規模縮小
時間は数日遡る。
『――【リアライザー】の戸籍登録に関わる審査の開始から一か月が経過しました。審査が順調であることを受け、当初の予定通り、本日から全国的に審査会場の規模が縮小されております』
テレビでニュースキャスターが事務的な説明をした。
「思ったより早かったなぁ」
8月も終わりが差し迫った、ある日の朝。
少し遅めの朝食を食べていた楽人は、テレビを見ながら呟いた。
「そうですねえ」
隣に座るサーニャも、ハムエッグに醤油を掛けながら相槌を打った。
チンッ
トースターが小気味良い音を立てて焼き上がりを主張する。
「はい、楽人」
「ありがとう母さん」
楽人は母親からトーストを受け取って、マーガリンを塗り始めた。
食卓に父親の姿は無い。
今日は仕事が休みで、出掛ける予定も無いので、まだ寝ている。
『――現場の卯月さん、お願いします』
ニュースキャスターがそう言うと、カメラに映像が切り替わる。
今日の現場は、久しぶりに月凪駅前だった。
『――はい、こちら現場の卯月です。市役所へ向かう道は、今日も【リアライザー】と【共生者】が並んでいます』
この番組の顔、美人すぎる女性リポーターが実況を開始した。
『それでは通行人にも聞いてみましょう。…今日から【リアライザー】の戸籍審査の規模が縮小されますが、どう思われますか?』
『えっ? マジ? 気付かなかったわ…』
リポーターが駅に向かう若い男性に声を掛けると、相手は驚いていた。
他にも、
『――行列減ってなくない?』
と通りがかりのギャルが訝しんだり、
『――どうりで見物人が減ったと思った』
と開店準備中の店員が納得したり、
『――明日からじゃなくて?』
と並んでる当人が尋ね返したり、
『――やっぱりそうよねえ。そうじゃないかと思ってたのよ。と言うのも…』
と訳知り顔のおばちゃんが語り始めたり、
『――夏休みも終わるから、そろそろ見物も終わりにしようと思ってたところだ』
と眼鏡の男が格好を付けたりする様子が放送された。
「ガクトっ! 今のってテヅカさんじゃないですか!?」
サーニャはテレビに見知った顔を発見して燥いだ。
当の手塚は、インタビューが終わって直ぐに、眼鏡を掛けた一般人を目で追っている姿がテレビに映っていた。
「そうだな(…あいつ、何やってんだよまったく…)」
楽人は親友のブレない眼鏡愛に呆れて、食べる手が止まった。
――【リアライザー】の戸籍登録が始まって、昨日で丁度一か月になる。
政府が公表している、その間に審査を受けた人の数は約39万人。
承認された人は、その内37万人。
目撃例などから世間で噂されている、人工の1%説には遠く及ばない。
これは審査が追い付いていない訳では無い。
政府は一か月以内の審査完了を想定し、十分に余裕をもった体制を作って審査を行ってきた。
その証拠に、連日一定のペースで審査が行われ、どの会場でも審査が滞ったという話は出てこない。
反面、審査に並ぶ人間は徐々に減っており、一か月が過ぎた今では、もう定時まで並んでいる市役所は無い。
つまり、審査を申請する人間が、目撃数に反して少なかったのである。
「それにしても、審査体制の縮小かぁ…」
楽人はどうでも良さそうに呟くと、冷めて硬くなったトーストに齧りついた。
「ごちそうさま。市役所の人たちも、【リアライザー】だけに構っているわけにも、いかないでしょうしねえ」
母親は一足先に朝食を食べ終わり、席を立って食器を流し台に置きに行った。
「なんで審査を受けないんでしょうねえ…?」
サーニャは大皿に残っているスライスされたキウイフルーツを摘まむと、口の中に入れて酸っぱそうに目を細めた。
「色々あるんだろうな。目立ちたくないとか、必要性を感じないとか、優柔不断とか」
「そういうものなんですね~」
「そういうものなんだろうなー」
サーニャは何となく納得し、楽人は何となく相槌を打った。
(実際はもう少し複雑だけど)
彼が想定した審査を受けない理由は、元々六つに分けられていた。
一つは、相方が慎重で、並んで目立つことを恐れて様子を伺っている場合。
一つは、相方が怠惰で、審査に長時間並ぶ価値を見出せない場合。
一つは、相方が気弱で、必要に迫られるまで動けない場合。
一つは、相方に後ろめたいことがあり、同類の成功例待ちの場合。
一つは、【リアライザー】が既に死んでいる場合。
一つは、【リアライザー】が国外に売り飛ばされている場合。
後ろ半分を口にしなかったのは、サーニャへの気遣い。
逆に、早々に審査を受けた人間は大きく分けて二つ。
一つは、承認欲求が強いタイプ。
もう一つは、生真面目なタイプ。
ヴァジュラは前者であり、音無静香は後者、アキラは【リアライザー】であるアル・ラクスが後者に当たる。
もし彼が自身のことを問われれば、『サーニャのために認められることを望んだ、警戒心と承認欲求の中間』だと答えるだろう。
承認欲求と怠惰がツートップだと思う今日この頃




