↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/207

規模縮小

 時間は数日遡る。


『――【リアライザー】の戸籍登録に関わる審査の開始から一か月が経過しました。審査が順調であることを受け、当初の予定通り、本日から全国的に審査会場の規模が縮小されております』


 テレビでニュースキャスターが事務的な説明をした。


「思ったより早かったなぁ」


 8月も終わりが差し迫った、ある日の朝。

 少し遅めの朝食を食べていた楽人は、テレビを見ながら呟いた。


「そうですねえ」


 隣に座るサーニャも、ハムエッグに醤油を掛けながら相槌を打った。


 チンッ


 トースターが小気味良い音を立てて焼き上がりを主張する。


「はい、楽人」

「ありがとう母さん」


 楽人は母親からトーストを受け取って、マーガリンを塗り始めた。

 食卓に父親の姿は無い。

 今日は仕事が休みで、出掛ける予定も無いので、まだ寝ている。


『――現場の卯月さん、お願いします』


 ニュースキャスターがそう言うと、カメラに映像が切り替わる。

 今日の現場は、久しぶりに月凪駅前だった。


『――はい、こちら現場の卯月です。市役所へ向かう道は、今日も【リアライザー】と【共生者】が並んでいます』


 この番組の顔、美人すぎる女性リポーターが実況を開始した。


『それでは通行人にも聞いてみましょう。…今日から【リアライザー】の戸籍審査の規模が縮小されますが、どう思われますか?』

『えっ? マジ? 気付かなかったわ…』


 リポーターが駅に向かう若い男性に声を掛けると、相手は驚いていた。

 他にも、


『――行列減ってなくない?』


 と通りがかりのギャルが訝しんだり、


『――どうりで見物人が減ったと思った』


 と開店準備中の店員が納得したり、


『――明日からじゃなくて?』


 と並んでる当人が尋ね返したり、


『――やっぱりそうよねえ。そうじゃないかと思ってたのよ。と言うのも…』


 と訳知り顔のおばちゃんが語り始めたり、


『――夏休みも終わるから、そろそろ見物も終わりにしようと思ってたところだ』


 と眼鏡の男が格好を付けたりする様子が放送された。


「ガクトっ! 今のってテヅカさんじゃないですか!?」


 サーニャはテレビに見知った顔を発見して燥いだ。

 当の手塚は、インタビューが終わって直ぐに、眼鏡を掛けた一般人を目で追っている姿がテレビに映っていた。


「そうだな(…あいつ、何やってんだよまったく…)」


 楽人は親友のブレない眼鏡愛に呆れて、食べる手が止まった。


 ――【リアライザー】の戸籍登録が始まって、昨日で丁度一か月になる。

 政府が公表している、その間に審査を受けた人の数は約39万人。

 承認された人は、その内37万人。

 目撃例などから世間で噂されている、人工の1%説には遠く及ばない。


 これは審査が追い付いていない訳では無い。

 政府は一か月以内の審査完了を想定し、十分に余裕をもった体制を作って審査を行ってきた。

 その証拠に、連日一定のペースで審査が行われ、どの会場でも審査が滞ったという話は出てこない。

 反面、審査に並ぶ人間は徐々に減っており、一か月が過ぎた今では、もう定時まで並んでいる市役所は無い。

 つまり、審査を申請する人間が、目撃数に反して少なかったのである。


「それにしても、審査体制の縮小かぁ…」


 楽人はどうでも良さそうに呟くと、冷めて硬くなったトーストに齧りついた。


「ごちそうさま。市役所の人たちも、【リアライザー】だけに構っているわけにも、いかないでしょうしねえ」


 母親は一足先に朝食を食べ終わり、席を立って食器を流し台(シンク)に置きに行った。


「なんで審査を受けないんでしょうねえ…?」


 サーニャは大皿に残っているスライスされたキウイフルーツを摘まむと、口の中に入れて酸っぱそうに目を細めた。


「色々あるんだろうな。目立ちたくないとか、必要性を感じないとか、優柔不断とか」

「そういうものなんですね~」

「そういうものなんだろうなー」


 サーニャは何となく納得し、楽人は何となく相槌を打った。


(実際はもう少し複雑だけど)


 彼が想定した審査を受けない理由は、元々六つに分けられていた。


 一つは、相方が慎重で、並んで目立つことを恐れて様子を伺っている場合。

 一つは、相方が怠惰で、審査に長時間並ぶ価値を見出せない場合。

 一つは、相方が気弱で、必要に迫られるまで動けない場合。

 一つは、相方に後ろめたいことがあり、同類の成功例待ちの場合。

 一つは、【リアライザー】が既に死んでいる場合。

 一つは、【リアライザー】が国外に売り飛ばされている場合。


 後ろ半分を口にしなかったのは、サーニャへの気遣い。


 逆に、早々に審査を受けた人間は大きく分けて二つ。


 一つは、承認欲求が強いタイプ。

 もう一つは、生真面目なタイプ。


 ヴァジュラは前者であり、音無静香は後者、アキラは【リアライザー】であるアル・ラクスが後者に当たる。


 もし彼が自身のことを問われれば、『サーニャのために認められることを望んだ、警戒心と承認欲求の中間』だと答えるだろう。

承認欲求と怠惰がツートップだと思う今日この頃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。