~~~~~ッ…ダンッ!
《72点》
範子と貴巫女が訝しむ中、普通より数十秒遅れて、液晶モニターに採点結果が表示された。
「ガクトっ! やりましたよっ! 最高記録ですっ♪」
サーニャが楽人の手を掴んで大燥ぎをする。
「やったな」
「はいっ♪」
楽人も満面の笑顔で喜び、二人は妙に盛り上がった。
採点は概ね音程・安定感・表現力で決まる。
サーニャは気持ち良く歌っているだけなので、音程の評価が絶望的な彼女にとって、採点の精度が高いD・A・Mで70点越えは奇跡に近かった。
「ま? サーニャん記録おめっ☆」
「おめでと」
「ありがとうです♪」
陽気に祝う範子に反して、貴巫女は無難に済ませて内心でぼやいた。
(範子にはもう少し考えて欲しいものだわ)
無論、範子の言葉に裏は無い。
しかし、それをどう取るかは相手次第。
もしサーニャが機嫌を悪くすれば、楽人の気分も悪くなり、範子の気分も悪くなることは目に見えている。
パパ活のプロとしては、もう少し慎重になって欲しいと思うのだった。




